36話 待ち望んだ目覚め
「ヴィヴィアン、ほら起きて。お寝坊さんだなぁ」
「ん……アーロン?」
「ふふ、もう僕は起きているよ。早く!」
「……うん」
太陽みたいに真っ赤な髪を揺らしながら、何故か大人の姿をしたアーロンが、私を呼んでいる。
私は彼の声に応えるようにゆっくりと目を開け、世界に光を取り戻した。
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「ヴィヴィアン!!」
「ぅ……アー……ロン……?」
私を呼ぶ声に、ゆっくりと目を開ける。長い夢を見ていたような心地で、私は弟の名をよんだ。
「ヴィヴィアン!」
「えっ?!」
もう一度呼ばれた声で、私はハッとした。そして私を覗き込む目の前の人物に意識を向ける。
「……ルティ様?」
「あぁっ……良かった……」
ルティは私が名前を呼ぶと、今にも泣きそうな顔をしながらくしゃっと笑った。その表情に私は、どういうことかとこれまでの記憶をたどる。
「えぇと……私どうして……」
「君は落馬してしまったんだ。すまない……俺がちゃんと受け止められなかったから」
「あ……」
ルティの話を聞いて、私は何があったのか思い出した。
あの時、厩舎で鞭の音を聞いて、思わず反応してしまい、それでバランスを崩して、後ろから落ちたのだ。
「ごめんなさい……ご迷惑をおかけして……」
「いや……こちらこそすまなかった。でも無事に目覚めてくれてよかった」
「私、そんなに寝ていたのですか?」
「あぁ、もう二日経っている」
「二日も……」
私はルティから説明を聞いて驚いた。確かに体がとても重くて、動きにくい感じがする。彼が言うように、ずっと寝ていたせいかもしれない。
未だはっきりとしない頭のまま周囲を見回すと、あることに気が付く。
「あっ……ここって……」
そこは明らかにマリアンとしてこれまで自分が使っていた部屋だった。
「……あぁ、ここが君の部屋だから連れて来たんだ」
「それって……」
つまりはルティには、私がマリアンだと言う事がバレていたのだ。ただのヴィヴィアンとして彼と過ごしていた時が、儚い幻のように消えてしまい、私は何とも言えない気持ちになって俯いた。
「ヴィヴィアン……俺は……」
ルティが気まずげに表情を顰め、私の頬に手を伸ばしてきた、その時──
「失礼いたします」
寝室の扉が開けられ、そこに銀髪の従僕の姿があった。ルティはすぐに寝台横から立ち上がると、扉の方へと向かう。そして何事かを話した後、ルティはこちらを振り返った。
「……すまないヴィヴィアン。また来る」
それだけ言ってルティは部屋から出ていった。
私はその後ろ姿を見つめたまま、深いため息を吐く。そして酷く心が乱れたまま、再び眠りに落ちていった。




