33 えっちな勇者様はロードできません
見間違いか? 麗しい裸のエルフたちに混じる褐色マッチョのムキムキボディ。
長くのびた耳はエルフのものだし、胸や腰を見ると女性のようだけど。
あまりにも気になり、つい木陰から踏み出してしまい……。
――パキリ、と音を上げて足もとで枝が折れる。
しまった!
「?!」
水浴びをしていた泉の何人かがこちらを振り向く。
見つかった!!
「キャッ! キャァァァァーーーーー!」
弁解すべきか? あたふたとする俺を見たエルフたちから悲鳴があがり、こちらを指さす。
水に濡れたさまざまな大きさの胸をその場で隠したり、逃げ出したりと反応をするエルフの中から……。
ヒュン! ――カッ!
ふいに飛んできた矢が俺のわきをかすめて横の木に突きたった。やばい!
森に住むエルフは弓を使うだろう。侵入者にすばやく対応した娘がいたらしい。
逃げよう! エルミナやプリムローゼ姫に合流してから話をつけに戻る!
ファーストコンタクトは最悪だ。とにかく女性陣といっしょになればなんとかなるかもしれない。
下草や木の根が絡みあう森の中をどうにか駆けようと走り出したところで――。
――ヒュルヒュルヒュル、シュパッ! シュパパ!
「え?!」
突然足もとをツタに取られ、転んだ。つまづいたかと下を見る。
つる状の植物が異常に伸びて膝下に絡みつき、さらに何重にも巻きついてきた。あああああああっ。
自然のものじゃない。魔法だ!
エルフたちに目をやると――よりにもよって、さきほどの黒マッチョ娘が素裸のまますっくと立ち、こちらへむけてなにか唱えている。精霊魔法か!
――一番エルフっぽくない娘だけれど。
「ああ、もう!」
剣で斬り払うも、生木のツタは固く絡みつく速度の方が早い。
締めつけるほどに両足を拘束されて一歩も動けない。こりゃダメだ。
ごめん、なかったことにしよう。
幸い締めつけは腕まで達していない。ここにエルフたちがいるとわかれば斥候の役割はすんだ。ロードしたら見つけたと言ってふたりの元へ戻ればいい。
出歯亀した時間を飛ばすのは悪いと思いつつも、女神のギフトを使うために左手の指を鳴らした。パチン!
『ロード』。
何度も経験したやりなおしの浮遊感にそなえて目を閉じるが。
……。
…………?
「――あれ?」
「おい、捕まえろ! あやしいやつだ」「はい! ヴァネット様」「みんな、あそこよ――!」
手近な布だけを身につけたエルフの娘たちが徐々に輪をせばめて集まってくる。
変わらない。巻き戻らない。パチパチとあせって何度か打ち鳴らしても同じだ。
ええ! まさかもう『セーブ&ロード』の回数切れ?!
それとも――。
昼間なのに急に、頭上でオーロラのように光がゆらめいて差しこんだ。
『――きゃあ。おにーさんのえっち♪ のぞき見しておいて、女神様のギフトでつごうよくなかったことにしようなんて、ゆるしませーん』
ぐっはぁっ。
開幕以来、ひさびさに声だけでメスガキ天使の念話が降ってきた。