4話
「それでは、これから勇者様方は国王陛下に謁見していただきます。」
案内してきた金髪の騎士は、すみれ達を振り返って言った。
その声に忠告するような響きがあるのは気のせいか。
大河を睨むように見ているあたり、気のせいでは無いのだろう。
それから騎士は、謁見の間での最低限の作法を伝えると、扉の前にいた別の騎士に合図した。
両開きの扉が二人がかりで開かれた。
ズズズッと重そうな音が響き渡る。
扉の先には赤く長い絨毯が敷かれ、室内の奥まで続いている。
そこには、玉座に座った恰幅のいい髭を生やした男性が座っていた。
その側には先程会った宰相が控え、絨毯の両側には文官であろう落ち着いた色合いの服を着た者たちが並んでいた。
すみれ達は案内されるままに玉座の前まで進み出ると、膝を着いて頭を垂れた。
「勇者たちよ、よくぞ参られた。余はアリスフィールドの王、グランヴェール・オルタイルである。
皆の平和の為、よくよく励め。」
グランヴェール王の言葉は尊大だが、表情は慈愛に満ちている。
為政者としての威厳と、召喚した勇者への気遣い、それを天秤にかけた結果なのだろう。
(まあ、だとしてもその対応に納得するかは別問題なのだけど…ね)
すみれ達は無関係なところから召喚され、戦いを強要されるのだ。
いくら国王であろうとも、不満を持つ者はいる。
現に…
「いきなり呼び出しておいて、よくもそんな上から目線でモノを言えるよな」
「そうね。“ご足労いただき感謝する”くらいあっても良いわよね」
なんて言い出す者がいるのだから。
因みに前者は大河、後者は紗奈の発言である。
この二人は気が強いのでよく言い合いをするが、価値観が似ているので意見が合う時は揃って相手をこき下ろす。
すみれはそんな二人の言動にため息を吐きつつ、別の者たちの様子も伺う。
こういった試練や期待が好きな目立ちたがり屋もいるのだ。
「へえ、面白そうじゃねーか。一成よりも活躍してやるぜ。そしたら、勇者としての地位は俺が上になるな」
「…勇者として呼ばれた以上、必要な働きをするだけです。雄二、国のトップの前でそういう言動は慎め」
元バスケットボール部副部長の浜田雄二と、そのバスケットボール部でキャプテンをしていた谷崎一成の言葉である。
一成は学級委員もしていて面倒見も良い、人望のある人物だ。
雄二の方は友人として慕いつつも、目立ちたがり屋であるが故に彼に嫉妬している節がある。
高校時代もそうだったが、10年たった今も変わらないのだろう。
すみれはクラスメイトの動向を観察しつつ、今後どのように立ち振る舞うか思案していた。
すみれ達は実際は25歳の大人だが、見た目は15歳の子どもだ。
こちらでは成人している可能性もあるが、まだまだ未熟である事に変わりはない。
そんな者たちに戦争に参加しろと顔色を変えずに言えるのが不思議だった。
(もしかすると、この戦争と勇者召喚には裏があるのかもしれないわね)
そう考えれば、この国の人間の態度もある程度納得がいく。
すみれは暫くは大人しく様子見をする事に決めた。
そうして、すみれが考えをまとめた所で、勇者たちは謁見の間からの退出を命じられた。