第二章 51
「ねぇ、雫はもう部屋の整理は終わったの?」
マリナの問いかけに、雫は無い胸を張った。
「問題ない。部屋は完璧。これ以上必要なものはない!」
「私は、まだ全然なんだよね。参考にしたいから、見せて貰っても良い?」
「構わない。一緒に御茶でも飲んで休憩する。」
「お邪魔しまーす。」
マリナの入った部屋は、とても綺麗に整頓された部屋だった。コタツのようなテーブルが居間の中央にセットされ、真ん中の篭にはミカンが積まれていた。
ベッドは龍人先輩が提供してくれた物が部屋の端に置かれていたが、その隣には本棚と机をセットにしたようなパソコンキャビネット様の家具が置かれ、引き出したテーブルには、十年程アイテムボックスの肥やしになっていたノートパソコンが据えられていた。本棚には、アリアナから譲り受けた魔法書が数十冊並べられていた。
簡易の小型冷蔵庫の中には、水や果物、御茶が冷やされており、自作と思われるプリンやヨーグルトの他に、味噌や米、魚の干物などが整然と並べられていた。
食器棚と思われる所に並べられた食器は、何の飾りもない実用的な白い皿やカップが並んでおり、繊細というよりは武骨な印象を与えていた。
それらを見たマリナは、大きくため息をついた。
「全然なんだよね!全くダメダメですね。」
そのマリナの言葉に、背後にガーンという擬音表示が見えるほど、雫はショックを受けた。
「ルリやリト達は『始まりの神殿』まで、みんなで泊まりがけの遠足に行ってる最中だから、ここには私達二人だけしかいないの!今日は徹底的にやるよ。」
そんな二人が、『あーでもない、こーでもない』とワイワイ賑やかに騒いでいると、突然トンネルがグラリと揺れた。
ーーー
「へぇ、始まりの神殿にも、リュートさんのゴーレ……ロボット兵達が警備についてくれているんだ。」
「そうよ!この前、ここに来た時は王国軍が攻めてきて大変だったんだからね。」
「でも、神官長が人族と通じているなんてね……優しい人だと思ってたんだけどね。まだまだ人を見る目が無いのかな?」
「それは、私も同じだよ。リュートには、
その事でよく叱られてる。」
「でも、あの人は僕達以上に他人を信用してるよね。」
「私に注意することで、自分にも戒めにしてるんだって!」
「何それ!当て付けじゃないの?」
「え~っ?やっぱりリトもそう思う?今度、リュートに会った時に、文句言ってやろ!」
そう言いながら屈託無く笑うルリの表情を見て、リトは心底ホッとしていた。彼女の心をこんなにも癒してくれたリュートには感謝しかなかった。少し年齢は離れてはいるが、魔族の間では決してあり得ない年齢差ではなかった。彼ならお兄さんと呼んでも構わない。ビンタ位はさせて貰うけどなどと考えながら、休憩タイムのお茶とお菓子を口にしていた。
「ルリ様、リト様、この後は午後の授業になります。地下の講義室にお願いできますか?」
セレニアの声に、テーブルの上に並べられていた食器を片付け、席を立とうとしたリトの空いた手に、ルリはサッと自分の食器を持たせると、
「じゃあ、私は周囲の警戒に出るね。後はヨロシク!」
と言って、サッサと休憩所から全力で抜け出し、一分も掛からぬうちに偵察用バギーのエンジン音が聞こえてきた。
「逃げたね。」
「そうですね。逃げ出しましたね。これはご飯抜きプラス正座一時間の懲罰に相当しますね。」
細い目をしながら音のする方向を見つめるセレニアを見て、自分では絶対にルリのように行動できないなと感心するリトだった。
そんな事を考えていると、神殿がグラリと揺れた。




