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02 勇者のお仕事

「勇者パーティーから勇者が抜けるって意味不明だろ。何考えてんだ、お前?」

 俺の言ってることは極めて真っ当なはずだ。

 だが、勇者・海斗には全く気にする様子が無い。

「だって空也をひとりで放り出すわけにはいかないだろ。」

 まあ確かにある程度この世界に慣れてきたとは言え、この先ひとりで暮らしていくのはかなり心細い。

 その点は有難いが、しかしあれは勇者のためのパーティーのはずだ。

 そこから主役が抜けると言うのはどう考えてもおかしい。

 俺がそう言うと海斗はちょっと肩をすくめながら笑った。

「パーティーでの僕の役目はもう終わったようなものだしね。」

 海斗が言うには、勇者には俺が考えているのとは別の役目があるらしい。

 勇者の力は強大だ。魔物の脅威を退けるには必要不可欠な存在である。

 だが、パーティーを引き連れて旅をするにあたっては別の役割があると言うのだ。

「彼等を鍛えるだけなら、何も僕が一緒に旅する必要はないだろ?」

 言われてみればそれもそうだ。

 勇者は別に彼等の保護者として存在するわけではない。勇者に護られながら旅をしたところで、彼等の実力向上にとってはむしろ逆効果になるだろう。

「勇者にはね、他の人の力を向上させる能力があるんだ。」

 俺は知らなかったが、勇者には他人の基礎能力を飛躍的に底上げする力が備わっているとのこと。

 だったら軍の教官でもやれば優秀な兵士を大量に作り出せるだろうと思ったのだが、そう単純なものでもないようだ。

 能力を底上げするには勇者と共に命懸けの闘いを繰り返す必要があるらしい。そのために一緒に旅をするのだ。

 そして、何よりも重要なのはその者が加護を持っている事。要はその加護の力を強くするということなのだろう。

 逆に言えば、俺みたいに加護を持たない人間はいくら一緒に旅をしたところで何も変わらないのである。

「彼等の基本的な能力は十分に上がったよ。もう僕の助けを必要としない程にね。

 ここから先はその力を更に磨き上げていくだけさ。そしてそれは自分自身で努力するしかないんだ。

 つまり、もう僕が一緒にいる必要は無いってことなんだよ。」

 なるほど、と俺は納得した。

 考えてみれば勇者がパーティーから抜けることを彼等が認めたのもおかしな話だった。

 いちおう引き留めようと努力はしていたが、海斗が考えを変えそうにないと判ると意外なほどにあっさりと離脱を受け入れた。

 おそらく彼等も、もはや自分達の能力向上に勇者の力は必要なくなったのだと気付いていたに違いない。

 でなければパーティーの存在意義にかかわるような事を簡単に受け入れるはずがない。

「確かにパーティーでの役目は終わったのかもしれないが、勇者の責務そのものが完了したわけじゃないんだろ?」

 いずれ魔物が軍をなして人間界に攻め入って来る。そう予言があったらしい。

 その時、仲間を率いてそれを打ち破るのが勇者の責務だと教えられた。仲間を強くすればそれで終わりというわけではないのだ。

 そして、その後にこそ俺達の本当の目標がある。

「魔物が攻め入って来ると予言された時までにはまだ何年か時間があるし、帰る手段が分かるものそれが終わってからでしょ?

 とりあえず彼等のレベル・アップが完了したんだから、後はそれ迄のんびりしててもバチは当たらないんじゃない?」

 どうにも緊張感の無い勇者である。

 元々海斗はこう言うヤツだ。器が大きいのか能天気なのか、あまり細かい事にはこだわらない性格なのだ。小心者の俺とは正反対だった。

 とは言え、大事な目的だけは忘れていないようで何よりだ。

 元の世界に戻る。それが俺達の望みだった。

 この世界に慣れ、幾人かの知人も出来たが、それでもここは俺達がいるべき世界ではないのだ。

『勇者の責務を果たした時、戻りの道は開く』

 俺達はそう告げられた。

 魔物の軍を打ち倒しこの世界に平和をもたらせば元の世界に戻ることが出来る、と言うことなのだろう。

 まあ実のところ、決してそれを鵜呑みにしているわけではない。

 本当は戻る手段などないのだが、勇者に希望を持たせるために嘘をついている可能性だって考えられる。

 だがもしそうだとすると、嘘がバレた後で逆に勇者を敵に回す恐れもあるのだ。

 俺達を召喚した連中もそこまでバカではないだろう。

 それが前段の言葉を信じる根拠なのだが、実際それを信じて行動するしかないのも確かだ。俺達には他に選択出来る手段が無いのである。

「それ迄のんびりするって言っても、どうするつもりだ?城でゴロゴロしてるか?

 まあお前はそれでもいいかもしれないが、俺の場合はちょっとなぁ。何せムダ飯食らいだし……。」

 海斗は大切な勇者だ。来たるべき日までのんびりと日々を過ごしたところで誰も文句は言うまい。

 だが俺は単なるオマケでしかない。そんなヤツが何もせず無為な日々を送れば当然風当たりも強いだろう。小心者の俺にはそんな生活を送るだけの度胸はない。

「魔物ハンターなんかどうかな?

 2人で一緒にやろうよ。」

 この世界には人間たちが住む大陸とは別に強い魔力に包まれた大陸、”魔大陸”がある。

 そして魔物とはその”魔大陸”を起源とする生物のことを言う。

 本来魔物は”魔大陸”の生き物ではあるのだが、長い年月の間に人間の大陸にも棲み付くようになってしまったのだ。

 元の世界で言えば外来種ということになるのだろう。しかも、特定危険外来種だ。

 奴等は時折人や人里を襲う。

 魔物は人間や普通の獣を凌ぐ個体能力を持っていて、一般人では太刀打ち出来ない場合が多い。

 大規模な魔物の群れであれば国の軍隊が討伐に動くこともあるが、全ての問題まではカバーしきれない。軍を動かすには金が掛かるのだ。

 そこで個別案件を処理するために魔物ハンターという職業が生まれた。

 半官半民、国からの補助と依頼者からの依頼料で運営されるハンター組合というものが設立され、腕におぼえのある者達に魔物討伐を任せるようになった。

 国としてもそれなりに出費はかさむものの軍を動かすよりは格段に安上がりだし、魔物による経済的被害を防げるのであれば損は無いのだ。

 ヘタをすれば命さえ失いかねないかなりブラックな職業ではあるが、そうでもしなければ食ってい行けない者達も少なくはない。

 この世界、俺達が住んでいた日本に比べればその文明レベルは数百年は遅れていた。中世か近世かは知らないが、まあその辺りである。

 そんな世の中で庶民が富や名声を手にするために命を元手にするのも、別におかしなことではなかった。

 一般に無法者扱いのハンターであっても実績を積みランクを上げさえすれば、巨額の富を掴み名士として扱われることも夢ではないのだ。

 まあ、俺達の場合はそこまでの必要は無い。

 あくまでも勇者の責務を果たし元の世界に戻るまでのつなぎでしかないのだから。

「勇者の仕事が魔物ハンターねぇ……何かいろいろとツッコミどころ満載な気もするけど、まあお前がいれば楽勝だろうしな。

 オーケー。じゃあ明日にでもハンター登録しに行くか。」

 ハンターになるには組合への登録が必要になる。

 未登録で魔物を狩ってもそれが犯罪というわけではないのだが、フリーでは中々仕事にありつけない。

 その点、組合に登録すればいろいろな仕事を斡旋してくれる。

 それに何より国からの補助が出ている分、ギャラも悪くはない。

 なので早々に登録しに行こうと考えたのだが、ここでも海斗はまた不思議なことを言い出したのだった。

「ハンターの仕事は、ここじゃなくて別の国でやろうよ。」

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