45 聖剣の鍵を探そう!
アウラーラの聖剣を台座から抜くにはどうしたらいいのか?
その鍵になるものを探すため、自分は門やゴーレムのほう、ふたりは石の台や神殿の周りを調べることに。
門の手前……にはそれっぽいものはなさそう。動かなくなったゴーレムも調べたほうがよさそうだけど、これ固いんだよなあ。
姫が壊したオブジェはゴーレムの方のキーだから違うだろう。……もし台座の鍵も兼ねてたら詰んでるから、そうじゃなくあってくれ。
そうこうしてると奥からエルミナが呼ぶ声がした。「兄さま! こちらへ――!」
聖女様が神殿の中で何か見つけたらしく、プリムローゼ姫といっしょに見ていた。
「記号みたいなものがありますわよ、ユーリ。何かのヒントかもしれません」
「どうでしょう? 石柱に描かれた跡がここに……」
台座の後方、指をさされた一本の石柱の下方をどれどれとのぞき込む。
***
――カギ ハ ゴーレム ノ ナカ――
固い物でこすった傷のように、そこには文字が書かれていた。
やった、バッチリだ!
「よっしゃ。ナイスヒント!」
エルミナとプリムローゼ姫に待っててと言い、さっそくゴーレムの所へ走って戻り詳しく観察してみた。
さっきも姫ににらまれたから、ちょっと頑張らないとね!
「ゴーレムの――どこだ?」
中も外もなさそうだけど、強いていうとあやしいのは胸もとの紋章か。そういえば台座のレリーフの形にも似ている。腕を振り上げたまま固まっている像の身体になんとか登った。
「…………」
うん。よーく見ると外れそうな気がする。
「ふんぬ! えいや!」
かすかな出っ張りに指をかけて引っ張ってみる。かたい!
ええいどれもこれも!
ゴーレムの不安定な胴体の上でふんばって取ろうとするが、風化したようにくっついたエンブレムは多少グラつくばかり。動く様子があるだけ聖剣よりマシか。
「――フンッ! せいっ!」
ガギッ、ガッ! ガッ!
素手はあきらめて剣を使うことに。本体と紋章のさかい目に剣先をこじ入れて隙間を広げていく。
ガキーーーーン……!
テコの原理でどうにか、固くはりついたエンブレムを引き剥がすことに成功した!
その下には――。
「ハァッ、ハァ。……あった!」
聖剣の台座にハマりそうな銅の鍵が出てきた。持ち手のところに盾のレリーフがある。間違いない。
ヒントがなければ気づくのに時間がかかったろうな。
見知らぬ誰かに感謝しつつ、ウキウキで戻った俺をふたりが不思議そうに見た。
ん?
「貴方、あれが読めたのですの?」
「アウラーラ様の権能でしょうか」
プリムローゼ姫は首をかしげて、エルミナはニコニコと言った。
「へ? だってそこにちゃんと書いて――」
はっきり書いてあるのに、ふたりは何を言ってるんだ?
柱に刻まれた字をもう一度見直す。
『――カギ ハ ゴーレム ノ ナカ』
何かちぐはぐな印象のある、けれどどこか見慣れた文字がそこに彫られていた。
『カギ ハ――』
その違和感の正体に気づくと、背すじがゾクリと震えた。
石か剣で傷つけたのか、柱に残された字は……。
カタカナだ!
――カタカナ。そう”日本語”だった。
***
「あ、ああ。女神の力かな?」
「なるほど! 兄さまだけにわかるヒントが書かれてたんですね」
「へえ、そうなのね」
さすが勇者さまですと聖女エルミナがすんなりと、王女もそのまま受け取っていた。
――本当にそんな単純な話だろうか。
最初からこの世界の言葉は話せるし文字も読める。けれど少なくとも字の形は異世界のもので。見るだけでなんとなく読めたから、そういう基本スキルは必要だよねと深く考えてなかったんだけど。
石壁に遺されたヒントは、たしかに日本語だった。
誰だ。これを書いたのは。
人のいた気配もない古い神殿に、文字だけがのこっていた。
自分をこの世界へ喚んだ女神のしわざとは考えられる。別の世界をつなぐほどの力があるなら文字だって書けるだろう。しかしそれにしては粗雑で、人のしたことに見えた。
美しい聖剣を置く神が、ヒントだけをこんなに荒い跡でのこすだろうか?
女神じゃないならカタカナを書けるだれかがここに跡を残したんだ。自分より先にいったいだれが?
ふいに日が陰ると、一陣の風が吹き草木がざわざわとゆれた。
***
「よ、よし! とりあえずこの見つけた鍵で聖剣が抜けるかやってみよう!」
「? ええ。それがいいと思いますわ」
「はい、そうしましょう。兄さま」
プリムローゼ姫とエルミナが応じる。
わからないことを考えてもしょうがない。
神の業でないとしても害のあるものには見えなかったので、今は前に進むことにしよう。先にこの遺跡に来た誰かさんへ。ヒントありがとう!