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凪紗が来ない理由とアヤメの思い

旧ディスピカブル・ギイジャロッカ統括地区・召喚者領内西棟・F2-205室に凪紗と莢蒾はいた。

「まだ好きだったって、そんなこと今更言われても」凪紗は泣いていた。莢蒾が伝えた深刻な事実は針のような鋭さで凪紗の心を抉ったのだ。

「まだ早いよ……だってさ、私たちまだ中学生だよ?!いくらなんでも早すぎだよほんと」「ご、ごめん。私が思案した案のせいで」「アヤメのせいじゃないよ」「じゃぁ今日は私ひとりで行くよ。桜苗(さくらえ )さんに頼んでおくからね?」「う、うん……ほんとごめん。なんかあの日と辛い事のかさなりで……うっ」「ゆっくり休んでいいからね」凪紗を布団に寝かせると莢蒾は部屋を後にした。桜苗に事情を話し、託すと部屋に戻り扉にもたれ掛かる様に座り込んだ。「私だって辛いよ、見届けたんだし」

頬を2回ほど叩いて立ち上がり、国境へ向かう。1国を占領してから他国の動きが目に見えて変化していたからだ。

「あぁ、つまんない……」目に影が点り、再びあの頃に戻る。石を蹴り、舗装されていない道を通る。毎日なら少し落ち込めど楽しそうに話す凪紗と居たが、ダメであった。今日に限っては、いやこの先数日は難しいだろう。

国境は酷かった。毎度の様に旅人が消え、地面には死臭が染み付いていた。

「うえ、臭いな……また臭いが増えてきたよ」次に蹴った石が消えた。どこに消えたのか、キョロキョロと探るとアヤメは背後から気配を感じた。

「むッ、かわされたか。貴様ただのガキじゃないな」すっと頭を下げ、敵の鳩尾に狙いを決め、蹴りを入れる。敵はかわしながら距離をとる。「はぁ~、もうさ。キャラ被るのめんどくさいのよね。あんた丁度いいや、たまーにストレス発散しないとトゲが出ちゃうからさ」髪をかきあげ、ジャージの上を脱ぐ。「ほぅ、俺相手にビビらないとはな。さぁこい」「いいよ、でもすぐ終わるなんて言わせないでよ?」「参考までに名前を聴いておこうか、俺の名前はジャル・ペンダーゾルー。プロの殺し屋だ、まぁ名前を知ったからには死んでもらうよ」「莢蒾アヤメ、哀れな女の子よ」ジャルの投げたナイフがアヤメの横を通る。「へぇ、避けると踏んだが場数はこなしてるみたいだな」「軌道くらい読めて普通。私をガキと思って舐めていたら死ぬわよ」そのナイフを手に取り、投げ返すアヤメ。だが、その時には消えていた。

「ふ、なかなかやるな小娘。だがこれならどうかね!」鎌がアヤメの首を捕える。「このまま死ね!」ジャルが鎌を引くが

急に深まる霧に姿を消すジャル、それに対してアヤメは焦ることなく目を瞑る。「【ガイダス】All armed Launch───殺戮を唄え」霧を纏うように現れた無機質な鉄人が火を噴く。「な、なんだこれは!」攻撃手段を絶たれたジャルは焦って霧から飛び出る。「これだから……つまらない」鉄の手がぬっと、現れ縊り殺した。

「はぁ、だるい。なんでこう1回でみんな来ないかな。どうせ死ぬんだし、今日も明日もない」再び見回りに戻るアヤメ、あげた髪を下ろすとまた暗い少女に戻る。

また歩みを進める。ポイントの小屋に着くと、扉をノックした。「はーい」優しい声が中からする。牧絵ミチルが扉を開けアヤメを招き入れる。

「どうだった、アヤメちゃん?はい、これお茶だよ」湯呑みを受け取り一服する「あっち、ふーふー。うん美味しい」「ふふ、愛らしいね。あれ、凪紗ちゃんは?」返答を待たずに新しい問いを出すミチルにあたふたするアヤメ「あのその!凪紗ちゃんはアレで……それと道中に変な人がいたけど向こうの国に行っちゃったからその」手をバタバタと説明するアヤメをゆったり見つめるミチル。「いいよ、ゆったり話していいよ」「うん!でね、でね!」話終え、戦線の補填箇所を決めていく。「そうだねぇ、アヤメちゃんがいう変な臭いのする場所付近にも私の【ウジャトの目】を使っておくわ。過去に何があったかまでは見れないけど今後何が起こるかは見通せるわ」「あ、あと!7箇所補填するのはどうするの」「うんとね、秋野が今やってる迷彩壁が60パーまで行ってるからそこの進行度次第では後6箇所までカバー出来るから。あと一つはね、西崎に任せる予定だよ」「西崎さん?わかったわ。この調子だともうひとつくらい国が取れちゃうかもね」「はは、本当はそんなの喜んじゃダメだよ?中学生なんだから、もし元の世界に戻れた時そんな考えのままだと困るよ」ポンポンとアヤメの肩を叩く「そうだった!平和ボケの次は戦争ぼけしちゃったかも。じゃ、行くね!ミチルちゃん」「はーい」小屋から出て元来た道をたどる。

その足で王都に向かい、街中をぶらぶらしていた。日本では見かけないお店だが何回も来ていればもう見慣れた風景だろう。「アヤメちゃーん、コロッケ作りすぎちゃったけどいる?」いつも多くコロッケを作る肉屋のおばちゃんに「アヤメちゃんポーション居る?在庫抱えすぎてね」常に在庫を抱え過ぎるポーション屋。「そんなー、悪いですよ」と言うのも最初のうちでだんだん普通に貰い、お礼を言う流れになっていく。買い物をしなくてもご飯が、物が揃う。


次の日も同じであった。弱気な凪紗を介抱し、部屋を出る。「ごめんね、桜苗さん!」「いいよ気にしないでよー、アヤメは頑張ってるんだから。それに前線で頑張るふたりには休んでもらいたいくらいなんだよ、アヤメも定期的に休むようにね?」「うん、わかった」

召喚者領の外れにある資材置き場に足を運ぶと翡翠に似た者がせっせと木を加工していた。

「ひ、翡翠君?」走って駆け寄る。そして盛大に転けかけた。「大丈夫ですか?」無機質な機械音声の者に身体が支えられていることに気付く。「は、はい。あれ?翡翠君じゃないの?」「データ参照。該当人物データは見当たりません」「あ、そうだよね……アレだけの爆破じゃ」「力になれず申し訳ありません」「気にしないで。それと宜しくね?お手伝いに来ました」

淡々と資材を加工するロボットと運搬するアヤメ。【クロミス】が指定の場所まで資材を運ぶので実際はその操作であるが。

「おー、カッコイイ!ししょーもこんななんだっけ、ロボットットだ!作ってた!」間抜けな声がしてアヤメは振り返る、後ろにラブリュスが立っていた。「領主様おはようございます」ぺこりと挨拶をするアヤメと領主様と言われ若干困り顔のラブリュス。「ラブリュスでいいよ!それよりこれかっこいいね、なんて言うの?」キラキラと目を輝かせて【クロミス】を見るラブリュス「これは私の力です」「ほへー、いいなー!私なんてなんにも無いから自室に籠って紙に名前書いてばっかだよ」「大変ですね、ラブリュスさんも。良かったら終わった後、乗りますか?」「え?!いいの!」「うん、だって私達のために全力でここを改築してそれぞれにあった仕事を分配してくれたのは貴女でしょ?」「あー、え?うん多分そうかな」ポケーとしたあと何かを思い出したように頷くラブリュス「それなら私もなにかお礼がしたいし」

作業を終えると、ラブリュスが出てきた。「アヤメー!」「ラブリュスさん、どういうのに乗りたいですか?」「カッコイイやつ!」「かっこいいやつですか、それなら【アザレア】」膝をついた状態で地面に現れた人型のロボット。「私は操縦席に乗るのでラブリュスさんはその後ろに乗ってください」アヤメが操縦を開始する。立ち上がり、走り出す【アザレア】「おー!早い早い!」「どこか行きたい場所とかありますか?」「ならあれが見たい!国境沿いで危ないから行くなって怒られたけど見放しの滝」ラブリュスの期待通り、見放しの滝へ向かった。「見放しの滝って名前だけで本当は絶景なんだよー。最近アヤメ辛そうだったからリフレッシュにはいいかなーって!どうかな!」ガラス越しにも綺麗な滝。「見抜かれてましたか。実はあそこの領地を制圧した際に翡翠君って子が死んじゃったんです……」「そっか、大切な人を無くしたんだね」「でも私は我慢してました、でも私より悲しむ人を見ていると私まで辛くなって」「泣いてもいいんだよ、それに困ったら私に言ってくれればお話も聞けるし!これでも1000年は生きてるからね!」「はい」滝を眺めながらラブリュスと話すアヤメ、小一時間はたっただろうか。

「さて、ちょっと待っててね。ついでに先祖へのお参りもしていい?」「いいですよ、ラブリュスさん。あ、私もお参りしていいですか?沢山お話聞いてくれた良い人ですって伝えたいです」共にお参りを終えて、領地へ戻っていく。


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