表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

【完結】後日談

後日談


 クレイグは、王太子になった。だから、わたしは王太子妃になった。


 以降、ふたりとも多忙な毎日を送っている。


 それこそ、ふたりの共通点である読書をする暇もない。


 クレイグは政務に、わたしは慈善活動に、それぞれ飛びまわっている。


 実家であるクローク公爵家は、爵位を剥奪されることはなかった。わたしが爵位を継ぎ、いまは王族公認の管理者が管理を行ってくれている。


 クレイグのお母様の実家は、このアストリー王国でも一、二位を争う大商人。クレイグにねだり、財団を立ち上げた。王都にかぎらず、両親や片親の子どもたち、お年寄り、なんらかの事情で経済的に困窮する人たちを支援する財団である。それとは別に、子どもたち向けに学費を支援する活動も行っている。


 クレイグと彼の祖父は、そんなわたしのワガママな散財に付き合ってくれている。


 ゆくゆくは、他の裕福な商人や貴族たちにも協力を呼びかけるつもりでいる。


 そんなわたしの散財はともかく、クレイグは、もともと王宮内に密かに存在する組織の一員だった。近衛隊とは別に王宮内の悪事や不正を調査し、然るべき対処をする組織らしい。


 彼は、王子の身の上を嫌っていた。だから、王太子候補から除外してもらうという条件で調査員になることをかってでたらしい。


 彼は、経済だけでなく政治や軍事やあらゆる分野の学問まで、幅広く知識を持っている。それだけではない。彼は、剣の達人でもある。調査上で暴力が必要になることがある。だから、剣術や体術もマスターしているのだ。


 彼の手がおおきくて分厚く、指が節くれだっているのは、常日頃から剣の鍛錬をしているからである。


 それはともかく、あの衝撃的なパーティーの直後、クレイグは自分の意に反して王太子になった。というよりか、ならされた。わたしの元婚約者である元第一王子はともかく、第二から第六までの王子もまた、王太子の器ではないからである。


 というわけで、彼は王太子にならざるをえなかった。


 この日、めずらしくふたりとも時間が出来たので、思い出の場所に行った。


 王宮の図書室である。


 クレイグに尋ねた。


 ここで話したことを、よく信じてくれたわね、と。


 わたしの死に戻りの話のことである。そのことは、この図書室で話をしたのだ。


「ああ、信じたさ。なぜなら、おれもそうだから」


 驚いて声も出ない中、彼は説明してくれた。


 わたしが凍土に追放された後、不審に思った彼は調査したらしい。すると、スライと義母の作り話だけでなく、情報漏洩や殺人やもろもろの悪事を発見するにいたった。


「が、ドジを踏んでしまった。きみを凍土から救おうと国王に訴え出る前に、連中の罠にはまって殺されたんだ。そして、生まれ返った。いや。小説の表現だと死に戻った、だな。そして、今度こそきみを守ろうとこっそり見張っていた。まさか、じつはおれが死に戻りで、きみは死ぬんだと未来を語ったところで、きみは信じてはくれない。そう思っていたから。が、きみにうまく接触してここですごすうちに、その、なんだ。きみに……。そう。きみに恋をしてしまった」


 窓から射しこむ陽光の中、彼のキラキラ光る美貌が赤くなったのがわかった。


 わたしの顔も真っ赤になっているはず。


「そして、決心した。なにがなんでも未来をかえてやる。きみと、それからおれの未来をかえる、と。すると、きみがきみ自身のことを話してくれたじゃないか。おれは、もう一度決心した。きみを守るだけではない。未来をかえるだけではない。こちらから動いて未来をつくろう、と。きみとおれのあらたな筋書きを書こう、と。そして、おれは姿をくらました。その準備をし、実行に移す為に」


 クレイグのキラキラ光る美貌が迫ってきた。


 ドキドキが止まらない。いまだに慣れないでいる。


「王太子殿下、ほんとうにありがとうございます。わたしの死に戻りは、復讐したり人生をやり直す為だったのではなかったのですね」

「そうさ。おれの死に戻りもそうだ。おれたちの死に戻りは、きみとおれが結ばれる為だったんだ」


 そう。クレイグとわたし。このふたりが結ばれ、愛を育み、死ぬまで同じ道を歩む為に、わたしたちはともに死に戻ったのだ。


「スミ、どうだい? きみとおれ。いまのふたりの人生に満足しているかい? 『愛』と『金貨』は足りているかい?」

「王太子殿下、『愛』は充分すぎるほどいただいています。『金貨』は、そうですね。いくらいただいても足りないかもしれません。もっともっと散財したいのです。このアストリー王国には、その日に食べる物さえない人もたくさんいますから」

「スミ、きみは欲張りだな。だが、そういう欲張りなきみが愛おしすぎる。わかっている。この国の人々の為に、『金貨』だけではなくおれの持てる手腕を発揮するよ。それから、きみには重すぎるほどの『愛』を与えたい」

「王太子殿下、わたしもあなたに……」


 最後まで伝えられなかった。


 なぜなら、クレイグの唇に口をふさがれてしまったから……。



                                (了)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ