04 もしかして妹かも。妹だったらいいな。前世で妹だったかもしれなくなくない?
エルミナが言うには、最初は王都へ行くといいだろうとのこと。よかった、目標があって。
冒険の始まりは国王の城と決まってるか。お城も見てみたいし向かってみよう。道すがらこの国のことも聞けるだろう。
名前の呼び方は、妹(妹?)を"さん"付けするのはおかしいので呼び捨てにさせてもらうことにした。とくに気にしてないようだ。
エルミナは妹じゃないって? なんのことかな。異世界初めてだしわかんないなっ。
「それでは、向かいましょうか兄さま。近くに村があるのはご存じですか? そこで少し休んでから次の街へ行きましょう」
「わかった、そうしよう。エルミナ」
もちろんご存じじゃないのでおすすめの通りに!
晴れた空のもと、可愛い妹(妹!)とのふたり旅が始まる予感に胸が躍る。
***
「――はい。これで痛めた足もよくなったのでないでしょうか」
「おぉ、痛みが引いていく。さすが聖女様の奇跡、ありがたや……!」
歩いて小さな村までたどり着き、一休み。畑が広がり家屋は十数軒といったところだろうか。数十人くらいの集落らしい。
猟に使う罠で誤って怪我をした人がいたようで、《治癒》の奇跡を目のあたりにすることができた。《治癒》ってこれか!
エルミナが手をかざして祈ると腫れ上がった足にみるみる正常な血色が戻り、歩けるようになったとそれはそれは感謝された。
「私ではなくアウラーラ様のお力ですよ」
村人といっしょに感心して褒めると、照れたように笑う。
奇跡のせいだけでなく神官の職は尊敬されているようで、ずいぶん大切にしてもらえる。自分も勇者だとは告げなかったが、村はずれでコボルドを倒したというとよろこんでくれた。
何体か逃がしてしまって大丈夫かと聞くと、それでも助かるらしい。
「わしらも戦えますけぇな、ははは」
自衛は日常のことみたいで、武器になる鉈や農具はもちろん、槍や剣のある家まである。もしかしてと思って拾った剣を見せてみたが、村の物ではないとの話。
それならこのまま持っていよう。うん。
お礼にと食事までさせてもらったあと、買い出しにあわせてどうぞと乗せてもらえた荷馬車で次の街へとむかうことになった。
「いただいたお団子おいしかったですね、兄さま」
女の子なので甘い物はやっぱり好きなようで、エルミナがにこにことしながら言う。うむ!
***
「村では時間をとってしまって大丈夫でしたか?」
馬車を乗り継ぎ、街から街への乗り合い馬車の上。乗り合いといっても他に客はおらず、積み荷以外は貸し切りだ。(これも普通は人が少ないと出さないそうだが、エルミナが神職なので気を回してくれた)
聖女様だからかと思ったけど、そうではなく女神アウラーラへの信仰の賜のよう。
「うん、ぜんぜんいいよ。エルミナ。村の人も助けてあげないとね」
そんな話をしながら、揺れる荷台で話をする。向かいに座る少女のほほを風が撫で、ときおり顔にかかる細い髪を指先がよける。ついついジッと見そうになってしまう。
「王都に行くと――」
照れ隠しもかねて、この辺りのことを聞こうとしたときだった。
ギャアギャアと、叫び声のような大きな音が空から響いた。近づいてくる。
御者が辺りを見回し、俺が剣を、エルミナが聖杖を持ってそれぞれ身構える。なにか危険だ。
いた! 上空、翼の生えた小型の魔物が2体こちらを狙っていた。
ギフトを使うか一瞬迷ったが、回数制限があるという話に躊躇する。
いや、それ以前にまだ日をまたいでないから無理だ。
「来ます! 兄さま!」
すでに攻撃体勢に入っていた相手が、馬車が速度を上げる前に急降下してきた。
屋根のない荷も人むき出しの荷台だ。エルミナをかばうように背に回すと、覚悟を決めて剣を握り、身をかがめて迎撃の態勢を取った。
「ギャアアァッ、ギャアッ、ギャアッ!!」
空を飛ぶ速さは予想以上だったが、直視できればいけそうだ。
身体を正面に向け、すれ違いざまに爪をのばす魔物を下方から一閃した!
悲鳴を上げて吹き飛び地面へ転がる。やった!
もう一体! 集中力を研ぎ澄まし、返す刃で斜めから来るもう一匹を叩き落とした。
飛びかかる勢いもそのまま、砕けるように舞う羽を残し真っ二つになって馬車の左右へと散った。
やだ……! 俺カッコイイ!
「やりましたね!」
「おおおーーーっ!! 助かりました、剣士様!!」
華麗な剣さばきにエルミナはもちろん、馬車を出してくれた御者まで拍手喝采である。
貸し切りのお礼にもなったかっ。
どうだとばかりに立ちあがり、走行中の荷台から跳ね落とされそうになる。どわあ!
「ああっ、すみません! 立つと危ないですよ」
「き、気にしないでください。へっちゃらです!」
ドキドキ、ハァハァ。子鹿のようにプルプルと足をふるわせ踏んばって耐えた。
やだ、俺カッコ悪い!
し、しかし――。コボルドのときは『セーブ&ロード』が衝撃的すぎて深く考えなかったけど、やけに剣が手に馴染むような? まるで身体が振り方を知ってるみたいに自然に戦えてしまう。
地味な剣に見えて実は魔法の武器なのか? それともこれも勇者の技能?
「エルミナ、これって――。いや、なんでもない」
「はい?」
エルミナに聞いても知らなそうだし、カッコイイふりをしたかったので俺の剣技ということにした。きっと勇者が持ってるスキルなんだろう。
ギフトとスキル、なかなか強力じゃないか。
魔王と戦えとは無茶な話だと思ったけど、意外に親切な女神なのかもしれない。
気分よく前途洋々と王都への道を進んでいた。




