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58 人さらいです! 姫騎士様!

 王国の間者(かんじゃ)の住むバラックを後にし、俺たちはトレブの町を見て回った。

 目つきの悪い主人が営む一応の宿を確保し、猥雑(わいざつ)な市場を巡る。人通りはまばらだ。


 食材や日用品に混じって、明らかに盗品と思われる場違いな高級品や、得体の知れない薬草、出自不明の武具などを並べる露天があった。

 夕闇がせまり、暗くなる前に仮宿に戻ろうとしていたときだった。


「――見られてますわね」


 村娘姿のプリムローゼ姫が近づいてさりげなく言う。

 何かが俺たち3人の動きをうかがっている。町の魔物か、人か。


「少し歩いてみましょう」


「ああ」


「――はい」


 荒事は不得意なエルミナが緊張してこたえる。

 服だけを変えても、聖女様の銀の髪もローランド王女の美しさもあまりにも目立ったので、結局フードを手に入れてふたりとも被っている。


 油断なく気配に意識を向けつつ、路地の角を曲がったところだった。


「ヒャッハー!」


 ナイフを持ったごろつきが、先頭に立っていたプリムローゼに襲いかかってきた。

 姫は素早く身をひいて回避すると足をかけて転倒させる。


「ぐはぁ! ……て、てめえっ!」


 転ばされた男が怒り、周囲の影がドッと沸く。「ヒャハハ! 何やってんだおい、情けねえな!」


「――エルミナ、俺の後ろへ」

 

 姫と共に俺もエルミナをかばうように立った。風体の悪い賊どもに囲まれている。

 数は――近くに見える範囲でも7、8人。奥にもまだ何人かいる。


「なんですの? アナタたちは」


 姫なら抜き打ちで簡単に斬り倒せたはずだ。相手を知るためにわざとそうしなかったのだろう。

 薄暗い路地裏に響く、よく通る声を聞いて賊のテンションが上がる。


「ヒュウ……。上玉じゃねえか! 新しいおべべ着て、髪の毛もつやっつやだ。ワケアリのどこかのお嬢様ってとこかあ? 危ないぜぇ。こんな町に来ちゃあ」


 ごろつきたちから再び下品な笑い声が上がる。

 ……さすがにわざわざエルミナやプリムローゼの服や身体を汚す発想はなかった。


「どう危ないんですの?」


 俺が武器をかまえる(かたわ)らで、ローランドの第三王女は剣すら抜かずに尋ねた。


「人さらいにさらわれちゃうからなぁ。――オレたちみたいな!」


 わざわざ自己紹介してくれるとは親切なことだ。これで相手の正体はわかった。

 リーダー格の男がそのまま道の奥の仲間に呼びかける。


「お前らは先に行け! 俺たちはこいつらも今日の獲物にするからよ」


「へへっ、待ってるぜ」


 暗がりにチラリと、手枷(てかせ)と首輪をつけられた何人かの子どもたちが別のごろつきに連れられて行くのが見えた。

 プリムローゼの瞳が険しくなったが、今はまず目の前の敵だ。


「傷をつけるなよ。コイツは金になる」「その前に楽しむのはいいんで?」

「後ろの娘もすっげえカワイイぞ! オレにくれよ」「馬鹿言ってんじゃねえ、順番だ!」


 口々に勝手なことを言いながら、それぞれの得物をかまえる。ナイフや手斧など雑な近接武器だ。

 エルミナも欲望の対象にしたようでイラッとした。プリムローゼ姫? 姫はその……。


「男はいらん。やっちまえ!」


 この場のリーダー格の者のかけ声とともに、一斉(いっせい)に襲いかかってきたが――。


 ――キィン、カン! カカン! カッ!


「ぐわっ!」「がぁっ!」「な、なんだっ?!」「(かしら)、やべ……ぁぶばっ!」

「なんだこの女!! ぐっ、かはあっ!」「ちくしょう、騎士か?!」


 俺とエルミナが目の前の雑魚をさばいている間に、ローランドの宝剣を抜くやいなやプリムローゼが無法者を雷光の速さで斬り捨てていた。――うん。俺が姫の心配をしなくても。


 取り囲んでいた十人近くの賊があっという間に残り3人になった。

(なお、”姫騎士”は通称でありプリムローゼはあくまでローランドの王女だ。初見の悪党には区別が付くまい) 


「逃げろ! とんでもねえ!!」「化け物だ!」「た、助けてくれー!」


 逃走の判断は早かったが、それでも姫騎士の前では遅すぎた。


「ぎゃっ!」「がはっ!」


 残る3人のうち2人までを容赦なく後ろから倒し、プリムローゼ姫が最後の一人を追走する。

 

「あとひとり。追いかけますわよ! 子どもたちが気になります!」


 瞳がキラリと光ると、王家の剣を手にプリムローゼ姫がごろつきを追って裏道を駆ける。わざとひとり残したな。

 薄暗がりの見知らぬ路地をどうやって迷いなく進んでるのか、俺とエルミナは離されないようにするのに精いっぱいだ。


「エルミナ、大丈夫?」


「は、はい。兄さま」


 狭い通りを抜け、賊がサーカスのテントのような建物に逃げこんだ。

 意外に大きな構造物で、罠があるかもしれない。警戒すべきか。不確定要素が多く危険だ。


 決断すると、万一にそなえてパチリと指を鳴らし女神のギフトをこの場でセットした。『セーブ』。


「突入しますわよ」

 

 両開きの入り口の幕の前で姫が足を止める。振り向いた彼女へエルミナとふたりで(うなず)いた。


「よし、行こう!」


「はい!」

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