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03 そうだ、外国へ行こう

「この国でハンターをやるのはちょっと考えものだと思うんだよね。」

 早速、魔物ハンターとして登録しに行こうとする俺を海斗はそう言って止めた。

 相変わらず人の出鼻をくじくのが得意なヤツだ。

「何だよ、のんびりついでに外国旅行でもしようってのか?」

「まあ、それもあるけど。」

 俺の言葉に海斗は笑いを返す。

「この国じゃあ僕の名前も顔もそれなりに知られているからね。普通にハンターとして活動するのは難しいと思うんだ。」

 言ってることは解らなくもない。

 勇者パーティーとしてこの国のあちこちを旅して回ったのだ。海斗はそれなりどころかかなりの有名人なのである。

 なので、のんびりとした日々を過ごすのはまず不可能だろう。いくらこちらが望んだとしても周りが放っておくはずはないからだ。

「とは言え、国の外に出るのは上手くないんじゃないか?」

 言い遅れたが俺達を召喚したこの国の名前はセリオニア皇国。この世界で最大の力を持つ超大国だ。

 尤も純粋な国力、文化や経済や軍事と言った面では皇国に並ぶ国も無いわけでもない。

 ただこの国には人間界において最大の勢力を持つ宗教、セリオス教の総本山が存在していた。

 その力は強大である。

 何しろ人間界の救世主である勇者を召喚出来るのはセリオス教の秘儀だけなのだ。

 そして、そのセリオス教と政教一体化した国家がセリオニア皇国だった。

 まあぶっちゃけた話、勇者の存在を武器として人間界に君臨しているわけだ。

 その大事な武器が国外へ流出することを良しとするはずはない。俺はそれを心配していた。

 だが、我らが勇者様の考えは凡人の俺とは全く異なるぶっ飛んだものだった。

「何も許可を取る必要なんかないでしょ。黙って出国しちゃえばいいじゃないか。」

「お前なぁ……。」

 俺は頭を抱えた。

 別に国を出る事自体が困難という訳ではない。実は極めて簡単である。

 国から国へと移動する際の検問所というのは確かにあった。

 だが、それはあくまでも商隊の荷駄に税金を掛けるのが目的で、大きな街道沿いにしか設置されていないのだ。つまりそれ以外の場所では国境など越え放題なのである。

 まあ、それも仕方ないことだろう。国境の全てに兵を置き目を光らせるなど不可能なのだ。人的にというより経済的に。

 それに、そもそも国境線自体かなり曖昧だった。

 穀倉地帯のような財政に直結するような場所であれば明確に線引きする必要はあるが、森や山などはかなりアバウトに扱われる。

 森そのものが”国境”とされ、結局はどちらの物でもありどちらの物でもないと言った中途半端な状態になるケースも少なくない。

「確かに国を出るのは難しくないけど、でもそんなことしたら皇国の連中が怒ると思うぞ。」

「僕達が何をどうしようと、別に怒られる筋合いの話じゃないと思うけどな。魔物の軍と闘う時までに戻ってくればそれで文句ないでしょ。」

 正論と言えば正論だ。

 皇国は俺達の生活を支えてくれている存在ではあるが、それも勇者としての働きを期待してのことである。

 しかも、勝手にこの世界へと呼び出したのは向こうなのだ。その責任を取ってもらっているのだと思えば、別に恩義を感じる必要もあるまい。

 ただ、そうは思っても小心者の俺には中々言える台詞ではなかった。

 それをきっぱりと言い切ってしまえるのが海斗なのだ。

「……分かったよ、それじゃ皇国を出よう。

 で?どの国に行くつもりなんだ?」

「ファンデール王国。」

「ファンデール!?」

 相変わらずコイツは俺を驚かせてくれる。

 ファンデール王国とはこの大陸の東端にある国で、南西部に位置するセリオニア皇国からはかなり距離が離れていた。行くとすれば数か月の旅になるだろう。

「そりゃまた遠くだな。」

 俺はファンデールまで足を延ばすにあたっての問題点を考えた。

 まずは時間だ。

 往路は確かにかなりの日数を必要とする。だが帰りはあっという間だ。

 海斗は”転移”の魔法が使えるからだ。それを使えば一度訪れた場所なら瞬時に移動が出来る。

 なので、魔物の軍との戦いに遅れるという心配はないはずだ。

 次に費用。

 俺が貰った手切れ金と皇国から海斗に支給された金を合わせれば、まあなんとかなりそうだ。

 仮に足りなくなったとしても、途中途中でハンターの仕事をして稼げば問題ないかな。

 ハンター登録は活動する国ごとに行う必要はあるものの審査は決して厳しくない。と言うかザルである。

 今現在手配書が回っているような犯罪者でもない限り即日登録可能なのだ。しかも申請内容はあくまで自己申告。

 命を元手にするという超が付く程ブラックな職業なため、そうでもしないと人員の確保が難しいからなのだろう。

 と言う訳で、とりあえず問題はなさそうだ。

「しかし、何でファンデールなんだ?

 何か目的でもあるのか?」

 ファンデール王国について俺が知っているのはそれこそ名前と場所だけで、それ以外は何も知らない。俺達にこの世界について説明してくれた教師はそこまで詳しく教えてくれなかったからだ。

 それは海斗も同じはずだ。

 なのに何故ファンデールに行きたがるのか?

「どうやら昔魔物との戦いの後、ファンデールに移り住んだ勇者がいたらしいんだよ。」

「昔の勇者が?」

 当然と言うべきか、勇者として召喚されたのは俺達が初めてではない。

 この世界は2,300年毎に魔物による危機を繰り返し迎えていた。そしてその都度、脅威に対抗するため勇者が召喚されている。

 頻繁に魔物の脅威にさらされ続けるこの世界も気の毒だとは思う。しかし、その度に異世界から無関係な人間を呼び出すというのもどうかと言う感じだが。

 まあその話は置くとして、そうやって過去に召喚された勇者については何故かその記録があまり残っていなかった。

 誰がいつ召喚されたかということは全て資料として残っているのだが、勇者の務めを終えたその後については何も残っていないのだ。

 戦いで命を落としたのか、あるいは無事元の世界に戻ったのか。

 俺達はそれを調べようとしたのだが、全く手掛かりさえ掴めなかった……はずだった。

「どこで手に入れたんだよ、その情報?

 つーか、何で今まで黙ってた?」

「皇城の第2書庫で見つけた資料にあったんだ。と言っても、戦いを終えた勇者がファンデール王国に向かったと書いてあるだけで、詳しい事は何も分からないんだけどね。」

 皇城には書庫が3つあった。

 城に出入りする資格を持つ者なら誰でも入ることが出来るのが第1書庫。俺はそこにしか入れない。

 第2書庫にはそれよりも重要な資料や書物が納められており、勇者である海斗は出入りが許されていた。

 そして、皇国の最重要機密が納められている第3書庫。そこには皇国のトップに立つ者達以外は、入るどころか近付くことすら許されていなのだ。

 そこにはおそらく俺達の必要としている情報が眠っている。そう予想していたが、どうやら間違いなさそうだ。

「まあ、それは分かった。で?黙ってた理由は?」

 少々きつめの口調で俺は海斗を問い詰めた。

 それはそうだろう。そんな手掛かりを掴んだのなら、すぐに教えてくれてもバチはあたるまい。全く薄情なヤツだ。

 だがそんな俺に笑顔を向けながら、またしても海斗は驚くべきことを言い出した。

「だって、それを教えたら空也はひとりでファンデールに行っちゃうだろ?

 だから今まで黙ってた。」

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