第二章 49
「いろいろと有り難うございました。」
エルドリッジが、目の前で深々と頭を下げていた。彼は、アンダーレイクの街の住人から請われて、街の長を務めることになったらしかった。
街では六百人強の住人が暮らしていたらしいが、貴族や王族の連中から奴隷のように搾取されていたようで、森に出て獲物を確保しても、それらは全て取り上げられ、彼ら自身は湖で獲れる魚や山で採れる木の実などを主な食糧としていた為に、貴族や王族から解放された今の状態は、感謝することこそあれ、不満など一切なかった。
エルドリッジによると、彼らは街を捨て、エルフの村に合流するのではなく、近くの川沿いに新しい集落を作ろうと考えており、長年に渡る確執はやはり一朝一夕での解決は難しいようだった。
そのまま放置するのも、街をあんな風にしてしまった以上、少し責任を感じていたので、定期的に訪問することをエルドリッジに約束し、千人が三ヶ月程食べていける程の食糧を収納したリングを、使用者をエルドリッジに限定した状態にして渡した。
節約して、狩りとかもすれば、六百人が半年位は十分に暮らしていける量であったので、反乱とか起きなければ問題ないだろうと考えてのことだった。
「リュート様、アリアナ様のお見送り誠に有り難うございました。村民一同感謝の言葉もありません。」
エルドリッジが席を外すと、そこに巫女のセレーナさんが姿を見せた。
「こちらこそ、雫やマリナのことも含めお世話になりました。アリアナさんのことは残念でしたが、最後に喜んで頂くことができて良かったです。」
その言葉に、セレーナは涙ぐみ顔を伏せた。
「私の村には、アリアナ様が築いたものが山のようにありますが、アリアナ様のお姿や言葉を思い出せる物は、ただの一つもありません。ハイエルフの宿命とは言え、私にはそれが残念でなりません。」
その言葉を聞いて、リュートは自分が趣味で作ったフィギュアのことを思い出した。
「エルフの方には、偶像崇拝を許さないというような禁忌はありますか?」
「偶像崇拝?それは何ですか?」
「英雄とか神を彫像にして、それを祀ることを言いますが、無いのでしょうか?」
「聞いたことがありません。私に学が足りないのかもしれませんが……」
そこでリュートはリングから、等身大のアリアナが操縦席に座って満面の笑顔で、嬉々として灰塵を操作している像と、それと同じくらいの高さの灰塵の像の二つを台座にセットした物を取り出した。
「これなんですが、アリアナさんにプレゼントしようと思って、僕が作った物です。宜しかったら、貰って頂けませんか?」
「よ、宜しいのですか?許されるならば、ぜひとも頂いて社に祀りたいのですが……」
「構いません。アリアナさんが生きていれば、恥ずかしいから止めろと言われるかもしれませんが、今なら喜んでくれると思います。」
そんな感じで、渡したかった物も無事に渡すことができ、リュート達は、エルフの村外れに呼び寄せた飛行船ヤマトで無事に出発することができた。
ーーー
「神ちゃま、今回はいろんなことがあったね。」
「久しぶりの戦闘だったけど、みんなは疲れてない?大丈夫?」
「師匠、あんな弱い相手では、全力出せないので、そんなに楽しくなかったです。」
「そうでやす。投降した一般居住区の住人は仕方ないでやすが、あんなアルフの一族なんか根絶やしにしてやれば良かったです。あの逃げ出した脱出船を攻撃できなかったのがストレスでやす。」
「そうだね。他の奴らは許せても、エイルをあんな目に合わせた奴は、時間があれば探しだして、グッチョンケッチョンにしてやれば良かったと思うんだけど、今回は暇が無かったからね。それはエイルにも申し訳なかったね。」
「これは、マスターに一つ貸しでやす。よく覚えておくです。」
「借りっぱなしはイヤだから、これで我慢してくれる?」
と、リュートがリングから、ナガノパープル&シャインマスカットをバニラと白桃とクラウンメロンのアイスクリームに添え、更にプリンや彩りを賑やかにするための各種のフルーツを盛り付けた巨大なフルーツアラモードを取り出して、エイルの前へと差し出すと、
「こ、これで許してやるです。貸しは消えたでやす!」
それを見たジェシカとシュテンが、エイルばっかりズルい!私達だって頑張ったと、リュートに詰め寄り、飛行船内でデザートパーティーが、当たり前のように始まっていた。




