03 女神のギフトと自称妹の聖女様
「ようこそ、女神アウラーラの統べる地へ。勇者のおにーさん♪」
超常の使者は当然のように言った。
話はやっ。小洒落たツインの巻き髪を揺らして水面の上空で微笑む少女。光り輝く天使の輪。嘘を言ってる場面には見えない。
「そうすると、これは――」
指を組み、パチンと鳴らしてみた。先ほどの異常な能力。
これだけで天使ならわかるだろう。
「セーブ&ロード。あなただけの異能です」
ゴクリとつばを飲んだ。なんだそれ――。
「1日に1度まで、指を弾いて好きな場所でセーブできます。同じ動きでロードできます。翌日にならないと次のセーブはできないわ。目的に関わりないことには使えないし、ギフトのことは自分から他人に言ってはいけません」
ギフトの説明になり、ややかしこまった口調で天使が答える。
すっごい……。
制限つきとはいえ、時間をやりなおせるのか。無敵じゃないか? なんでそんな能力に。
「あなたの希望ですよ。カブトムシに階段から落とされたのを死ぬほど後悔してたので。カブトムシをかわしていれば! スマホを見なければ! 石段を登らなければ! て。ププ」
俺、だっさあああーーー!
例によって心を読んだのか、天使が的確なこたえを返す。
「そ、そう……。覚えてないけどそんなこと言ったんだ」
そんな死に方をしたら言うかもしれない。
「能力には対価がつきものです。あなたには魔王ガスパードを討伐してもらいます。仲間とともに王の力を借り、伝説の武器を手に入れ、竜を倒しこの世界の諸悪の王を屠って下さい」
難易度高くない? 高すぎない?
御使いは挑発するような瞳でこちらを見ると、形の良い唇とあごに指を当てて言う。
「そういうの、お好きでしょう? ゆーしゃさん」
まあ、そう言われたら。
「大好きです!!」
握りこぶしとともにここ一番の笑顔で大きくうなづいたのだった。
***
そんなわけで一通り女神の天使から説明を聞くことができた。
「そうだったのか……。いわゆる異世界転生デビューをしてしまったのか。自分の強運が恐いな、フッ。それであの子は? この世界の俺の妹なの?」
真新しい神官衣に身を包んだ、長い銀髪の娘のことを尋ねてみる。
あんな綺麗な子が妹だって! うれしいなぁ、異世界最高じゃん。
「聖女エルミナですね。あの子はあなたを兄と思いこんでるだけです。問題ありません」
「問題しかない!!」
そこは妹じゃないのかよ!
「実力に支障ありませんので、かわいがってあげて下さい。――手を出すのはほどほどに?」
「ほどほどならいいの?!」
「エルミナでは不満かしら? あなたの旅へついて行くよう命じてありますが、望むならより神聖力の強い高司祭にチェンジさせられるわよ。おっさんになるけど」
「エルミナさんでお願いします!」
おっさんより美少女がいいに決まってる。
兄さま兄さまとよろこんでくれてる、あんな子をほうりだすなんて百回選びなおしたってあるもんか。
「やる気でなにより。それじゃあ、今度はせいぜい頑張りなさいね。おにーさん。そうそう、ギフトの『セーブ&ロード』は無限じゃないので。大事に使うのよ。さようなら……。なら……。なら……」
セルフエコーをかけながら天へ上り、うっすらと消えていく御使い。
その服で頭上に行くとスカートの中が見えるんだけど。もしかして履いてない?
て、そんなことより!
「ちょっ、待って! 最後のをもっと詳しく! 無限じゃないって?! じゃあ何回使えるんだ? おおーーーーーい!!」
光と共に天使が青空に消えると、再びのどかな風景が広がっていた。
…………。
***
「兄さまーーーーーーっ!」
「わっ」
これからのことに悩むより早く、駆けよってきた小柄な娘が俺に抱きついた。
!!
「お話はすみましたか? ああ、やっぱり勇者さまになって戻ってこられたのですね。エルミナは信じて待っていた甲斐がありました」
やわらかな風にプラチナシルバーの髪がなびき、押し当てられる身体にドギマギする。む、胸が当たってその……!
「えっと、あのね……!」
俺たぶん君の兄じゃないと思うんだけど。
「あ、すみません。私ったらはしたない。長いあいだ遠くにいた兄さまに会えてうれしくて……」
頬を赤らめてエルミナさんが腕を解く。あたたかな身体が離れてしまい寂しい。
「い、いやいいよ。うん」
「女神様から、勇者さま――兄さまへの同行を言い渡されました。えへ。ずっと修行をしてきたので、お役に立ててとてもうれしい。ふつつかものですが、どうぞエルミナを兄さまのためにお使いください」
天使様とお話できる聖女にも選んでいただけたんです、とはにかむように笑う。健気で愛らしい様子に胸がつまってなにも言えなくなる。
まだ少し頭がボーッとしてるし、ワンチャン本当に兄だったりしないの?
鈴のような甘く澄んだ声。細い手足に陶器のようになめらかな肌。取り巻く空気の色まで変わるようでなんかもう心臓に刺さる。え、結婚したい。
「よ……よろし、くっ! ともかく、が、がんばろう」
問題の先送りを断固決意して俺は了承の返事をした。緊張でキョドりまくりだ。こんなっ、かわいい子と! いられるならそれだけでいい。
魔王がどうとか言われたけど、そんなのどうでもいんじゃないか?
「はい、あらためてよろしくお願いしますね。兄さま。アウラーラ様に仇なす魔王、ガスパードを私たちで倒しましょう!」
半歩下がって、にっこりと微笑んで手をとる。
「ああ、もちろんだ! あの憎き魔王、悪の根源は――俺が倒す!!」
…………。
えっと、どの魔王だったっけ?
待ってろよガスパードとやら。
さあて、やろうか! 君のためなら!
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