8話 回想「広瀬と播磨」
説明回です。
簡単な相関関係のまとめを後書きにつけてます。
播磨すみれは、地域の名士である広瀬家に仕える一族、播磨家の娘である。
広瀬家は、古くは地方豪族の流れを汲み、土地持ちの武家であった。
そこまでならば、他にもたくさんの武家の子孫がいるだろうが、広瀬家には特殊な部分があった。それは、『広瀬の鬼才』と呼ばれる人間が何人かに一人生まれることだ。
『広瀬の鬼才』と呼ばれる者たちは、常人ではあり得ないほどの膂力を持っていたり、天才的な特質を持っていたりする。比喩ではなく一騎当千の力を持っているのである。
播磨家は、その広瀬家に仕えていた一族である。もともとは商人の出身だったそうだが、その頭脳を買われて広瀬家の側近になったとされている。
特に『広瀬の鬼才』と呼ばれる者たちは、物理的な力や天才的な閃きはあれど、戦略や交渉には弱い一面があった。それを支えたのが播磨家の人間だった。
広瀬家が現代でも地元の名士としての地位を残しているのは播磨家の支えがあってのことである。
それもあって、現代では広瀬家と播磨家はほぼ対等な立場で付き合いがある。広瀬家の者たちがそう望んだのだ。
けれど播磨家の人間は矢面に立とうとしないため、あくまでも「広瀬が主人、播磨は従者」という体裁を取っている。
そんな播磨家の本家に生まれたのが、すみれだ。播磨家の血が強く出た本家の一人娘であり、策謀術や交渉を得意とする。
さらに、広瀬家の本家に生まれた『広瀬の鬼才』、広瀬大河と同い年だった。二人と近い年代の子どもは一族の中にはほとんど居らず、必然的に姉弟のように育てられた。そうすると、ますます大河は広瀬の、すみれは播磨の特徴を増していった。
江戸時代以降、戦いの機会が減っていたため、『広瀬の鬼才』も少しずつ弱体化していた。けれどその中にあって大河は本物の天才だった。幼い頃は、現代では暴れん坊では済まないほどの持て余した力を常日頃から発散していた。それによって周囲との関係が破綻しかねなかった。それを収めるために、すみれが奔走していたのだ。
常に他人との関係の調整に気を張っていたすみれは、小学生にして大人と対等に交渉するほどに成長していた。同時に、それほど早く成長せざるをえない状態は心を疲弊させていった。
それが中学生になった時から少し緩和した。
横山辰斗との出会いだ。
広瀬家と播磨家には長い歴史がある。それだけに子孫の数が多い。傍系にも稀に“先祖返り”として『広瀬の鬼才』やそれを支える『播磨のお目付役』の資格を持つ者が生まれる。なので、子孫がどこで何をしているのかは播磨家によって調査がなされていた。
横山辰斗はかなり前に分かれた広瀬の傍流の家の子どもだった。それこそ、数代前には広瀬家と播磨家に関係するなど本人たちすら把握していないほどの。
辰斗の曾祖母の代、この家に『広瀬の鬼才』が生まれた。『広瀬の鬼才』は一般家庭では扱いに困る存在だ。それ故に本家が引き取って育てる。血が近いならば新たな分家を起こすが、血が遠いと本家や最近分かれた家の『広瀬の鬼才』と結ばれる。辰斗の曾祖母の姉は本家の男子と結ばれた。それが大河の曾祖父である。
大河の曾祖父は三男であったが、『広瀬の鬼才』が生まれた場合、本家を継ぐのは実力のある者である。実力主義を通すと血みどろの継承争いになりそうなものだが、そこは播磨が調整していた。
『広瀬の鬼才』はただ人では無い為、鬼才ではない人物ではまず勝てない。鬼才同士の場合は、当主としての資質があるかどうかを播磨家が判断し、継承者を決定する。
そもそも『広瀬の鬼才』は家に執着しない。だからこそ、継承争いが起きにくくもあった。
大河の曾祖父の代で、本家にいる『広瀬の鬼才』は一人だった。だから、継承もスムーズだった。
辰斗の曾祖母の家は、『広瀬の鬼才』が生まれたことで状況が一変した。
それまではただの一般家庭でしかなかったが、広瀬の傍流として本家と関わりができたのだ。本家に嫁いだ姉と実家から嫁いでいった妹、姉妹は仲が良かった。その子ども同士も交流があった。
広瀬の傍流とはいえ、血が遠いとその気性が穏やか者も出てくる。それが辰斗の祖母である。
すみれもそうだが、『広瀬の鬼才』の側にいる播磨の人間は心労ゆえに癒しを求める。心穏やかな辰の祖母は、自分の従兄についていた播磨のお目付役の兄に気に入られ、結婚した。そのお目付役は分家の人間だが、本家に養女として入り、後に本家を継ぐ者と結婚していた。これにより、播磨本家とも縁戚関係を持つことになった。
そうして生まれたのが辰斗の母だ。
実は、これは広瀬と播磨の歴史を見ても、異例のことだった。これまで、広瀬家と播磨家の者が縁づくことは無かったのだ。
これだけ近くにいながら何故縁戚関係にならなかったのか。それは伴侶として求めるものの違いだ。
『広瀬の鬼才』は自分と何かしら張り合える者がある者に惹かれ、播磨の人間は癒しを求める。性質が違いすぎて結び付かなかったのだ。
そこにあって、初めて両家の血が入った存在が生まれた。それが辰斗とその母なのだ。辰斗の祖父に嫁いだのは、これまた血の薄い播磨の傍流の娘であったが、それでも縁ができたのは事実である。広瀬と播磨の本家はそれなりに動向を見守っていた。
大河が『広瀬の鬼才』であり、すみれの心労の限界が目に見えてきた頃、すみれの補佐として辰斗が本家にやってきたのだ。辰斗は広瀬家の激情も、播磨家の計算高さもあまり出ていない子だった。むしろいつも穏やかに笑っているだけの子どもだった。だからこそ、大河とすみれを支える人物として選ばれたのである。
そもそも、本家と関わりを持っている範囲の一族の中で、同年代にいたのはこの三人だけだった。あとは皆、十歳以上歳が離れている。それを考えれば、補佐役としては順当だったのかもしれない。
そうして、すみれは大河と辰斗と一緒に育てられた。
『広瀬の鬼才』と『播磨のお目付役』。
それが彼ら三人が代々受け継いできたものなのだ。
ちょっとわかりにくいので整理
広瀬家→物理的に力の強い鬼才が生まれる
播磨家→策謀術や交渉を得意とする従者
広瀬の鬼才のお目付役もしている
大河の曾祖母→広瀬家の遠い親戚、姉
辰斗の曾祖母→広瀬家の遠い親戚、妹
辰斗の祖母→辰斗の曾祖母の娘
辰斗の祖父→播磨家の分家の人間、婿入りした
すみれの祖母→辰斗の祖父の妹、本家の養女
当時の広瀬の鬼才のお目付役
播磨本家の人間と結婚
広瀬家と播磨家のどちらの血も継いでいるのは、
辰斗の母と辰斗のみ。




