雨の嫁入り
今日は嫁入りの日。
嫁入りは、昔は夜に行われたが今は昼に行われることが多くなった。
私の一族ではある決まりがある。
花嫁は花婿の家に行くとか。
その時に人に会わないようにとか。
私は人に会わないように、人に会っても大丈夫なように化けた。
とてもいいお天気で全てが最高に思えた。
私は浮かれていた。
だから油断していたんだと思う。
いつもは人がいないお寺に人がいて、びっくりして階段から落ちてしまったのだ。
気がついた時には、見知らぬ人の家だった。
「大丈夫ですか?」と優しい女性の声。
「ありがとうございます。大丈夫です。多分。」
と私は返事をした。
早く花婿の家に行かなくては。
少し足が痛んだ。
正午の鐘が鳴っている。
「お水といなり寿司良かったらどうぞ。」と女性はコップ1杯の水と皿に1つだけいなり寿司を乗せたものを私の横に置いた。
「ありがとうございます。」
わたしは嫁入り前で緊張していて、昨日はほとんど食事をしていなかった。
迷ったがありがたく頂くことにした。
そして、これからどうしようか考えた。
人に会わない決まりを破ってしまったが、大丈夫だろうか?
私は嫁に行けるのだろうか?
急に涙が溢れてきた。
「どうしたの?」と優しい女性の声。
私は今から嫁入りということ、嫁入りの日は人に会ってはいけないこと、不安でいっぱいで泣いてしまったことを話した。
「わかった。歩けそう?大丈夫?」と女性は言った。
私はゆっくり立ち上がり、外に向かった。
女性から玄関で傘を貰った。
晴れてるのに?と思ったがパラパラと雨が降っている。
「傘は返さなくていいボロボロだから。あの、私は今日のことはもう忘れる。あなたには会っていない。」
「ありがとうございます。」
人の優しさにまた涙が溢れた。
雨が少し強くなった気がした。
傘は便利だった。顔が隠れる。姿が隠せる。
不思議な天気だな。
すごい晴れてるのに雨が降ってる。
女性は、彼女の嫁入りと幸せを空にお願いした。
いつの間にか雨は止み、空には大きな虹がかかった。
数日後、玄関に見覚えのある傘が置いてあった。
その傘はボロボロだったのに、今は新品のようにピカピカで持つとフワリと浮いたように感じた。
女性は不思議な傘だなと思った。