追われる理由と借金
事の始まりは些細な事であった。クラス丸ごと召喚された3年6組の中で僕一人だけ死んで魂だけになっていた。
僕は転生先の国の宝である機械人形に乗り移り自我を保っていた。みんな召喚者特権という特殊能力を持ってる中、1人機械人間として……いや、1人だけ宝物庫で目覚めたから今のは妄想だ。
分かるのは超強化された視聴覚から得た物しか無かった。
1つ.クラス丸ごと転生してしまった
2つ.みんなは召喚された
3つ.僕は人間の見た目をしたロボットに入ってしまった
4つ.チョロっと聞こえた事だが能力があるらしい
5つ.能力は特殊な装置で誘発する事ができる
6つ.人権は全て王国により補償される
7つ.死後もしくは王国の要求達成後、元の世界へ帰還できる
8つ.この国での違法行為は一定の裁量基準に基き刑が執行される。
と、この具合。召喚者と呼んでいるあたりその辺のマニュアルは存在するのだろう。扱いも基本的人権がどの程度かは知らないが保証されるとなれば安心はできる。
『さて、どうするか……部屋は暗いな』辺りを見渡すが夜行モードによる緑色の視界が広がる限りである。
『音声も変えたいな。どうすれば』ふとした疑問に答える声があった。『マザーシステム起動。認証開始。マスター指示をどうぞ』脳内に響く声。いや、脳内なんてあるのか分からないが、そんなとこだろう。
『君は誰だ?』『YESマスター。その質問に対する適切解はありません』『もう少し簡易的説明をできるか?』『YESマスター。私には名前がありません。その為に誰だと聞かれても答える為の回答がありません』『なんだそんな事か』『類似解ではVERTOL-nsとありますが』
『えすぶいいーおーだぶるーえむ??』『ヴェートルの中性タイプです』『なんかかっこいいな』『私をシステムしたマザーはまだ眠りに付いたままです。ですので今の駆動系統制御システムを担っているのは貴方です。つまり貴方がマスターです。なので呼び名であれば貴方が決めるべきだと思われます』
『名前か、まんまヴェートルでもいい気がするけど』『でしたらそれで構いません』『じゃァ頼むよヴェートル』『YESマスター』『それでさ、発声する声変えれない?機械の合成音声のまんまじゃ違和感がすごいから』『調節します─────調節が終わりました』「よし、これでいいか」『声は私を作ったマザー自身のものしか該当データが無い為、私と同じ声になりますが』「まぁいいよ……そこら辺はその作った人の意思だろ」『YESマスター。マザーが自身の死後を快適に過ごす為と作りました』「わかった。それでここは何処だ」『YESマスター。ここは』「普通に答えてくれ。あんまり堅苦しいのは困る」『はい、ではツンデレ幼馴染設定でいいですか?』「なんか意外と現代思考?」『私のマザーはこの世界に呼ばれてしまった不幸な方です。元いた世界は貴方の思考から読み解くに同じ世界でしょう』「ほーん、んじゃ主人公の事好きだけど恥ずかしくて言えないからツイツイからかっちゃって主人公から嫌われちゃう系後輩設定とかは?」『そこまで作り込みされていません。類似解ではツンデレ系後輩と小悪魔系後輩の二種類になりますが何方を取りますか?』「あったら怖かったがな……小悪魔系後輩で頼みます」『せんぱーい、ここがどこか分からないってマジですか?やっぱ頼りないよわよわですよねー』「やっぱ前者で」『べ、別に?あんたのためじゃないけどね、先輩が知らないってんなら教えてあげてもいいけど?お、御礼はき、き、きすって何言わせてるの!』「あぁ、こっちかな。うーん」『いい?ここはね、ギージャロッカって言うのよ?いい!貴方の居た世界とは少し違うんだから気を付けるのよ?』「はい、わかった。わかったから」何故かネクタイを掴まれてグイグイ言われてる気がした。
『それとね!あんたなんか能力あるみたいよ?【外貨変換】と【並行移動】って便利そうだけど戦争には使えなさそうね……やっぱダメ先輩だからからしら』
「ふたつか、他の人の情報とかはあるの?」『何?ほかの女?べ、別に先輩の女事情とか興味無いけど?!そうなんだ……私なんかより……いいわ、教えてあげる。基本的に【兵器創造】や【範囲治癒】だよ……まぁ私みたいに魅力のない女の子よりよっぽど』「あ、あのなぁ……せめて抑揚を頼む。たんたんと言われるとヤバめの本がバレて音読されてる図になるだろ」『分かりました。ではおふざけは辞めましょう。あなた達が呼ばれたのはこの国を強くする為よ。他世界からの文化を取り入れ、更には兵隊を集めて世界征服を企むといったところね』「で、僕もその1人だったと」『貴方は私のプログラムによって起こされた召喚システムのバグによって魂のみになってしまったと思われます』
「お前のせいか!もう起きてしまった事はしかたないけど」『で、マスター今後の動きはどうしますか?』「まずは能力を試したい。【並行移動】だっけ?それ使えば簡単に元の世界戻れるのでは?」『戻れますが貴方、死ぬかも知れませんよ』「へっ?!まじか」『そうですね。能力を失敗する可能性が96パーセントです』「ん?能力って難しい物なのか?」『いえ、私に備え付けられている誘発装置が1世代前のセーフティ無しなので』「あ、そんなとこか。なら試しても大丈夫じゃないの?セーフティがないって事はこの世界に戻れなくなるかもって話だけだろ?」『いえ、全裸で別の世界に行く可能性があったり魂だけ等』「ひぇー、中途半端に発動するってことか」『そうです。では試して見ますか?』「あぁ、で?どうすればいいの?」『システム起動。能力【並行移動】発動成功率4パーセント。起動ワードをどうぞ』「起動ワード?並行移動!!!」試しに言ってみると宝物庫を覆わんばかりの魔法陣が展開して地面を揺らす『起動ワードを確認システムオールクリア』「う、うぉぉ?!」『軸設定完了・日本』
転生したにも関わらず秒速で現代に帰ってくる偉業を成し遂げた。だが神様が居たとすればそれが許さなかったのだろう。何故か頭から墜落をした。
『「痛い!」』『損傷箇所確認。目立った損傷なし』「はぁー、せっかく戻ったってのに酷い出迎えだな」
辺りを見ると抉れた地面、崩れたビル、立ち上る煙。それとどこからか聞こえてくるサイレンや悲鳴。
『マスター、どうやら我々はやらかしたようです』「だな」
「そこで何をしている!」「手を上げろ!」
迷彩や黒い防弾チョッキ、そして銃器を持った部隊が辺りを取り囲んでいた。
「助けて……」
その後なんやかんやあって一生かけても返せない借金を追った。しかも別世界について包み隠さず話してしまったせいで行方不明者の捜索を条件に自由を得た。
『マスター、失敗する可能性がと事前説明はしましたよ』「あぁ……どうせなら僕が爆発する方がマシだったよ……」『マスター。私のことを黙っていただきありがとうございます。私の居た頃に比べて発展している日本の技術では分解されてアーティファクト扱いされていたでしょう』「まぁ感謝しろよ?さて……で?戻ったら向こう爆発する可能性は?」『それはありません。簡単に言うと初回で必要エネルギーが分からないという条件下。フルに使いました。余分に使った為にこれ程の規模がダメージを受けたのでしょう』「良かったよ、捨て都市で」『犠牲者が作業員8名。それも音にビビって足を踏み外しただけという』「だな、とりあえず次使うのが安全なら一旦向こうに戻るか【並行移動】」『起動ワード確認。システム起動』
また同じように魔法陣が展開した。今回は揺れなかった。
サァーと薄く吹く風の心地よい草原に降り着いた。
『成功』「ふぅー、安心した……こっちでも被害届とかやられたら困るぞ」『しかし座標はズレましたね』「だな、ここ何処だよ」『手持ちのデータを参照するとお城より9キロは離れています』「このまま城に戻って宝物庫の中身持ち出すか?向こうなら高く売れそうだけど」『無くし物を探す能力もありますので』「お前ってさ、宝物庫居たよな?」『YESマスター』「なら僕らも探されてるのでは?」『見つかれば何十年も動かなかった人形が動いたと解体されかねませんね』「決定!逃げるぞ」『YESマスター。駆動系統にエネルギー充電完了』「いくぞ!発進!!」地面を蹴飛ばして地を駆けた。
「これからどこに向かうといいかな」『YESマスター。私としてはこの先250キロは続く山道を越えるのが良策と見れます』「うっし!いくぞ!」
向こうの世界で時間を食い過ぎたのかまだ山を登っている途中と言うのに暗くなってきた。
『YESマスター。この付近には猛獣など居ませんが野盗などは出ます。ここら辺で付近の村に泊まるのが得策と見れます』「附近にあるのか?」『次の分かれ道を左に進んでください』
村に着くともうどの家も灯りを切っていた。
「どうすんだよ。おい」『YESマスター野宿です』「野宿かーい、虫とか大丈夫なのかよ」『YESマスター。対軍型戦闘機械人形は最強です』「最強ですじゃねぇよ」『つまり虫刺されどころか吸う血なんて流れていません。表皮も人の肌に見えますがアーティファクトが使われていますので』「アーティファクト?武器的なやつか?」『マスターは馬鹿ですか?アーティファクトとはその時代には造りようのないものを言います』「つまり歩くブラックテクノロジー?!」『過小評価はしません。そうです、もし人でないと分かれば他国からも狙われるでしょう』「じゃぁとりあえずヴェートル寝とけよ。僕が見張っとくから、朝は変わりに寝かせてくれ」『マスター。優しいですね、でも私は眠りません。なのでどうぞゆっくりしてください。視聴覚情報オールダウン。思考システム停止。快眠を提供致します』
明らかに詰め込みすぎな一日を終え睡眠に入った。魂が寝れるのかと思ったが案外行けるもんだった。