〜多数の幸せを求めて〜
終わった...。全て終わった...やりきった...
色々胸に押し寄せる感情はあれど、俺が第一に抱いた気持ちが開放感であった。
それと同時に下半身の力を一気に抜き、その場に寝っ転がる。うっすら目を開け視界に入ってくるのは、吹き荒む土や砂で黄土色のカーテンが太陽にかかっている景色。
ボーッと黄土色のカーテンの隙間から見える味気ない太陽を見ていると、視界の真ん中に半透明な水色のプレートが現れた。
いや、これはただのプレートでは無い。
これはある日....
いつだったか忘れたが世界に決定的なズレが生じた時、人類が確認できるようになったものである。
誰がそう呼んだのか知らない。いつの間にか人類はこれを【ウィンド】と呼ぶようになった。
ウィンドには様々な機能がある。そのうちの一つが世界への通知機能である。この世界で起きる事象の中でも特別大きな出来事はこのウィンドを通して通知が来るようになった。
ウィンドに映った通知に目を通す。そこには...
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最終クエスト《世界の結末》をクリアしました!!
おめでとうございます!!あなた達はとてつもない偉業を成し遂げました!!
本クエストをもちまして、以降のクエスト更新は無くなります。大変お疲れ様でした。本クエストを生き残り勝者として生存権を手にした者は何者にも縛られない生き方が可能です。それでは手に入れた権利を存分に堪能してください。
とても有意義な時間となることお祈り申し上げます!!
本クエストにて世界が完結....
同期中......完了...
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以降ウィンドにはすごいスピードで情報が更新されていく。お知らせのログが猛スピードで流れていく。
今はただでさえ疲れてるのにこんな細かい知らせを目で追ってられるか....。
目で追うのに嫌気がさして、俺はウィンドから目を離した。すると逸らした目線の先にもう1つウィンドが開かれる。
「あー、クエスト報酬か...」
そこには...まぁ、ゲームで言うところのラスボスを倒した時に貰えるアイテム報酬がお知らせとして記されていた。
それすら確認するのが億劫である。
いやそれだけでは無い。この先...俺が死ぬまでのことを考えると億劫で仕方がない。
全てが終わったのに最早どうでも良い...
どうせ....
どうせ...
俺以外の全人類が滅亡したんだ....
こうなってしまえば俺の命も終わったも同然だ。
あぁ、しかし、このラストは予想はしてなかった...
しかし不思議と悔しくは無い。
ふと、世界がズレた時からのことを思い出す。
とにかく生きることだけ考えた。他人のことなんて知ったことかと...自己中に意地汚く、卑怯に...
自分のことを極悪人だとまでは思わないが、ここにたどり着くまでに全てのものを犠牲にしなくてはならなかった。
そのおかげで全クエストクリアしたんだ...
きっと俺の選択は間違っていた訳では無い。
が..........
正解と比べたら圧倒的に大事なものが欠けていたのだろう。
そう考えるとやはりこの結末も納得のものである。
そんなことを考えたら再びウィンドが開く。
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プレイヤー名:佐藤 天也
Lv 155
HP 4070 / 15960
ATK 512
DFE 3075
INT 1017
NEW [称号]獲得 !!
確認しますか? YES / NO
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何となく俺はYESを選択して見てやろうじゃんみたいな気持ちでウィンドのYESと書かれているところをタッチする。
すると画面が変わって
「はっ、なにが[唯一の観測者]だよ。クソが...」
世界に一人ぼっちだということを称号でもらって嬉しいバカがどこにいると思ってんだよ。ふざけるな...
決めた。あー、決めた。今まで思いもしなかったが何かこのウィンドを通して通知よこしてきたりこのゲームのような世界のルール決めたヤツに腹が立ってきた。
「よし、どうせこのまま1人で居てもどこかで野垂れ死ぬだけだ。試しにこのウィンドの向こう側にいるやつをぶっ殺す方法でも探るか。」
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「と言うような流れで俺は世界を救ってはいたのだけどなんやかんやで過去に、今現在に戻ってきたわけよ。」
「はい?馬鹿なの?急に壮大な物語を語り始めたかと思ったらそんなの誰が信じると思ってるのよ?」
「ですよね。まぁいやでもわかる時が来るよ。」
「なにそれ、なんかキモいんだけど。もう大学生になったのよ私たち?いまさらその...イタイタしいのキツイんだけど...」
「...」
今の会話の通り、あんな世界を作ったやつをぶん殴ってやろうと決めて色々なことを試したけど、結局あの結末になっていた時点で俺の状況は詰んでいたようだ。
それがわかった瞬間、俺は目標を変えた。そんなしょうもない世界一人でいてもどうしようもないので、全ての時間を消費して時間を遡る方法を調べた。
初めは食料なども無くて餓死するのかと思ったが、ゲームをクリアした者の[生存権]っていうのはそんなことごときで死ぬような....死ねるような権利ではなかった。
これは俺たちが、地球がまだ地球出会った頃に人類が共通で認識していた生存権ではない。死ぬことが普通のクエスト等を全て成し遂げた者へ送られる[生存権]は超越的な意味での[生存権]であったのだ。[生きる状態を維持し続ける権利]と言い変えられる。
一時期はこれが不死の呪いに感じられた。
それくらい死なないし、死ねない。自殺しても基本的には死ねない。心が死んでも死ねない。死を心の底から望もうとも死ねない。そんなことを望もうならばそもそも[生存権]の力で心も蘇る。生命が正しく生きる上での必要な要素を全て補うことの出来る力だと思ってくれていい。
だから自殺は実験的な考えと気持ちで行った。死にたいと思った時は、不意にとてつもない爽やかな感情に浄化され変換される。
俺は元々1人で過ごすのは好きな方だったが、そんなに途方もない時間1人で過ごし狂いそうになっていた。まぁ、狂いたくても狂えないという変な状態だった。全部ウィンドから与えられた[生存権]のせいで。
その膨大すぎる時間を使って解明した事は大きく2つ。
世界の仕組みと異世界との関係、ウィンドの向こう側の存在の2つについてだ。
それを解明する過程で時間超越の概念を、ついでに理解することが出来た。
その知識と技術を使って現代(俺から見ては過去)に戻ってきたというわけである。