21 王都への凱旋。大聖堂へ
翌朝。村の小屋で身支度をしながらゆっくりしていると、夜明けにあわせて洞くつを見てきた村の人が戻ってきてもうひと盛りあがり。
山肌の崩れた岩のあとに火竜エンシェントブロウは影も形もないとのこと。よかった! 今回は『ロード』も使わずにすませられたし言うことなしだ。
ただし地面からの妙な熱気だけはまだあるらしく、もしかしたら埋められた状態でも地の底で生きてるのかしら? 自力で出ることはできないと思うけど。
「それでは王都へ戻りましょうか、兄さま」
「にゃーにゃー」
「うん、そうしよう! みんなお疲れさま!」
世話になった山村の人にお礼を言うと、竜退治の感謝にと逆にたくさんおみやげをもらいそうになってしまった。持てる分だけで十分ですよ?!
つつしんで辞退すると、それなら3人の石碑か銅像を建てようと村人同士で話に花が咲いていた。マジか。
帰路は魔物に襲われることもなく、数日かけて歩きと馬車で王都へと。ローランドは主要な街道が整っていて、馬でも徒歩でも進みやすかった。
「本当に造るのでしょうか? 兄さまや私たちの銅像――」
「さ、さあ……」
生きているうちに銅像を建てる人の気持ちはちょっとわからないなと思った……。せめて石碑にしてほしい。
帰りの道中では勇者だと言ってない。聖女のエルミナがどこへ行っても人気なので、護衛かなにかに見えるようでそのままにしていた。
エルミナもふだん勇者さまと呼ばず、兄さま兄さまと言ってるのでこういうときはつごうがいい。
誰が知らせたのか、早くも道々でエンシェントブロウのことが話題になっている。フフフ。もっと讃えてくれていいのよ?
「山ごと埋めたらしい」「やっぱり剣や槍ではダメか」「騎士隊がついにやったのか」
「なんでも女神アウラーラの勇者と名乗る者が――」
一部誤解もあるがよしとしよう。封印したと言ったはずだが、街や村の住人ですらそんな妄言を信じない。
「いろんなところで褒めてくれてますね」
エルミナが秘密を耳打ちするように、こっそりと告げて微笑む。かわいい。
耳もとでささやかれると吐息があたってぞわぞわする。距離が近いんだってば。ああっ。
「ゆーしゃさま、顔赤いにゃ?」
「――き、気のせいだから! ミィ」
「えっ?!」
ミィに指摘されてなぜかエルミナまで恥じらって目を伏せてしまっている。
***
「おお、ご無事でしたか。聖女様、勇者様。聞きましたよエンシェントブロウ! あれ、おふたりですよね? いやあワクワクしますねえ。あとでぜひ話を聞かせてください。お部屋用意しておきますよ!」
しばらくぶりの王都。静かな村もいいがにぎやかな都の光景も楽しい。最初に来たときも使った宿にまた部屋をとってもらう。
王様に出してもらえた手形でこの街の宿屋はタダなんだよ! その分は国のツケになるんだって。だから遠慮なくいくらでも飲み食いしてくれと言われてしまった。ダメになっちゃう!
「あ、あはは。よかったですね、兄さま」
国王の権力に感心しつつ、人をダメにする手形について少々考える。まあ、火竜も倒したことだししばらく楽しみがあってもいいか。
「みゃー」
そうそう。まずは報告、それからミィだ。襲われてた馬車から勝手に連れてきちゃった奴隷の猫耳魔術師だから、そのままってわけにはいかない。
宿の部屋に荷物を置き、食事をして一息ついて。
さっそく城に向かうことにした。ミィには留守番をしてもらおう。宿の主人のおじさんにも見てもらえるよう言っておく。
***
「ハッハハハ。早馬から報告は聞いたぞ。火竜エンシェントブロウを生き埋めにしたそうじゃな」
開口一番、腕を組み玉座の前に立つ片目の王は説明するより先に言った。
さすが抜け目ない。あっという間にウワサが立ってたのはそれかしら。どこかに兵がいたらしい。
「ハッ。山ごと封印いたしました」
言い張ってみた。鋭い眼光の屈強な王様が苦笑する。
「封印かのう。まあよい、よくやった。騎士団に定期的に見張らせるが――ならば封印とやらが解けた折には、再度対処を頼んでもよいのか?」
「うっ。お知らせいただければ――」
やぶへびだった。まったく自信ない、ていうか無理!
二度と出てこないでくれ!!
「フフ。そなたを真に勇者と認めよう。討伐の報奨金の話も聞いた。補佐として戦った魔術師とあわせて3人分じゃな。十分に出してやるゆえ心配するな。これからのローランド国での活動もいっそうの手を貸してやろう」
「ハハッ」
「感謝いたします。ロードレオ王」
ミィはそういうことにしておいた。奴隷というとややこしいしね。
臣下ではないから『ハッ』て返事に違和感があるんだけど、じゃあなんて答えたらいんだろう。
「勇者ユーリよ、他になにか望むことはあるか?」
「あ。それでしたら――」
エンシェントブロウとの戦いを経て、いまさらながらに天使の言葉を思いだしていた。『伝説の武器を手に入れて竜を倒し――』メスガキもとい女神の使徒はそんなことを言ってなかったか?
洞くつでの最初のエンカウント。真正面から一撃を入れられたのは千載一遇の好機だった。もしあのとき、火竜のうろこに負けない剣を持っていたら。
王女に借りた貴族の剣は竜に通じなかった。どこかに竜に、そして魔王に対抗する武器があるんじゃないか。
そう王様にたずねると、しばらく思案してから答えをくれた。
「魔王にあらがうための武器というと、聖剣の伝承がある。神の剣であればアウラーラの加護に属するものであろう。ならば聖堂の者に聞くのが最善。聖女エルミナよ。大聖堂へこの者を案内いたせ」
「はい、王様。仰せつかりました」
エルミナがつつしんで了承する。ふむふむ、女神の聖剣か。伝説っぽいな?
そんなわけで王様との謁見もすみ、城を出て大聖堂に赴くことになった。
「ちょうどよかったですね、兄さま。聖堂に行ったらミィちゃんの話もしましょう」
聖堂には修道院が付属してるから、連れて行けばきっとよくしてくれるだろうとのこと。
そんな施策があるんだ。