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のじゃロリ令嬢との婚約が破棄されたら国が救われた件について?

作者: 宇宙人

「なぜじゃ! なぜ婚約破棄なんじゃあああああ! わし、なんも悪いことしとらんもん! 良い子にしとったもん! ぶぇえええええん!」


 我が国の王子、アスラン様からの手紙を読み上げると、侯爵令嬢マイナ様(御年303歳、ご養子)が泣き崩れた。

 令嬢らしくハンカチを取り出され、顔に当てようとはしている。けれど、強く握りしめておられるハンカチは何も隠せておらず、小さなあどけないお顔が丸見えだ。


 大口を開けて盛大に涙を流し、黄金のように美しい長髪が乱れて頬に張り付いてしまっている。


「しかたがないのです、マイナ様」

「なにが仕方ないというのじゃ! アスラン君はわしに懐いておるのじゃぞ! 20年前からわしがおしめをかえてやっとったし、わしのあげる飴ちゃんをいつも目を輝かせて受け取ってくれとった! ……はっ! さてはわしらを陥れようとする陰謀じゃな! 伝令役のお主、今すぐそこをどけい! 300年で蓄えたわしの資産を用いて悪意ある令嬢どもや政治家どもに”ぎゃふん”と言わせて”ざまぁ!”と煽ってやるわ!」


 ぴょこぴょこ跳ねながら言い募るマイナ様に、私はとても言い出しづらい現状を説明した。


「お言葉ですがマイナ様。あなた様の資産はもうそうしたことが可能なほどには残っておりません」

「そんな馬鹿な! あれだけの量の財宝が無くなるものか! 誰かが盗みでもせん限り……はっ! さてはこれはわしの資産を目当てにした何者かの陰謀じゃな? 流石わし、賢い!」


 ああ、可哀想なマイナ様。

 残念ながらそれは違うのです。


「マイナ様の資産の金銀財宝ですが、まず、王家への輿入れ費で三割ほど減っております」

「うむ。この国の王のひいひいひいひいひいひいひい爺さまには世話になったからの。

 10代下の孫の世代を婚約者にしても良いと言われ、それからずっと侯爵家の預かりじゃったが、ついに待望のアスラン君が生まれた。

 結婚生活のためにわしらの愛の巣を盛大に築かねばならんこともあって、大奮発したんじゃ!」


 胸を張る、童子のような見た目のご令嬢。

 私は、色々と言い募りたい心を殺して説明を続けた。


「次に、侯爵家への御礼金でさらに三割減っておりますね」

「当然の報酬じゃ。わしの資産を運用してもらった恩もある。……まあ、その侯爵家のせいでわしは自分の資産を好きに使えなんだがな。まったく、少しくらい無駄遣いをしても良いじゃろうに」

「さらに、式典に向けての諸外国への特使の準備、マイナ様ご所望の”世界で一番美しいウェディングドレス”などなど、色んなものに資金が使用されております」

「む……待て、わしとて馬鹿ではない。あれじゃな、思いの外使い込みすぎてしまったということじゃな? ぬう不覚……もしやそれで、わしの資産はゼロになっとるのか?」


 恐る恐る、という風に尋ねるマイナ様。


「ご安心ください。ゼロではありません」

「おお! そうか! なら安心じゃ」

「王家への借金込みで元の資産からマイナス三割となっております!」

「なんでじゃぁぁぁぁぁぁぁ!? 安心はどこいったぁぁあ! というか、誰か止めてくれんかったのか!?」


 頭を抱え、取り乱すマイナ様に私は鎮痛な面持ちで告げる。


「それが、止めようとされた侯爵様は王命で一切の口利きの権限を剥奪されており……マイナ様の差金ですよね」

「うっ……し、しかし! あれじゃ! わしは王家に輿入れするんじゃろ!? 元の輿入こしいれ費三割と帳消し……とはいかんまでも、まだ家庭内のやりくりの範囲で……」

「ですから、その婚約をアスラン様から破棄されております」


 その説明を、まさに今日私がお伝えに来たのだ。


「そうじゃったああああ!?」

「何でも、いつまで経っても自分を子供扱いするマイナ様に嫌気がさしたとか」

「い、いや! きっとそれは反抗期じゃ! もしくは倦怠期じゃ! あと何年かすれば心変わりするに違いない! まったくアスラン君は可愛いのう」

「あと、幼児体型な婚約者は普通に嫌だ、と」

「アスラン君はいつの間に差別主義者になってしまったんじゃ! 小さいのも良いと昔から教えてあげていたじゃろう!」

「あと、素寒貧すかんぴんの一文なしになった女性はちょっと……、と」

「おのれ、俗物思考に染まりおって! 誰じゃ。わしの可愛いアスラン君を洗脳したのは!」

「マイナ様が毎日のように、嫁にするなら経済的にも自立した女じゃないといかん、とおっしゃっていたと」

「わしじゃったああああ!? ドツボじゃあああ! 自爆じゃあああ! 誰か時を戻してくれえぇぇ!」


 地面に横になり、駄々っ子のようにバタバタするマイナ様を見て私は安心・・した。

 

「踏んだり蹴ったりじゃ! もう仕事をやる気も失せてきてしもうたわ!」

「それは大変ですね」


 マイナ様の資産は実の所、正当性のなさそうな消費分について王家がきちんと差し止め、回収していた。

 あと数日もすれば、いくらかまとまった額がマイナ様の手元に戻ることだろう。

 私がそのように手配したのだ。

 

「もう嫌じゃ! 財産もないし、アスラン君もわしを好いておらんという! こんな国のためになぜわしがお役目を果たさねばならん!」


 ああ、とても良い傾向だ。

 私は笑みの漏れそうになった口元を引き結んで耐えた。

 マイナ様が、ついに私の望む話をされ始めたのである。


 マイナ様の抱えるお役目。国と交わしたとある約束。

 それがようやく破棄されるかもしれない。

 それは私の望むところだった。


「いっそ見捨ててしまっても良いのでは? とは私が言ってはいけませんね、はは」


 だから、どうかマイナ様。

 どうぞそのまま頬を膨らませて不貞寝するなりしてくださいませ。

 アスラン王子のことを忘れて、このままこの国を見捨ててやってください。


「はぁ……。……で? お主はわしがそう言えば満足するのかの?」


 唐突に、地面からむくりと起き上がったマイナ様がこちらを睨む。

 その眼差しに先ほどまでの駄々っ子のような色を感じず、当惑させられた。


「のお、アスラン」


 呼吸が止まった。

 私を睨むマイナ様の両目からは涙の跡がすっかり消えている。

 代わりに、幼い頃から私、アスラン王子を教育してきた、老練な教師の目。

 それが私へと向けられていた。

 

「お主に変化の術を教えたのはわしじゃぞ。まだまだ詰めが甘いのう」

「ばれて……いたのか。いったいいつから?」


 私はどうやらマイナ様に弄ばれていたらしい。

 あの駄々っ子演技も私を惑わすためだったのだろう。


「ついさっきじゃ!」

「……」


 私はどうやらマイナ様に弄ばれてはいなかったらしい。

 あの駄々っ子ムーブは素だったようだ。


「まあ、わしにお役目を果たすななどという者はこの国に他におらんじゃろうからな。

 それで、なんの用じゃ? 婚約破棄を告げるだけなら自分が来る必要もなかろうて」

「……予想はついていらっしゃるのでは?」

「まあのお……。あれのことじゃろ?」


 マイナ様が指さした先。

 我々の立つ貴族街の街並みから見下ろせる国の壁や外に、巨大な黒い亀裂が横たわっていた。


 それは、この国がかつて見舞われた「大災害」と呼ばれる呪いを内側に抱えた恐るべき代物だ。


 やがてこの国に再度の滅びを齎す危険な場所。

 しかし、封印の維持のために離れることも叶わぬ地。


 そして、かつてそこからもたらされた滅びの災厄を祓った者こそがこの国の守護神。

 このマイナという、現人神あらひとがみの少女なのである。


「傍目からは分からんが、もう封印はいつ解けてもおかしくない状況じゃ。

 王宮魔術師の分析じゃと、かつての大災害の数倍の規模の呪いが溢れ出す見込みなんじゃろ? 

 そうなると、わしが普通に制御できる力では封じることはできん。つまり……」

「あなたの命を消費しなければ、次の大災害は防げないのだろう?」 


 私の問いに、マイナは微笑みで答えた。

 その微笑みが私は悲しい。


「あの散財を見ていたら分かる。マイナ様、あなたはわかっていたんだ。今回の大災害の後、自分はもう生きていけないのだと」

「え?」

「え?」

「……」

「……」


 マイナ様が気まずそうに目を逸らす。

 どうやら散財については私の深読みだったらしい。

 だが、それは今どうでもよいことだった。


「先王様が……あなたの伴侶として私をあてがったのは、10代の後に再び起こるこの大災害まで、あなたを国に縛りつかておくための方便だ。違うか?」

「わかっとたさ。そんなこと」


 なんでもない風に言うマイナ様に苛立ちを覚えた。

 何故、そんなふうにしていられるのか。

 好きに利用されているのに等しい契約に、思うところはないのか。


「それでもわしは伴侶というものが欲しかったんじゃ」


 マイナ様の答えは私には予想外だった。


「見ての通りの小さな体じゃ。女としての魅力もなければ、そもそも子もなせん。こんなわしにまともな伴侶ができるはずがあるものか」


 それでは、マイナ様はそんなことのために命を差し出そうとしているのか。

 先王様との契約を交わした時点で、まだ見ぬ王子などという、価値もわからぬ男のために守護神としての任を負ったというのか。


「ああ、もちろん誰でも良いというわけではないぞ」


 マイナは両腕を広げ、実に誇らしげに胸の内を語った。


「のう、アスラン。わしはな、お前が生まれたのを誰よりも喜んだに違いないぞ。

 すくすく育っていくお主が、あっという間にわしの背を抜き、王としての仕事を学び始めた。

 毎日泣き顔だったりにっこり顔だったりでわしのところに来ていた小さな子供が、わしよりもしっかり財政を管理し、国中の者に信頼されるようになるのを見ておった。

 ずっと見ていた、ずっと隣にいた。

 そんなわしが、お主のことを好きにならぬわけがなかろう?

 そんなお主がいる国を守れるなら、この命の一つや二つ、惜しくないわ」

「それでは……あなたは、私のために……?」

「封印の方ももうリミットじゃの」


 不意に、足元が大きく揺れた。

 それが、王都の土地を全て巻き込んだ巨大な地震だと気づくのは一瞬のこと。

 御伽噺の伝承にある通り。

 かつてと同じく、「大災害」が始まりつつあるのだ。


「では、わしはわしのお役目を果たすことにするかの。財産もなく、伴侶もなく。気楽なもんじゃ」

「待ってくれ、マイナ様! あなたはそれで良いのか!? あなたが義理立てすべき相手はもういない! 少なくとも、あなたが望んだ婚約は私が破棄した! あなたが命を差し出す理由はもうないのだ!」


 必死だった。

 このままにしていたら、御伽噺の通り、国の守護神であるマイナ様は行ってしまう。

 かつてと異なり、自身の通常の力では抑えきれない大災厄に抗するため、己の命を散らしてしまう。


「何をいうかと思えば。

 わしを死なせたくないと思ってお主が図った婚約破棄。それで十分じゃ。わしは十分愛を受けた」 


 マイナ様の目が優しく結ばれる。


「その愛は、わしが命を賭す理由に足る」


 告げたマイナ様の身から、神々しい力が吹き出した。

 現人神としての力は黄金色のオーラとなって彼女の体を包み込む。


「お主に最後の授業をしよう」


 地震で体勢を崩し、膝をついていた私の頭に、マイナ様の小さな手が乗った。


「想いは力じゃ。世界を変える力。わしにもあって、お主にもある力」


 マイナの髪を束ねていた紐が弾け、羽のように広がる。

 神々しい、天使のような姿のマイナ。

 それがきっと、かつて国を救った守護神としての姿なのだろう。


「さあ、わしが国を救ったら、お主がその力で国を守るんじゃぞ! 約束じゃ!」


 マイナの足が地を離れた。

 神々しい光のオーラを纏い、マイナが空を目指して舞い上がる。

 咄嗟に伸ばした手は、その輝きを掴むことは叶わなかった。


 光の輝きは王都の上空を越え、街にいる多くの民たちに見守られながら大亀裂にまで飛んでいく。

 それはさながら、地を駆ける美しき流れ星のように。

 

「はーっはっはっは! 見るが良い! 国民達よ! 大災厄を齎した禍ツ神よ!」


 この国の者なら誰もが知っている。

 かつての大災厄から国を守り抜いた守り神。

 童姿わらべすがたのマイナという永遠の少女の名を。


「これが!」


 国民達は御伽噺で知っている。

 マイナ様が天に掌を掲げて作り出した、二つ目の太陽のごとく輝く眩い輝きのことを。

 彼女が蓄えた想いという名のエネルギーを燃やして作られた、尊い光の輝きを。


「わしの!」


 彼女が、自身の命をかけて制御しなければならないほどの力を秘めた、あらゆる災厄を退ける光の力を。


「愛の!」


 そして、かつての御伽噺では語られなかったほど巨大に膨らんだ神々しい力の顕現をその日、全ての国民が目撃した。


「力っ、じゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 マイナ様の全力が、大亀裂に向けて放たれる。

 金色の光球から眩い光の奔流が生まれ、空から地に向けて伸びていく。


 そして、その力に反応したか。

 大亀裂に施された封印が空気を割く音とともに臨界を迎え、内側のものが放出された。


 地を汚し、生命を奪う黒い荊の群れ。

 それが今回の大災害の形だった。


 津波の勢いで溢れ出して地を覆い始めた荊の群れは同じ猛烈な勢いで空に向けて手を伸ばし、白い天輪を纏った極太の光線と衝突した。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 マイナ様が吼え、二つの大きな力の衝突の衝撃は突風となって地を駆けた。

 王都の街並みが震え、市民達は慌てて壁の裏側へと退避する。


 先手を取ったにも関わらず、大災害の証たる黒い荊は怒涛の勢いで広がり、マイナ様の光線をも押し戻していく。

 王宮魔術師の予測通り、マイナ様の通常の力では敵わないのだ。


 ふたつの力の激突とは別に、地上から伸びた長大な荊が光線の発射口となるマイナ様を目掛けて鋭く振るわれた。

 身を包む光のオーラがマイナ様の身を守るが、荊の鞭が払われるたび、衝撃の残滓が地上に襲いかかる。


 地に膝をつき、腕を体の前に突き出して耐える私は、倒れないようにするのがやっと。


 これでは、マイナ様の戦いをただ地上から眺めることしかできない。

 

 ーーいや、違う


 マイナ様の最後の勲等くんとうが思い出された。

 想いは力だと。

 自分にも、世界を変える力の源はあるのだと。


「マイナああああああああああああああああああああああああああああ!」


 私は叫んだ。

 声の限り、天高くに舞う想い人に届けと。

 ただ、心の思うままに。


「大、好きだあああああああああああああああああああああああああ!」


 その声が届くべき人の耳に届くわけもなく。

 けれど、吹き荒れる風も、舞い上がる土も、火花を散らす光の砲台も、禍々しい力をこの世界に伸ばす闇も。


 全ての障壁を乗り越えて、確かにマイナの心に届いた。

 そう確信できた。


「ぃよっしゃあああああああああああああああああ!」


 マイナの繰り出す光の光線が輝きを増す。

 溢れる力が制御しきれない余剰のエネルギーと化し、光の羽と輪の形になって空から地上に降り注ぎ出した。


「相手が悪かったの! 大災厄!」

 

 地上に広がりつつあった黒い荊の群れは降り注ぐ光の羽と輪の雨に触れて急速に動きを鈍らせていく。


「わしは!」


 降り注ぐ光の雨は私の元にも届いた。


「天下の!」


 温かい、とても温かい光に、何故だか涙が溢れた。


「幸せものじゃああああああああああああああああああああああああああ!」


 光が弾けた。

 大災厄を飲み込むほどの太さになった光線は大亀裂へと到達し、その内側を眩い白い光で染めていく。


 空から舞い降りた光の羽と輪が舞い上がり、地上のすべてが美しい白の世界に変わる。


「……マイナ」


 空で弾けた光を見つめ、私は呟いた。

 最後の一瞬、彼女の形の大きな光が空を覆い、大災厄を退けるだけのエネルギーが生み出されたのを私は見た。


「ありがとう……」


 降りしきる光の雨を一身に受け、私は一人涙を流した。

 空にはもう、あの童のような見た目の、最高に馬鹿で優しく、そして美しい少女の姿はなかった。 


 救国の守り神の御伽噺は、今日で終わりなのだ。


 伸ばした掌に積もっていく光の羽と輪が小さな光の粒子に返っていく姿を、私はずっと見届けていた。


 




 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



「新婦、ご入場!」


 大災害が打ち払われ、数ヶ月の後。

 自分勝手な理由で守護神を解き放とうとしたことを父母に告白し、贖罪としての激務を終えたその後に。

 私は新たな婚約者との婚姻を結ぶことになった。


 かつてのマイナとの婚約は私が正式に破棄している。

 この婚姻の邪魔となることはない。


 荘厳な教会の扉が開き、美しく着飾った私のこれからの伴侶が現れた。

  

 薄く目を閉じた彼女の、ため息の出るほどの美貌に、参列者らのため息が漏れる。

 私も、彼女の最高の晴れ姿を見られたことに喜びを覚えた。


 大災厄が打ち払われた悦びに湧く国民達にさらなる幸せのニュースを届けようと。

 今日、私たちの結婚の知らせは国中を駆け回ることだろう。


 新婦の目が開き、式場と参列者、そして私の姿が映し出される。

 彼女の瞳に映る私もまた、彼女の全身をずっと映していた。


 童のような見た目、美しい金色の髪。

 私の頭を撫でるのが好きという、困った嗜好のある小さな両手に、放っておくとどこかへいってしまうけれど、必ず私のところに帰ってきてくれる小さな両足。

 私が世界で一番好きな女性がそこにいた。


「おお、アスラン! わしが見立てた通りじゃな! 決まっとるのお。それでこそ、わしの伴侶として相応しい!」


 厳粛な式の場を割って大声を出す、いつもの通りのマイナの姿に私は思わず破顔した。


「救国の英雄の伴侶としてですか?」

「うむ! そなたこそわしの最高のフィアンセじゃ!」


 私の待つ祭壇に向け、マイナは駆け足でやってくる。

 そのまま胸に飛び込んできたマイナを受け止めて、お姫様を迎える格好で抱え直した。


 式の次第もぶち壊し、王族としての威厳も何もない、ただ少なくとも、私たちが最高に幸せな結婚式。

 

「愛しておるぞ、アスラン!」

「私も愛しております、マイナ」


 心の底からの笑みを交わし、私たちは口づけをした。

 そんな私たちの姿に、一拍遅れた拍手の雨が降り注いだ。


 私以上に古くからマイナを知る父上と母上は苦笑しながら手を叩いており、兄上や姉上、弟達も冷やかしの表情を浮かべて拍手の輪の中にいる。


 マイナを代々支え続けた侯爵家の当主はいかなる種類か本人もわかっていなさそうな感涙の涙を流し、義理の姉であり義理の姪である婦人らは何か祝福の言葉を告げているようだった。

 

「おめでとう!」「おめでとう」「おめでとう!!」「おめでとう」 


 多くの者達の祝福を受け、手を振って礼を返す私たち。

 これからも共に歩んでいくことを誓い合った2人。


「アスラン、わしは幸せ者じゃな」

「ええ、私たちは天下の幸せ者です」


 私たちは手を取り合い、また笑みを交わした。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] コメディーとして読んだら面白いですね。 素面で読むと混乱しますけどね。
2022/02/23 13:29 退会済み
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