第50話:合宿3日目②│自己主張は時に盾になり、矛にもなる。
サラはハル達3人からの戦いの申し込みを断っていた。最初から断られるとは思わなかったのか、3人はとても驚いた様子でお互いに目を配っていた。俺も正直、サラが断ると思っていなかったわけではないが………いざ断っているところを見ると変な感じだな。
「ど、どうしてですか?」
3人は納得いかない様子でサラに戦いを断った理由を聞いていた。これに対してサラは答えるのだろうか………いや、答えるだろうな。流石にそこまで教えないことは3人にとって悪影響だし。
「どうして………ですか。」
「っ………。」
急に冷徹な声を発し始めたサラに3人は息を呑んだ。実力差がある相手が圧をかけると、まさにライオンに威嚇されたウサギが体を小さく丸めて体を震わせるように、3人は下を向いてサラから目線を外した。
「あなた達の考えを改めるために、少し言い方はキツくなってしまいますが説明しようと思います。まず、私とあなた達が今戦っても得られるメリットはほぼ無いに等しい………というかありません。」
それは遠回しにサラと3人が戦っても、結果は目に見えているということを暗示しているようだった。それは3人にもわかっているようで、何も反論できずにいつまでも自分の膝を見つめていた。
「最後に1つ言っておきますが、自分の願いはほとんど叶わないと思っておいた方がいいです。願望を高く持つと、後で後悔しますからね。」
「………。」
サラは3人に厳しい言葉を放った。しかしそれは間違ったことは言っていない………というか、むしろ正しいことを言っているだろう。その言葉を3人に放ったサラはこの部屋を出ていこうとしていた………しかし、その扉に手をかけた瞬間、サラに話しかけた人物が1人いた。
「勝てるとは始めから思っていません。だけど、私たちは勝つために先生にお願いしているわけではないんです。」
「それでは一体何が目的なんです?」
サラを引き止めたのはハルだった。それに対してサラは未だその鋭く、そして真面目な目をハルに向けてサラに質問をした………これは圧迫面接か何かなのか?
「私たちはサラ先生との実力差を確認したいわけではなく、この3日間で“私たちがどれだけ成長したのか”を確かめたいんです。」
珍しくハルは強気でサラにも引き下がらず、己の意見を押し通そうとしていた。前から思っていたが、ハルとミラは時々似ているところがあるように感じる。
「自分の実力を確かめるだけなら、1人でもできるはずですが………それをなぜ私に?」
「確かに1人でもできるけど、実戦が1番成長して1番成長を感じることができる。だからこそ、サラ先生もシューファ先生も練習の時に組手を私たちとやっていたのではないですか?」
なるほどな………ハルは鋭い感覚も持っていたようだ。確かに俺は実戦形式の練習が1番実力が伸びるし、その伸び幅を自分で感じ取ることができるから、実戦形式の練習を好んでいる。そんな俺の練習をこなしていたサラもまた、同じ考えを持っているだろう。
「成長したんですね………。」
その時、サラは強ばった顔の筋肉をほぐし、いつも通りの笑顔に戻した。その瞬間、3人の周りに張り付いているようにあった鎖が解けたかのように3人はスっと肩を下ろした。
「私は納得しただけであって、手加減をするとは言ってませんからね…。お互いに全力でぶつかり合いましょう。」
『………はい!』
一瞬戸惑ってはいたが、3人は今日1番の笑顔でその返事を返した。そして早速明日、世界2位と学生トップランカーである3人がこの山奥でぶつかり合うことになる。その結果はどちらに転がるのか、俺は不安が募る反面、少し期待を寄せていた………。
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