Ⅰ 嘘と真実、表と裏
放課後、俺は刹那を相手に苦戦していた。
「買ってー、買ってー、買・っ・てー!!」
「ガキかテメェは!?」
授業も終わり、(三浦はさっさと帰ってしまったが)友達と他愛もない話をし、さー帰るぞと伸びをしたところを刹那に腕を引っ張られ。そして、連れてこられた購買でこの騒ぎである。
売れ残りの棚の前で「買って買って」と指差す先には、新作のお菓子。パッケージには「メロン牛乳味」とある。……企業よ、なぜそんないかにもマズそうなモノを発売した。
そう少し現実逃避してみるものの、刹那は以前腕をつかみ叫びまくっている。 今は購買のおばちゃんがいないからいいものの、他人から見たら完全に不審者だ。刹那は姿も声も周りには見えないので、他人からは俺は独り言というか、一人怒鳴りをしているように見えてしまう。
「メ・ロ・ンー! 牛・乳ー!」
ああもう。
そう思って視線を窓の外に向けたときだった。
「ん?」
西校舎の廊下を三浦が歩いているのを見た。刹那は俺の声に気付いたらしく、騒ぐのを止めて俺と同じほうを見た。
この校舎は中にはを囲むようにして建てられている。今俺がいる購買のある校舎は東校舎の最上階で、三浦がいる校舎は西校舎だ。
(あいつ、もう帰ったんじゃなかったっけ?)
そう思って少しみていると、三浦は屋上へと続く階段を登り始めた。
「!?」
俺が声にならない声を上げるのと同時に、刹那も身を硬くする。
あの時以来、俺も三浦も椿の話はしていない。三浦は俺以上に椿の件に関しては敏感で、屋上にいくことなど、まずない。
「……刹那、それ買うかどうか決めるの、もう少し後にしてくれないか」
「………」
刹那はうなずくと、静かに俺の腕を放す。
「行きましょう、翔君」
そして黒いローブの下から俺の目を見つめて言った。
「でも、絶対に買ってもらいますからね、メロン牛乳のおかし」