07 ASMRエルミナとプリムローゼ姫のお風呂
プリムローゼ王女とのその後の3本目の試合は言うにおよばず。実力通りです。
2本目は完勝したって? そんなこともありましたね。
姫騎士の雷光のような乱れ突きでなすすべなく吹き飛ばされた様は、我ながら轢かれたカエルのようだった。チートスキルのロードで勝っていい気になってたのなんて、現実の力の差を前に無力である。
ああ、別の必殺剣もあるのね……。そして今日の分の『セーブ&ロード』はもうありません。完敗です。
ほうほうの体で修練場を出て宿へと戻り、エルミナの手当てを受けていた。
聖女のエルミナがいてくれてよかった。女神アウラーラへの祈りをこめてふれたところから、打撲の痛みが嘘のようにやわらぐ。《治癒》ヒーリングってこんなに効くんだ――。
「大丈夫ですか? プリムローゼ様に勝ちましたね! 騎士のみなさまもとても驚いていました。兄さますごくかっこうよかったですよ」
銀の髪を揺らして本当にニコニコと言う。
「そ、そう……」
つぶれたカエルの惨状は見なかったことにしてくれるらしい。好き!
実はぜんぜん勝ってないんですがとは言えず、ダメージを回復させようと寝入る自分。
"姫騎士"プリムローゼはやばい。あの王女が魔王を倒せばいいのでは?
「もう、兄さまったら。ゆっくりお休みくださいね。こうして、胸をポンポン、てしてさしあげます
から。安心して、ごゆっくり――」
凹んでいる俺を見て、白いシーツの上から子どもにするようにエルミナが胸をたたく。騎士たちからの勇者への賞賛の声がうれしかったらしく上機嫌なようだった。
そういうことが好きなのか、自然な動作に甘えてしまいその日はそのまま休んだ。子守歌のように口ずさむやさしいメロディが耳に響く。
ちなみに王女は試合前の言葉通り、良い葉の紅茶をお土産にくれた。
歳下の少女になにをさせてるんだとさすがに正気に戻った翌日、ヒゲ熊の騎士――ギュスターヴから呼びだしがかかった。国王が会うとのこと。
***
――少し場面を戻し、試合を終えた日の夜。
「ふぅ……」
天窓から差し込む月明かりの中、広々とした浴室でプリムローゼはひとり今日のことを思い出していた。
王都は水に恵まれた地とはいえ、個人で気軽に風呂に入れるのは王家の者ならではの特権だ。
「――あの男の剣技、なんだったのでしょう」
あの男とは勇者のこと。薔薇と香油を浮かべた湯にその身をたゆたえ独りごちる。張りのある豊かな乳房は湯を弾き、この場に異性がいたら平静でいられないだろう。
国一番に美しいと言われた母を持つ王女は、その血を濃く引いていた。
油断していた1本目を取られたのはいい。想像より下の腕だったときのことを考えて力を抜いたのだ。もちろんそのていどのレベルなら城から追い出すつもりだったが、いちおうは客人。大けがをさせては悪かろう。
打ちこまれた肩口から胸もとへ手を滑らすと、肌をつたう湯が月光を散らす。
ありえないのが2本目だ。動きだしの瞬間にはもう対応に入られていた。まるで次にどこに剣が来るか知っているかのように、すべて叩き落とされた。動いた瞬間に? むしろ動く前ですらなかったか?
戦いかたを変えた3本目には対応できなかったようだが……。
「2本目と3本目はまるで別人のようでしたけれど」
あんな動きが人間にできるのだろうか。それこそが勇者なのか、あるいは女神の権能か――。思いをめぐらせても負けは負けだ。
なんであれ興味をひく存在に違いなかった。父王には取り次いでおこう。
目を閉じて腕を伸ばす。身じろぎして手のひらで湯を弄ぶと、真紅の花びらがくるくると踊った。また会うこともあるだろう。もしかしたらすぐかもしれない。
裸の美姫はそのまましばらく、たっぷりの湯の中でくつろいで身体を遊ばせていた。
(そういえば、いっしょにいた神官――聖女の子とはどういう関係なのかしら。まるで妹に見えないのに『兄さま』ってなに? そういうプレイ? 夜も英雄だったりするの?)
……王女が余計なことまで考えている間、当の勇者は自称妹に胸をさすられて寝入っていた。あまり変わらないかもしれない。