第5話:なぜか教師になりました…本当にどうして?
「………私の負けです。」
『ウォォォオ!!』
『あの学院長に勝っちまったぞ!!』
『しかも圧倒的だったよな?』
俺がサラに勝利した瞬間、辺りは歓声に包まれた。しかし歓声にも種類はあり、俺の勝利を称賛する者も居れば、疑う者もいる、というのが事実だ。
「ありがとな、サラ。」
「えぇ、こちらこそ。………失礼を承知で聞きますが、一体あの魔法はどういった原理でなのでしょうか?」
魔導師として、相手に魔術を聞かないのは暗黙の了解という風潮ができているが、サラはそれを破ってでも聞きたいのだろう。
「魔導師としてそれを教えるのは自害と同じようなもの、と言うが………まぁいいか。まずこの魔術はどの属性にも属さない魔法……俺は無属性魔術とよんでいるが、これはその一つだ。《縮小》これはただ小さくする魔法だ。さっきのはサラの魔法を小さくした後に、俺とサラの距離も小さくした、ってだけだ。」
「そんな魔法が……!?………でも、それが本当なら先程私とシファ先生の間合いが無くなったように感じたことにも説明がつきますが………。」
無属性魔術………聞けば聞くほど信じられなくなってくる。四属性、またはその派生系以外の魔術なんて聞いたこともない。こんな魔術は1+1を0にするよりも難しいといっても過言ではないからです。
「ちなみに先生。その無属性魔術っていうのはその縮小以外にもあるのですか?」
「あぁ、全然あるぞ。逆に俺は四属性の魔術は一つも使えないからな、まぁ無属性魔術の応用でそれっぽくはできるけど…言ってしまえば猿真似のようなものだし、無属性魔術で勝てるように必然と個数も増やさないといけなかったって経緯でつくったんだ。」
これは本当の話だ。俺は小さい頃から魔力は多かったものの、魔術を全く使えなかったから、自分で魔術を編み出したんだけど………“誰かに教えてもらった”ような気もするんだよな。………それが合っていたら、それは一体誰だったんのだろうか。
「やっぱり先生はすごいですね。」
「まぁ一応王国で指南役任されてたわけだしな。これくらいはできないといけなかったんだよ。」
サラとの手合わせが終わったあと、そんな他愛もない話を話しながら歩いていた。それにしても………
「………サラ、一体どこに向かっているんだ?」
「すみません、もう着きましたよ。ここです。」
───学院長室
「学院長室!?」
サラに着いてきた先は、なんと学院長室だった。サラが学院長だから別に変というわけではないが………やはりなんか緊張してくる。
「さぁ、中に入ってください。」
「お、おう。」
そうして俺は、サラに言われるがまま学院長室の中に入り、王国にいた頃は想像もできないほど居心地のいいソファに座っていた。
………そして10数分沈黙が流れたあと、俺はしびれを切らしてサラに話しかける。
「なぁサラ、なにも用がないのにここに俺を連れてきたのか?」
「まさか、私もシファ先生だからといって何も用がないのにここに呼ぶわけないじゃないですか。」
………本当か?でもこの笑顔、なぜだか嫌な予感がする。暗殺とかそういう嫌な予感ではない、ただめんどくさくなりそうな予感だ。
「そ、そうだよな。で、話というのはなんだ?」
「それは…………シファ先生、この魔導学院の教師をやりませんか?」
サラが言ったことは、俺の想像の斜め上をいっていた。
「俺が……教師?そんな冗談を言うためにここに呼んだのか?」
人に教えるというのは王国の頃には慣れたが、あれは魔導師団という元からある程度の強さを持った者が集まるところだ。学院みたいな1から教えるのは、俺には向いていない気もする。
「いえ、本気で言ってますよ。帝国に来たばかりで、仕事も決まっていないのではありませんか?」
「いや、実は冒険者になろうと思っていたんだが…………」
「冒険者!?」
その瞬間、とても驚いた様子でサラは声をあげた。
「いや、ここ帝国じゃ1番オーソドックスな職業なんだろ?そんなに驚くか?」
まさか王国の頃に聞いていた帝国の情報はデマだったのか?
「確かに1番人が多い職業は冒険者ですけど、給料も安定はしないですし、なにより命の危険が高いです。冒険者歴一年になるまでの死亡率は30を超えるとも言われています。だから給料も安定して命の危険もない教師をした方がいいと思います!」
なるほど。確かに死ぬのは嫌だなぁ、と思う反面、ロマンも溢れる冒険者にはなってみたいという気持ちもある。確かに教師をやってみたいとも思うが………どうするべきか。
「あ!そうだ!」
悩んでいた途中、急にサラが大きな声を出した。
「ど、どうした?」
「シファ先生、冒険者と教師のどちらにしようか悩んでいるなら1回3ヶ月だけ教師をしてみて、その後辞めるか続けるか決めるのはどうでしょうか?」
サラはおためし的な感じでやらないかと俺を誘ってきた。確かにそれで決めるのは理にかなっている。
「でもそんなこと………そうか、サラはここの学院長だったな。それくらいはできるのか。」
「そうですよ。私が学院長なのをいまだに覚えていないんですか?」
「いや、覚えていない訳では無いんだけどな。やっぱり俺が知ってるサラは子供だったから、まだ現実味がなくてな。」
「それって結局、私が学院長をしているのが想定外だった、ということですよね。」
頬を膨らましながらサラはそう言う。まぁ正直なところ、俺の中ではサラがこんな重要な役職を貰っていることには驚いた。
「はは………ごめん。」
「まぁ、いいです。早速ですが、シファ先生には明日から教師をやってもらいたいと思っています。」
そうか、明日か。善は急げって言うしな………早い方がいいだろう。明日、明日…………って
「明日から!?」
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