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刹那的な君へ  作者: 早見千尋
Day 2:死神の質問
7/9

Ⅱ 謎かけ、答えは

 目覚めると屋上の柵と、その先に広がる夜の町並みがあった。

 俺はあの時に倒れ、屋上の壁に寄りかかるようにして眠っていたらしい。 連れてきたのは無論、

「……刹那」


俺の手を握っている刹那だった。その小さな手は冷たく、生命の脈動を一切感じなかった。気付いた瞬間、皮膚が粟立った。そんな俺自身に激しい自己嫌悪を感じた。


 当たり前だろ、刹那は死神なんだから。そう自分自身に言い聞かせ、掠れた声を出す。

 

「三浦はどうなったんだ……?」

 すると、刹那はフードの下で小さな笑みを作った。

「三浦くんは大丈夫です。あのあと保健室まで連れていきましたから。ご両親がお迎えに来ました」

「そっか、三浦のこと、ありがとうな」

 そう言うと刹那はふうっと溜め息をついて、何も答えなかった。

 しばらく、二人で星空を見続ける。

 何分たっただろうか。しばらくして刹那は口を開く。

「……ただ、ふざけんなって言いたかっただけです」


 口元まである深いフードからは何の表情も読み取れない。

「……なあ俺、本当に死ぬのか?」


 俺の問いかけに、こくんと頷く。ややあって、「死を回避できなければ」と言った。

 黙り込んだ俺に今度は刹那が尋ねた。

 恐らく、フードの奥からじっと俺の目を見つめて。

「あなたは今、死にたいですか?」


 ***


 私は死神。死神になったその日から、私の名は刹那になった。

 あの時の恐怖を、忘れないように。

 あの時に実感したものを忘れないように。

 私の問いに翔君は「死にたくない、と思う」と答えた。

「じゃあ、生きたいですか?」そう聞くと数秒の間があって「わからない」と答えた。

 私は何も言わず、何もしなかった。

 生きることを捨てた愚かな私に言えることはない。

 それでも聞きたかった。

 理由もわからず、ただ。 ただ彼の想いを、知りたかった。


 その日の深夜。

 私は古いビルの屋上に、縮こまって座っていた。ここなら翔君の家がよく見える。私のいない翔君の家に他の死神を入り込ませたくなかったのだ。もっとも、こんな小細工は気休めぐらいにしかならないが。いうか、気休めにもなっていない。


 だって、死亡予定者名簿に翔君について載ってるし。ということは当然彼に発生した『死を回避するポイント』の存在もみんな知っているはずだ。

 

 だけど―――来てくれる。

 私の大好きな死神の先輩は、一度私のもとへ来る。

 そんなすがるような予想を胸に、ここで待っていた。

 コツ、と硬質な音が、私の背後から聞こえた。

 私は立ち上がり、後ろにいる死神に向き直る。

 私と同じ、風にはためく、漆黒のローブ。ただ違うのは、ローブと共にチャリチャリと音をたてる、無数に着けられたシルバーチェーン。 

 深く被ったローブ。そこから僅かに見える顔は傷だらけ。

 来てくれたのだ―――秋月ちなみ先輩が。


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