6話
「おう。お前らも鑑定受けてこいよ。すっげぇ面白いぞ、これ」
大河はそう言って、ステータスボードを体に出し入れしている。
その様子を見て、紗奈がニヤニヤと笑いながら大河に言った。
「それで、あんたのステータスはどんなだったの。天才的なスキルがあったのでしょうね」
「ああ、これだぜっ」
大河はステータスボードをすみれと紗奈の方に突きつけた。
そこには大河のステータスが項目ごとに表示されていた。
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広瀬大河 Lv1
種族:人族
年齢:15歳
性別:男
属性:火
称号:「離脱者」
HP:1000/1000 MP:350/350
〈固有スキル〉
???
???
〈特殊スキル〉
気功
生存率上昇
〈一般スキル〉
火魔術
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「うわ、体力馬鹿じゃん。さすがは冒険家」
「これ、一般人の基準はどのくらいなのかしら?」
紗奈がステータスの高さに驚き、呆れ混じりの反応を示すと、大河は「おう」と心なしか嬉しそうに返事をする。
すみれは、大河のステータスからこの世界の基準に疑問を持ち始めた。
(大河の身体能力の高さは知ってる。けれど、ここは異世界だもの、そのままが反映されていると考えていいのかしら?)
「それは、あそこにいる人にでも聞いてみればいいんじゃない?」
すみれが思考の沼に入りかけた時、そらが声をかけた。そらが指差しているのは、壁際に立っている騎士たちだ。
確かに、彼らなら答えてくれるかもしれない。宮廷魔術師は水晶にへばりついているし、宰相もそんな宮廷魔術師を落ち着かせるのに忙しそうだ。
すみれは壁際にいる騎士の一人の方に足を向けた。その騎士は、すみれが近づいて来るのに気がつくと、胸に手を当てて一礼した。
「勇者様、どうされましたか」
「ステータスについて聞きたいのですが、答えていただけますか?」
「ええ、もちろんです」
すみれは一般的な数値やスキルについて質問し、騎士はそれに丁寧に答えてくれた。
その内容をまとめると、一般的なHPは100、MPは平民では50、貴族になると200〜300が平均だそうだ。高位貴族となるとMPが500〜600ある人もいるそうだった。
スキルは一般スキルは基礎的なスキルで、誰でも適正があって学べば身につくらしい。特殊スキルは専門的なものになり、相当な修練を積んだ者が身につけることができる。固有スキルはその人が生まれながらに持っているスキルである。平民も含めて一人一つ持っているそうだ。高位貴族になると家系継承スキルというものがあり、それも固有スキルとして追加される。
そして、この固有スキルというのは、本人が自分の可能性を鍛錬すると覚醒する。それまでは不明であるらしい。農民出身でありながら剣の魅力に取り憑かれ、「剣聖」の固有スキルを覚醒させた者もいる事から、覚醒までの人生の結果として固有スキルが変わる可能性も指摘されているらしい。
それで考えるなら、大河は完全に体力オバケである。MPについては貴族の平均よりは少し上、高位貴族にまでは行かないくらいだろう。
そして、固有スキルは不明なものが二つある。広瀬家の特殊さを考えると、家系継承スキルとして現れていてもおかしくはない。
すみれがそのような分析をしている間に、紗奈も鑑定を終えたらしい。大河と何やら張り合っている声が響いていた。それによると、紗奈のHPは平均より少し上、MPは高位貴族の秀才並みといったところのようだ。
すみれが視線を感じて顔を向けると、宰相と宮廷魔術師がこちらを見ていた。
周囲を見渡すと、皆ステータスボードを持って話し合っている。おそらく、すみれが最後なのだろう。
すみれは足早に二人に近づくと「よろしくお願いします」と挨拶した。
「ええ、よろしく。あなたで最後ですよ。皆さん優秀ですねぇ。色々と面白いステータスを見ることができた。期待してますよ」
宮廷魔術師がワクワクしているのを隠しきれない様子で水晶を覗き込む。すみれが手を当てられないくらい近づいていたが、すみれが何か言う前に宰相に首根っこを引っ張られていた。
「どうぞ。あなたが最後ですので」
宰相の声は相変わらず冷めたい。まるで『早くしろ』と言いたげな視線である。
すみれは努めて冷静さを装いながら、水晶に手を当てた。水晶から水色の強烈な光が放たれ、光が収まると水晶の上にはステータスボードが浮いていた。
すみれが手に取ると、ステータスボードに文字が浮かび上がった。
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播磨すみれ Lv1
種族:人族
年齢:15歳
性別:女
属性:水
称号:「切り捨てた者」
HP:100/150 MP:630/630
〈固有スキル〉
???
???
〈特殊スキル〉
魔力探知
魔力操作
〈一般スキル〉
水魔術
氷魔術
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…どうやら、すみれの基本スペックは高位貴族の平均並みらしい。
大河との差に、すみれは心の中で嘆息した。




