経験値の上がる食堂
──残念ながらあなたはこれ以上戦闘をしてもレベルアップしませんし経験値も入りません。
そう言われたときには頭が真っ白になった。二十代からの若白髪で三十路も半ばの今、白銀のような白髪にいっそこの現実は清々しい。
「戦士様にこのようなことを申し上げるのは大変心苦しいのですが──」
「ああ、いいいい」
気にすんなよ嬢ちゃん。自分は教会の聖女に笑いかける。不敬なのはいまさら。だってずっとこんな感じで教会ともギルドとも接してきた。ときには、王侯貴族とも。今の国王──マチアスとは、戦場で安酒を頭が痛くなるほど飲んで酔っ払った仲だ。昔の話だし、あのあとマチアスは即位しちまってそれっきり。
けどそのあと戦争はなくなって、魔物を狩ったりダンジョンに潜ったり、のんきに冒険者家業を十年も続けることができた。
「ウィルさんは、という……な……ので、現状のランクで冒険者を続けるか……ひっく、う、冒険者引退を、ぼうけんしゃを」
「おう。引退しようかな。今日付で」
自分の言葉に聖女の目から涙が決壊した。
「お、おわ、おっちゃんハンカチなんて持ってねえよ」
すると聖女は裾でずずっと目と鼻を擦った。
「わかってますよ、そんなこと……だってウィルさんだもん」
あーあ。完全に口調が崩れちゃってる。
「だって知ってるもん、おっちゃんがめっちゃ頑張って、めちゃくちゃ、それこそ勇者様より努力してたの知ってるもん。おっちゃんに拾われたときから」
「……こらアリィ」
横から声がした。振り返るとエイラが苦笑いでアリィを咎め、それから抱きしめた。
懐かしいなと思い出す。まだあちこちで戦争をしていた、自分が聖女時代のエイラとパーティを組んで戦っていた頃。戦果の街で親と死に別れたアリィを自分たちの子のように育てた──。
そんな感傷に思わず鼻水を啜って、
「大丈夫だって」
と、胸を張る。
「……だって」
「だってよ。冒険者辞めたらここ──教会の隣に、店を構える予定だからよ」
「は?」
「休憩時間に気軽に立ち寄ってくれ。な?」
「あなた、本当に『誰より』も努力していたものね。誰よりも経験値を積み重ねて。そんな冒険者他にいないわ」
エイラは笑う。
昨日、エイラは聖職を辞しておれのところにやってきたのだ。
「勇者様だってマチアス陛下だって……あの頃の英雄たちはみんな──」
エイラの口を手で覆う。
「いらっしゃいませ!」
店を覗き込んでいた男に声をかけた。
「──あの、飯食わせてくれるって」
「はいよ! 今日オープンのお客様第一号! ありきたりなもんしかないけど味は保証するよ」
「ああ、じゃあ定食ひとつ。正直、あたたかい飯ってだけでありがたい」
「ダンジョン帰りかい」
「よくわかるな」
「わかるさ」
よおく、な。
「……レベル、あがると思ってたんだけどな」
聖女に診てもらったら……。ぼやく青年の前に皿を並べていく。
焼いた魚の干物、白い飯、卵を落とした味噌汁に白菜の漬物。テーブルに出した途端、ガツガツと食べ出した。五分もたたずに完食しようかというところで、
ぴろん。
と、音がして青年は呆然として言った。
「嘘だろ……今レベル上がった」




