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第2話:最強魔導師、盗賊を撃退する

───ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン


太陽が真上に昇る時間、俺──シューファは王国の過疎地から帝国へ向かう、安い木製の馬車に揺られていた。馬車が小石を乗り越えるたびにガタン、ゴトンと俺の耳に響き、木の床に伝わる振動が体を揺らす。馬の蹄のリズムと重なり、単調でありながら妙に心地よい。そのリズムに身を任せると、俺に長く重かった心の荷も少しずつほぐれていく気がする。


「……乗り物酔いには弱くて、初日は本当に辛かったな」


七年間、王国の魔導師団で弟子たちを鍛え、指導してきた日々。最年少で二十三歳にして指南役に任命され、弟子の成長を見守ることが何よりの喜びだった。しかし、王に否定され追放された今、その枷は完全に外れた。肩書も地位もない、自由だけの人生。誰の許可もなく、行きたい場所へ歩を進められる──初めて味わう感覚だった。


──『ヒヒーン!』


その時、馬が大声で鳴いた。俺は違和感を覚え、すぐに馬車から飛び降りた。

俺は首を右に左にと回し周囲を見渡すと、手に凶器を持った大人が3人、馬車を囲んでいる。


「3人か……。おい、盗賊か?」


安そうな馬車を狙う意味が分からない。もっと高価な馬車を襲えばいいのに。それでも襲われる以上は仕方ない。

「……なんだ? おっさん。変に突っかかってくんなら……殺す!!」


三人が同時に飛びかかる。俺は軽く右手を握り、魔力を圧縮して放った。


縮小レダクション


カハッ……!!

その瞬間、盗賊の3人が何かに弾かれたかのように倒れ込み地面に寝そべった。


運転手のおじさんは目を見開き、声も出せない。

「……なんだ今の!?」


彼は長年馬車を運転してきたが、この魔法は初めて見るらしい。指先の微妙な動きだけで魔力を操作し、対象を小さく押しのける。右から左、左から右、上から下、下から上──それだけの動作で三人の盗賊は弾かれ、空中に飛ばされ、地面に倒れた。


「俺を殺そうとしたんだ。当然お前らは、殺される覚悟はあったはずだよな」


俺は無表情で言い放つ。運転手は震えながら馬車を発車させた。

「おーい!発車頼むよー!」

「す、すみません!すぐに出します!」


盗賊たちは威勢は良かったが、大したことはない。最近、強い相手と戦っていなかったので、体が鈍っているのかとも思っていたが、それほど鈍っていないのかもしれない。それでも、この魔法は王国でも俺しか使えなかった。王国にいた頃は見ず知らずの人間の前で使うことは禁じられていた。だが今は、隠す理由も必要ない。今の俺は自由なのだから。


───ガタン、ゴトン


数日続く馬車移動。揺れに体も慣れ、窓の外をじっと眺める。遠くの山々、緑の谷間、せせらぎの音、土と草の匂い。風に混ざる湿った土の匂いと乾いた草の香りが、王国のそれとは全く異なる。目に映る全てが新鮮で、心を揺さぶる。


「帝国……どんな場所なんだろうな。」


胸の内でつぶやく。冒険者としての生活、強さで評価される世界、未知の人々。期待と不安が入り混じり、心がざわつく。しかし、その不安さえも心地よい。王国での七年間は、弟子を守る日々だった。だが今は、自分のために歩く、初めての自由な人生だ。


丘を越えると、遠くに帝国の城壁と城が見えた。

「おぉ、あれが……!!」


目の前に広がったのは、王国では見たこともない壮大な建築。息を呑むほどの迫力に、自然と足が止まる。城門の高さ、壁の厚み、塔の尖り方。細部まで計算されているのが素人目線でも分かる。


「立派だな……」


帝国の門に向かう道を歩きながら、俺は考えた。今までの人生は王国のため、肩書きのためにあった。しかし今は違う。俺自身のために歩く自由な人生だ。


馬車の揺れのリズムに合わせて歩みは速まる。帝国での生活、仲間、敵、試練。想像するだけで胸が高鳴る。七年間の指南役の枷が外れ、今の俺は未知の世界に挑む自由の男になった。これこそ、俺がずっと求めていたものだ。


──馬車が小さな街を通り過ぎる。市場の雑踏、人々の笑い声、香辛料や焼き肉の匂い、武器を打つ金属の鈍い音。全てが新鮮で、全てが俺を刺激する。商人の声、荷馬車の軋む音、子供たちの駆け回る声──耳に入る情報は全て、刺激となり、心を踊らせる。


「……新しい人生、か」


思わず呟く。追放されたことは、むしろ7年間頑張ったことへの神様からの祝福だったのかもしれない。これから何が起きるか分からない。しかし未知の可能性がある限り、俺は歩みを止めない。


そう考えていた時、馬車が止まり、少し休憩することになった。


「休憩か。ふぅ……やっと少し足を伸ばせるな」


馬車から降りると、風が肌をなで、陽光が体を温める。これまでの王国では感じたことのない空気。胸の奥の重みが、少しずつ軽くなる。新しい人生の始まりを、五感すべてで実感できる瞬間だった。


丘を越えた先、帝国の城門はさらに大きく、重厚な雰囲気を漂わせていた。馬や荷物を運ぶ商人、冒険者らしき人々、警備兵の緊張感のある動き。全てが初めて見る世界で、目に映る全てが刺激的だった。


「……俺の第二の人生は、ここから始まるのか」


王国指南役、俺を縛り上げていた七年間の束縛は終わり、未知の世界が目の前に広がる。自由を得た俺は、これから何をするか、誰に出会うか、どんな戦いが待っているか、まだ分からない。しかし、その全てが楽しみで仕方なかった。


──帝国の空の下、俺は自由に、力強く生きることを誓った。

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