表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面の領主と偽りの花嫁  作者: 雨音AKIRA
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/43

21話 ルティの案内


 翌朝、私は昨日と同じように使用人の格好をして廊下へと出ていた。



(……今日は行けそうね……)



 扉から顔を出して、誰もいないのを確認して部屋から抜け出す。昨日いた護衛の姿はそこにはなかった。


 そそくさと何気ない風を装って廊下を速足で歩く。今日もルティに館を案内してもらう約束なのだ。



(いつもならここであのクロヴィスに見つかっちゃうんだけど……)



 どこで見張っているのか知らないが、あの美しい従僕はいつの間にか現れる。心臓が飛び出るほど驚くから正直やめて欲しいのだが、今日は大丈夫なようだ。


 ルティとは玄関の辺りで待ち合わせている。広い館だから少しずつ案内しようと言ってくれているが、正直彼がここまでしてくれるとは思ってもみなかった。



(彼の方のお仕事は大丈夫なのかしら?)



 騎士である彼が、メイドの案内の為だけに仕事の時間を使うとは考えにくい。それにメイドのふりをしている私の方こそ、仕事をさぼっている形になるのだから。その辺を突っ込まれたら正直困る。



(……もしかして私がマリアンだってバレてたりして……)



 ヒヤリとそんな考えが脳裏をよぎる。あんな状況で出会ったのだから、バレていても仕方がない。


 だがもしそうだとして、どうしてルティはあんな風に優しく接してくれたのだろうと、また新たな疑問が出てくる。評判の悪いマリアンと知っていたなら、冷たく接して正体をバラしてもおかしくないのに。



(……考えても仕方ないわね。館を案内してくれるというのだし、とりあえずはそれに甘えておこう)



 私は浮かんできた疑問をさっさと脇へと追いやり、約束の場所へと向かう。階段を下りて玄関ホールが見えてくると、そこには既に長身の騎士が立っていた。私はすぐに彼に声を掛けた。



「ルティ様!」


「ヴィヴィアン、おはよう」



 私が彼の名前を呼ぶと、顔を上げたルティが優しく微笑む。向こうもこちらへと駆け寄ってきてくれて、私は昨日ぶりの再会に心を躍らせた。



「おはようございます。本当に今日も案内していただけるのですね」



 私がそう言うと、ルティは驚いて目を見開いた。



「約束をしたのだから当然だ。君は俺が約束を破る人間だと思うのか?」


「いえ、とんでもない!……ただ、ルティ様のお仕事に差し障りがあるのではと思って……」


「あぁ……それは大丈夫だ。許可は取ってあるから問題ない」


「そうなんですね。ありがとうございます」



 ルティ本人がそう言うのだから問題ないのだろう。



「この領主館はとても広いから、迷う者も多い。その度に案内するのは騎士の役目でもあるからな」


「へぇ、そうなんですね」



 彼の話を聞いて、私は安堵した。やはりルティは、私がマリアンだとは気づいていないらしい。確かにこれだけ広い領主館となれば、そこで働く使用人も大勢いるから、全員の顔を覚えていなくても当然かもしれない。



「今日は館の中を案内していこう。広いから覚えるのが大変だぞ?」


「ふふ、頑張ります」



 ルティとこうして過ごせることが嬉しくて、思わず笑顔が零れてしまう。私は颯爽と歩くルティに遅れない様にしてついて行った。


 それからルティに館の様々な場所を案内してもらった。


 彼が言っていた通り、領主館はとても広く、何度も改装や増築をしているおかげでとても入り組んだ造りになっている。敷地内には、兵士達の詰め所や訓練所も併設されており、貴族の邸宅というよりは、やはり砦の一部だと言った方が正しいだろう。



「ここが国境沿いの最後の砦となるからな。普通の邸宅よりも入り組んで作られているんだ」



 ルティが館内を案内しながら誇らしげに語った。アルデリア領は隣国と接している土地だ。隣国とは何年も前から緊張状態が続いており、ここは国防の要といっても過言ではない。



「広すぎて目が回りそうです……これは覚えるのが大変ですね」


「すべてを覚える必要はない。使用人では立ち入れない領域も多いからな」


「確かに、迷い込んだら色んな意味で出てこれなさそうですね……」


「そうだな。機密の部分もあるから、そこはすまないが案内することはできない」


「いえ!当然です。行ける部分だけで大丈夫ですから。むしろ迷うのが怖くてそんな奥深い所まで行けません」


「ふっ……そうか。確かにバルコニーから落ちるほどのおっちょこちょいな君が、迷子になったら大変そうだ」


「っ!!あれはたまたまで……っ」


「ははっ」



 ルティが、私を揶揄いながら笑い声を上げる。私は頬を膨らませて怒るけど、彼は私のその表情も可笑しかったようで、更に腹を抱えて笑っていた。



「ルティ様……そんなに笑うなんて酷いです……」


「ははは……いや、すまない。つい可笑しくてな」



 私が拗ねたように唇を尖らせば、笑いすぎて目じりに涙を浮かべたルティは、謝罪を口にした。それでもまだクツクツと喉の奥で笑っている。



「お詫びに良い所へ案内しよう。とっておきの場所だ」


「とっておき?」


「あぁ、秘密の場所だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 お~、ヴィヴィアン、正体バレに気付きかけてるのね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ