戦争最速終結の理由と無欲
血煙の臭いとは嗅いだことがなくてもどこかわかるのか。微かに漂うその違和感に振り向くとラブリュスが小屋の奥から立ちのぼる煙を見ていた。
「ヴェートル?!何かやらかしたのか」駆け出そうとするがラブリュスに停められる。「戦争、民主制ギイジャロッカと軍国主義のディスピカブルの衝突ね」「なぜ分かるんだ?」「臭い、師匠が作った物だよ!師匠が教えてくれた!この臭いと煙の濃さで見ると向こうのほーで向こうで争うのは2国だけだから!」「少し賢いと思った僕の気持ちを返せ」「やーだ!賢いし」「で?ラブリュスはどうするんだ?」「行かないよ。無駄だし」「そうか、ところでここは安全か?」「うん、そもそもひすいがここに入った事の方が問題くらい」「なら大丈夫だな。ヴェートルを頼むよ」「ひすい行くの?」「なーに、知り合いに挨拶するだけさ」「ならいいよ!行ってこい!」
「ヴェートル!いくよ!って居ないか。能力!【並行移動】」
煙の方へ移動すると木々が折れ地面からは蜃気楼が立ちこめていた。
「あっつ……」
デタラメな程の機械兵が森を焦土へと変えていた。
「そういえば僕って戦えるのか?」そんな疑問も虚しく独特の機械音が鳴り、銃口が向けられる。
『敵機発見。A隊からB隊まで全軍殲滅作戦へ』
キュイィィィンと言う音と閃光が同時に発生する。
「くっ、避けるしかないけど避けられねぇー!いてぇー」背中に弾丸を受けながら走って逃げた。時々前から飛んでくるミサイルを避けながら……
「え?ミサイル?!」「翡翠!頭を下げて!」凪紗と莢蒾が【ガイダス】に乗りながら現れた
「い、行くよ!【ガイダス】!All armed Launch!!」山を土ごと抉る程の火力が機械兵達へ叩き込まれる。
「パ、パネェすっ莢蒾さん」「うん!」爆風に乗りながら山を降っていった。
「状況から言うと宣戦布告前に向こうから攻めてきたってとこよ。今の所こっちも向こうも死人はゼロ。感謝すべきなのかなんなのか」「なぜ敵は機械兵ばっかなんだ」「王様曰く軍国主義の国は需要品生産に人を回すから戦力の一部を機械兵でカバーするんだってさ」「それで?ルドゴーフェルとやらは一体どんな国なんだ……」「私達を前に捕らえた国よ。能ある鷹は爪を隠すって訳じゃないけど似たような事をしていたみたいね」「なるほどな。向こうとこっちの戦力はどうなんだ?」「こっちは軍が3万人ほどと私達学生が33人ね」「僕が加わって34人か」「違うわ。美志戸が持病で倒れてるからあんた入れて33」「アイツこんな時まで鬱かよ……」「しょうがないでしょ、血気盛んなアンタらはいいけど全部弱っちい美志戸からしたら……」「そうか……」「まぁそういうこと」「向こうはどうなんだ」「機械兵が推定50万機と歩兵空兵6万ってとこね、まぁ今ので49万になったかもだけど」「なんか機械兵に有効な能力者とか居ないのか?」「牧絵と秋野が対抗策を持ってるから頼るしか無いわね。あいにく向こうにも能力者が居るらしくね。ちょっと苦戦気味みたい」「能力者って僕らの特権じゃないのか?」「えぇ、簡単に言うと異界人がこの世界で生き抜く為に神様が与えたとかなんとか。その恩恵はひ孫の代まで有にあるってね……私達より前の奴らがこっちに残ったか村娘とヒャッハーでもしたんじゃないかな。どの国も人口の30パーくらい居るみたいよ」「なんと迷惑な……」「まぁでも世代跨ぐと弱くなるみたいだから私達より断然劣るけどね?」「なら余裕か。僕は能力的に運搬くらいしか出来ないけどなんか出来るか?」「え?そんなけしかできないのにノコノコ来たの?」「ほら、なんというか」「私の能力が【ヘパイストス】、簡単に言うと私がぶっ倒れるまでは武器作り放題って事。形しか知らない武器とかも作れるから便利よ。もう1つはあんま意味ないけど解析かな、前提の形しか知らない武器ってのを作る為に必要な何か」「むちゃくちゃだな……」「それでアヤメの能力が【デウスエクスマキナ】よ。私が武器を作ってアヤメが操作するロボで戦うって感じ。翡翠が活躍するとしたら【ヘルメス】の能力で連絡があった時、キツい前線に私達を移動させることくらいかな」「あぁ、それはいいが。いいのか?そんな最前線ばっかで」「敵兵見たら分かるでしょ、いくら躊躇なく倒せるからと言っても数が半端ないのよ」「わかった、なら少しでもやれることをするよ」
形の変わってしまった山を背に別の前線へと飛んでいく。
「【ガイダス】!ファイヤー!!!!」
無限とも言える兵装コンビが戦場を優勢に変えていく。
「【ヘパイストス】アヤメ!追加分!」「【並行移動】!」
しかし凪紗が1時間と経たずに倒れた事により前線を退いた。
「怪我をした人はこっちへ!!俺の能力で治すから!」生徒会長柏岡ロウシが次々と運ばれる人たちを治していた。「すまん、凪紗を頼む」「む、承った。すまない我々選ばれた者では無い君がこうして前線を手伝う事になるとは」どうやら冒険服に着替えてたのもあって村人と勘違いされたようだ。まぁいいだろう、アイツらはなんだかんだ口が堅いがコイツは正義感で動くからな。
「あ、あの柏岡君も頑張って」「君は確か莢蒾君だっけか。あぁ、君こそ期待しているよ」
「いくよ、ひす……少年?」「お、おう」正体を明かさなかったから隠したいと悟った莢蒾が呼び方に困惑をする。「ヴェートルでいいよ」「ヴェートル行くよ、武器が無いから人助ける」「OK、莢蒾さんはみんなの動き分かるでしょ?座標指定は任せたよ」
ガイダス事山奥へ移動した。莢蒾の指定した場所だが誰も居ない。
「莢蒾さん?誰も居なくない?」「あ、あの!凪紗ちゃん居ると出来なかったから。戦争って敵のトップを落とすのが1番と思うの」「大人しい顔してサラッと恐ろしい事言うなよ……」「私に任せて。確かに凪紗ちゃんがいないと兵装の数が少ないけど、ガイダスの内部エネルギーを暴走させて敵の城に落とせば陥落出来ると思って……その!だ、だからそれを運ぶ作業を頼めるかなって」ぎこちない、だがその目には闘志が宿っていた。「いや、しかしだな。その操作して大丈夫なのか?」「も、元々能力で出すものだし!それにエネルギー暴走モードしても逃げる時間くらいあるよ」「ならいいけど、それで?そのモードとやらは時間かかりそう?」「う、うん。少しだけ持ちこたえてくれると」周りを囲む機械兵の方をむく。ざっと6機「莢蒾さん、任せて」
機械兵が銃口から弾を吐き出す。「【並行移動】!」
弾を逸らし相手の死角に潜り込み胸部装甲を貫いた。
「余裕ってんだ、おら!次」
追加の兵は来ず6機を倒しきる頃には準備が終わってたようだ。「ひすいくん、できたよ」「よーし【並行移動】」しかし能力が発現しない。弱々しく魔法陣が展開されスグに消えていく。
「な、なぁ莢蒾さん。ガイダスの有効距離って分かるか?」「わ、分からないけど都市部壊滅くらい出せると思うよ!」「莢蒾さん、どうやら1人分なら行けそうだ」「え?」莢蒾の腕を掴み能力を発現する。
「【並行移動】!凪紗にまだ好きだったって伝えてくれ」莢蒾が何かを言っていたが聞き取るまもなく消えていった。「さーて、原因はこれか」目の前にエネルギー切れまで残り6分と出ていた。「ヴェートルの言うこと聞いときゃ良かった」ガイダスに乗り込みディスピカブルの上空まで進んだ。前に壊した塔は崩れたまま、街中は閑散としていた。「城はあそこだな。操作めんどいなこれ、えっと落下はこれか」急降下を始めるガイダス。
『動力路暴走率45パーセント。パイロットは直ちに脱出をしてください』アラームが鳴りびくコックピット内部。
「【並行移動】!!ちっ、やっぱダメか」
鈍い低音を響かせながら城の中庭に着地した。機械兵が集まって銃弾を浴びせるがエネルギー暴走で発生した熱気で機械兵達の動きが止まりだす。
「熱くなってきたな……【並行移動】!!」じょじょに熱気が内部へと侵入してくる。未だに能力は発現しない。『機体損傷率63パーセント』アラーム音が響く。「いやー、やっぱ調子乗ってこういうことするせいかな……今更あれだけど怖いな、まだやってない事。沢山あったのに」『動力路暴走率80パーセント』コックピットを開けるボタンを押すが熱で溶けてるせいかめり込んでそのまま戻ってこない。「え?あー、そうかヴェートルが触角機能弄ってたもんな……」『動力路暴走率99パーセント』「もうすぐか……」『YESマスター。想定半径500メートルですね。私に能力使用の許可をください』溶けかけたガラスカバーの上に機械人形が立っていた。「ヴェートル!!」『YESマスター走ってきました』「あぁ、いいぞ。許可する」『マスターにより許可。受理。能力起動。【並行移動】』
閃光と共に視界が変わる。地面に足が着いた感覚を覚えると同時に爆風で飛ばされた。
「うぁぁ?!」『マスター。危ないですよ』
ヴェートルに支えてもらいながら爆風の方を見ると隕石でも降ったのかと思わせる程に地面が抉れていた。
「助けに来たのか?」『YESマスター。ヴェートル本体より緊急通信が届いたので』「そうか……さて、助かったんなら他の機械兵共を片付けるか」『マスター。ラブリュスが全て倒しました。彼女にはマザーが研究用の土地を欲してたと言ったら動いたので』「なんと悪質な……って事は俺らの勝ちか?」『YESマスター。今回の戦争は圧倒的勝利です。ですがいくら敵であれ民間の居る地域への攻撃は些か不服と思います』「あ……あいつらに囚われてた人達もいたんだ……」『マスター。貴方は少し学ぶ必要があります』「悪かった……こんなんじゃ威張って国落としてきたなんて言えないな」『NOマスター。民間人と囚われていた人達はヴェートルで回収済みです』「え」『後悔と安堵。今思った感情を忘れないでください。貴方がやらかしてもカバーしてくれる人は居ます。やらかして後悔をし。カバーしてくれる人たちへは感謝をし。そうして人として成長してください。今はヴェートル。私という強いカバーする人がいるので』「泣かしてくれるねぇ、まぁ涙は出ないけどな」『国への報告等はラブリュスさんがしてくれるので御安心を。マスターは休養という名の私と共にパーツ組み換えです』「ラブリュスに任せられるかよ!アイツバカだぞ」『NOマスター。彼女は曲がりなりにもマザーの土地全てを修得しているそうです。つまり2国近い領土を保有する土地主です。国としてはある種、王様と対面している感覚でしょう』この後帰ってきたラブリュスは土地なんて要らないからあげてきたと言った。
実情を付き添いでいったヴェートル2号に聞いたら「安心してください。召喚者領として使われるそうです」と。旧ディスピカブル・ギイジャロッカ統括地区・召喚者領、領主ラブリュスとなったらしい。
「私領主やだー、ヴェートルかひすいかわって!土地もお金もいらないから師匠の愛が欲しいの!」「やだね」「NOラブリュス。私も困りますね。ヴェートルという名ではバレないでしょうが契約印を使うのでその過程でバレます」「うげぇ……ちゃんと2人もフォローしてよ!」「「あ、うん」」