24話 巨神星シュルーク
「巨神星シュルークぅ! それが私だぁ! レイダァァァァァァァァァクぅぅぅ!」
巨人の足がレイダークを踏み潰そうとしてくる。大きさからして、レイダークなど瓦礫の一部にしか見えないはずなのに、巨人は確実にレイダークの居場所を捕らえていた。
「図体がデカいだけではないようだな!」
レイダークは飛び退くが、それだけでは回避できなかった。巨人が瓦礫の地面を踏み抜くと、周囲に衝撃波が発生したからだ。この回避は困難で、巨人にとって小人も同然のレイダークでは範囲外に脱出できない。
防御無視の攻撃となってレイダークを襲う。
「ぬぐッ!?」
衝撃波は瓦礫を微塵に粉砕する程の威力がある。さすがのレイダークもこれをくらって無傷というワケにはいかなかった。
「ちっ」
衣服が裂け、血が流れている。
巨人は確実なダメージをレイダークに与えていた。
「フハハハハハハハぁぁぁ! ざまぁないなレイダークぅぅぅぅ!」
レイダークの頭上から下卑た笑い声が聞こえてくる。
「無様ぁ! 無様ぁ! 無様ぁ! 無様ぁぁぁぁぁぁ! 観念したらどうだレイダークぅぅぅ? お前ごときにこのボクは止められないぞぉぉぉぉぉぉ!」
「かすり傷一つ負わせただけで随分な騒ぎよう。おめでたいヤツだ」
攻撃されて黙ったままのレイダークではない。踏みつけて地面にめり込んだままになっている巨人の足を思い切り殴りつけた。シュルークと殴り合っていた時とは違う本気の一撃だ。巨人の足にレイダークの拳が深々と突き刺さる。
「……悲しいなぁレイダークぅ」
だが、その拳は全く通じていない。完璧な一撃だったが、巨人に何のダメージも与えられていなかった。
巨人がニタリと笑う。
「お前とボク、これだけ大きさに差があるんだぞぉ? 豆粒ごときの一撃が効くワケねぇだろがぁぁぁぁぁぁぁ!」
巨人は足下にいるレイダークを思い切り蹴りとばした。転がってきた球を打ち返した時のように、レイダークの身体が空を舞う。当然、レイダークは防御していたが、巨人の前では焼け石に水だ。ダメージを殺す事も、踏ん張る事もできない。
人間と巨人。どうしようもない体格差が両者にはある。これではただ巨人の攻撃をくらうしかできなかった。
「がっ……」
「まだまだぁぁぁぁッ!」
打ち上げられたレイダークに向かって、巨人は両手を組んで打ち下ろした。背中にブチ当たり地面に叩き付けられると、溢れるように口から血を吐いた。
レイダークは口元を拭う。
「くっ……」
「言っておくがコソドロぉぉぉぉぉ! その程度で済ますつもりはねぇからなぁぁぁ! お前は残酷に殺すぅ! 次は四肢の一つ一つを潰してやるぅ! お人形遊びの開始だぁぁぁぁ!」
「はっ! いつもいつもカスはよく吠える!」
巨人の手が伸びるが、簡単に捕まるレイダークではない。血を吐いたのは確実なダメージだが、動き回る体力はまだまだ残っている。巨人の手はレイダークのいた地面を抉るだけだった。
「ちょこまかちょこまかちょこまかちょこまかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
さっきのレイダークは巨人に攻撃直後を狙われた。攻撃時に必ず発生する硬直を狙われたのだ。回避に徹すれば巨人の攻撃をくらう道理はない。捕まえようとするなら尚更だ。
尚更だが。
「ぬうっ!?」
レイダークの背後から伸びる手があった。巨人の手だ。巨人はレイダークの前方にいるはずなのに、後方にその手がある。
レイダークは地面に叩き付けられ身体を押さえつけられてしまう。行動を封じられてしまった。
「レイダークくぅぅぅん? 君知ってるはずだよねぇぇ? 神魔一体とは想像力ぅ。自身の想像が全てだってさぁ。だからさぁ? 神魔一体したヤツをさぁ? 前にしてさぁ? ソイツが一人しかいないって思うのさぁ。たーだの油断ってヤツじゃないのぉ?」
レイダークを押さえつけた巨人。それは巨人だった。
「ボクは八十八番を持ってるんだよぉ? 使ってたんだよぉ? 分身を作るなんて想像するまでもないなぁぁぁぁぁぁ! 巨人かつ分身だよぉぉぉッ! コソドロじゃ想像できなかったかぁぁぁぁぁ!」
押さえつけられているレイダークの周囲を巨人達が取り囲んだ。全部で四人。シュルークと戦った時に展開した人数と同じだ。
「さーてぇ。どうしてくれようかなぁ? かなぁ? かなぁ?」
四人の巨人が覗き込むようにその顔をレイダークに近づけると、ボキッと音が鳴った。
「があああああッ!?」
「折れたぁ! 折れたぁ! 折れたぁ! コソドロの右腕が折れましたぁぁぁぁ!」
宴会芸でも見ているように巨人達が笑い出す。
「次ぃ、次ぃ、何処ぉ? 何処ぉ? 何処の四肢をやっちゃおうかなぁ? かなぁ?」
「頭以外ぃ。頭以外ねぇ。死んじゃうともったいないからねぇ」
「コソドロは不死身じゃないのぉ? 不死身だからどこでもよくないかなぁ?」
「でもでもねぇ? コソドロくんってさぁ。ムカツクからぁ。叫び声ききたいじゃぁん? 頭潰したら聞けなくなるじゃぁん? だから頭はぶっぶーぅ!」
巨人達がレイダークの何処を潰すかで話し合っている。神魔一体の影響なのか、その会話内容は幼児達のようだ。捕まえた虫の何処を毟るか決めるなど、シュルークが話しているようには思えない。
「お前、さっきオレが言った事が聞こえなかったのか? この程度で喜ぶとはめでたいヤツだと」
「「「「ああああああんんんん?」」」」
無邪気に話していた巨人達が一斉にレイダークを見る。
「たかがオレの右腕を折っただけなんだぞ? 殺したワケじゃない。なのに何故喜べるんだ? 頭にキノコでも生えてなければ、そのめでたさは理解できんな。ああ、キノコが生えるクソ野郎なら理解できなくて当然か。なるほどな」
レイダークは降参や命乞いをしない。絶体絶命の状況に屈してなるものかという意地もない。
煽るのは至極当然とばかりにレイダークは巨人を見下していた。
「こ、コソドロぉぉぉぉ! ゆるさなぁぁぁぁぁぁい!」
「処刑ぃ! 処刑ぃ! 処刑ぃ!」
「頭ぁ! 頭ぁ! 頭ぁ! あたまぁぁぁぁぁぁぁ!」
「お人形遊びやめぇぇぇぇ! ここで終わりぃぃぃぃ!」
巨人達が拳を振り上げる。四人同時に殴りつけてレイダークを潰すと決めたらしい。
「「「「じゃあなぁコソドロぉぉぉぉぉぉ!」」」」
振り上げられた拳がレイダークに届くまで一秒もかからない。身動きを封じられているレイダークはその拳をまともにくらうしかなかった。
瞬間、ドォンと砲撃音が鳴り響く。
「バカが……オレが決着つけてやるのに余計な事を……」
秩序警の鋼鉄車が巨人達を攻撃したのだ。




