33話 前線の砦
「もうすぐ砦が見えてくる。こちら側から回れば綺麗に隅々まで見えるだろう」
そう言ってルティは馬上でどこか誇らしげに胸を張る。彼は宣言した通り、国境沿いの砦まで連れて来てくれた。私を馬の前側に跨らせ、彼はその後ろで私を抱え込むようにして跨っている。
領主館のある所から国境沿いの砦までは馬で半日ほどの距離だが、彼は身体強化を馬にも適用できるので、通常よりも早く着くことができるらしい。
街道をそれて少し小高い丘の上から砦の全貌を望む。砦は大きな鳥が翼を広げたかのように横に広がっており、その周辺は自然の地形によって守られていた。
「大きい……」
「あぁ、アルデリア領の中で最も大きな砦だ。何せ国境の街道を守る一番の要所だからな」
思わずこぼれ出た呟きに、ルティが頷きと共に返答する。
「あれが見てみたかったんだろう?それでどうだ?感想は」
「……そうですね……想像よりもずっと平和そうに見えます」
「はは、確かにそうかもな。だがこれでも何度も隣国に侵攻されて、その度に砦も修復や増築を重ねている。相手もその都度攻め入る場所を変えてきてはいるが」
「そうなんですね……もし次攻められるとしたら、どの辺に可能性がありそうですか?」
その質問をすると、俄かにルティの目が鋭さを増した気がした。けれど私にとっては、それは重要な質問だった。
「……そうだな……予測は難しいが……地形の守りを逆に利用するという手もあるかもな。砦は地形に沿って作られているから、来ないと思っている場所から攻められるのはキツイ。まぁ力のある魔術師でもいなければ難しいだろうが」
私は彼の言葉に知りたかった言葉を見つけ、更に突っ込んで聞いてみる。
「魔術師ですか?……具体的にどんな魔術を使って?」
「相手の魔術にもよるが……例えば砦の前の河を凍らせてしまうとかだな。急流があるからこそ守りが固い場所も、凍らせて足場にされたらひとたまりもない。だがそんな河全体を凍らせるのは余程力が強くなければ無理だ」
私の質問に、意外にもルティは詳細に答えてくれた。彼自身、騎士としてそういう会話をすることで、砦の弱い部分を何とかしようと考えているのかもしれない。
「確かに河全体を凍らせるのは、無理な気がしますね。でも一部分を凍らせるのは出来るんじゃないですか?河幅の狭いところとか」
「あぁ、確かにそうだな。砦の周辺は急流だし、こちら側が崖になっているが、少し南下すると川幅が狭くなっている場所がある。だが一部分だけせき止める形になっても、すぐに次々やってくる水の流れで、氷は壊されてしまうだろうな」
「……でも川幅が狭いなら可能性はありますよね?……南下した場所ってどの辺りなのですか?」
「……砦の南側の末端の辺りだが、すぐ崖になっているからそこを渡った所で攻め入られる心配はないさ」
「そうですか……なら安心です」
ルティが、こちらを安心させるように説明するので、私は表向きはそれに納得したように頷いた。けれど私の視線は、その砦の南端から暫くの間離れる事は無かった。




