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第二章 50

「糞が!情けない!情けないぞ!拠点を失ったのは情けない軍部のせいだぞ。防衛大臣、言い訳してみろ!」


エルドが幹部達の前で、防衛担当大臣を罵倒する声が、脱出船の会議室に響いていた。


言い訳すれば、罵倒に納まらず、更なる降格人事や懲罰動議に進むと判っている大臣は、ひたすら平身低頭、床に頭を擦り付けていた。


「しかも、しかもだ!この船に乗船しているのは、何の生産能力も持たない貴族ばかりだぞ!そんな奴らをどうやって養えと言うんだ!お前ら、答えてみろ!」


これまで使役してきた一般人を全て失ない、乗船してきたのは役にも立たない貴族ばかり、しかも持ち込んできたのは、宝石や金銀とかの個人の資産ばかりとあっては、エルドの怒りにも一理はあった。


彼らが向かった先は、先日リュート達が破壊した前線基地であったが、その基地が既に完全に破壊されているのを見たことで、彼らは完全に途方にくれていた。


「まさか、ここまで完璧に破壊されているとは、他の基地も同じ様な状況だとしたら、我々には行き先は残されていないぞ。」


「エルド様、どうすれば良いのでしょうか?お知恵をお貸しください。」


自分達で考えることもせず、あくまでも他人を当てにする配下の人間に呆れたが、それはエルドも同じだった。自分で問題を解決したことはなく、これまでは父アルフの遺産を流用することで、なんとか生き延びてきたのである。


アンダーレイクの街もなく、基地も既に崩壊しており、当てにできる勢力にも思い当たる者はなかった。


そんな所に外務担当大臣が発言を求めた。


「先日、私共の所に人族の支配するガルラット王国より密書が届きましたが、それには『共に手を携えて、魔族を討とう』とありました。これを利用しては如何でしょうか?」


「ガルラット王国というと、女神を奉る勇者を擁する国か?」


「その通りでございます。どうして女神がアルフの民を棄て、人族に加担するようになったのかは判りませんが、今回の提案に乗り、事を運ぶ中で女神の恩恵を取り戻す機会が有るやもしれません。如何でしょうか?」


その発言を聞いたエルドの頭の中では、僅か百年にも満たない寿命しか持たない人間の知恵など、我々アルフの民からすれば、獣程度のものでしかなく、簡単に調教し、自由に扱える奴隷にも等しい存在に過ぎないと、認識されていた。


「それはなかなか良い意見じゃな。お主達の提案に参加してやると恩を売り、しかも、王自らが配下や家族を従えて、観光ついでにわざわざ出向いてやったということにすれば、相手も無下にはできぬであろう。」


会議室でエルドの話を聞いていた者達の中には、それは無理筋だろうと疑う者はひとりも居なかった。


ーーー

「王様、衛兵より報告です。王都東門の先に、巨大な飛行体が飛来し、アンダーレイク帝国王と称する者とその一族と思われる者達が王への謁見を求めているとのことです。如何いたしましょうか?」


「アンダーレイク?聞いたことがない国だな。」


「王様、共に魔族を討つべしと密書を送った国の一つでございます。古代文明を支えたアルフの一族が治めている街だと聞いております。」


「たかが街一つで帝国とは、認識がズレておるな。」


「まだ詳しく鑑定しておりませんので、断定はできませんが、人族と比較して寿命が極端に長く、千年以上生きる者もおり、魔力も高いことから、魔導を追求する為の時間も素質も充分にある故に、強大な魔導師も多いと聞いております。」


この情報において、人族側の認識とアルフ側の実状に齟齬があった。


確かに、アルフの一族の持っている魔力は、高いと言われるエルフの中でも上位に位置したが、貴族はそれを磨くこともなく、アルフのもたらした機械文明に依存し、それを磨くことはなかった。逆に機械文明を嫌って外へ出たエルフの民は、自らの魔力を磨き魔導を追求することを是としていた為に、人族の間ではこれらの情報が錯綜していたと思われる。


この齟齬が、エルド達に有利に働いた。人族の王は、彼らがこの国に滞在する期間は一時的なものと判断し、彼らにスラムの民を住まわせる為に建築した集合住宅を貸し与え、王都で暮らす許可を出した。


この事が、ガルラット王国の今後を大きく変えていく変更点(ターニングポイント)になった。

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