第二章 46
「いよいよですね。上手くアリアナが奴を捕らえてくれれば良いのですが……」
と、アルフガストが個人的な意見を口にすると、
「元々が神級魔法を連発できるほどの規格外の化け物女であるのに加えて、奴が置いていったあの『慈愛の魔天使』を彷彿させる巨大な機体があるんだ。負ける要素がなかろうが。」
王太子であるエルドレッドが、自信満々に言葉を返した。
王城の議事堂内の大型スクリーンには、投影魔術を応用したエルフの集落の画像が映し出されていた。
「まぁ、いざとなったら殺してしまっても、今ならあのゴーレムもいるからな。」
そう言いながら、王座に座る老人がイヤらしい笑みを浮かべていた。
「それに、面白そうな玩具が大量に手に入ったからな、この忌々しい事態が終息すれば宴の開催だな……」
「それは僥倖です。是非ともご相伴させて頂きたく存じます。」
議事堂内はクズな奴らの品の無い笑いが飛び交っていた。
「エルフ集落入り口に、黒色の機体が出現しました。形状的にはアリアナの搭乗する機体と遜色無く、おそらく姉妹機と考えられます。」
「これは見物じゃな。一機しか持たぬ機体をアリアナに渡すわけがない。必ず隠しておるだろうと想像しておった儂の予想通りじゃな。」
「その通りでございます。集落の入口付近に投影魔法を付与した魔石を準備して、大正解でございました。」
そんな中で、暫く睨み合っていた二機の機体が突然動いた。麗雅が右手を背後の箱から覗く柄のような形の、物に手を掛け、一呼吸置いてからそれを掴み構えたその瞬間に、画像がぶれたように見え、振り抜かれた大太刀の柄には両手が添えられた状態で、腰が落とされ、刃は地に着く手前で止められていた。
その刃より放たれた三日月状の銀色の光りをアリアナが容易く交わしたのを見て、議事堂内にはため息が広がったが、それはすぐに悲鳴へと変わった。
≪高エネルギー体急襲します。山腹中央部に激突予定です。震動にお気をつけください!≫
そのアナウンスと同時に、王城に響くような低音の震動が伝わってきた。
「「「ウォォォォォ!」」」
≪ブーブーブーブー≫
≪山腹中央部崩落しました。貯水機能が維持できません。湖の水が抜けます!≫
「修復装置を起動しろ、魔法師団より土魔法の使い手を集めるんだ。」
≪ブーブーブーブー≫
「何だ?今度は何の警報音だ!」
≪地下水路より複数の侵入者あり!数五十を超えます!通路を映します≫
すると、映し出された映像には、かなりの数の飛行タイプのゴーレムが、ゲージで出来たゲートを破壊しながら、一直線に王城へと向かってきていた。
「自動防衛装置はどうした!」
≪先行した一機の真っ黒な機体により全て破壊されました!防衛システム機能しません!あと、一分で最終ゲート突破されます!地下との連絡を遮断することをお勧めします!≫
「現在地下には何がある?」
「はい、地下には反乱者エルドリッジ、エルフ集落の男、老人、子供が収監されています!」
「地下に毒霧を噴霧しろ!生きたまま渡すな!奪い返されるなら殺してしまえ!」
すると、また鈍い響くような音が王城を震わせた。
≪ブーブーブーブー≫
「今度は何だ!」
「地下と一階を隔てる天井が破壊されました。一部機体が一階ロビーに出現!防衛部隊との戦闘を開始しました。」
≪毒霧噴霧装置破壊されました。残された装置も、現況では使用によりアンダーレイクの汚染が深刻になるため使用できません!≫
凄まじいまでの破壊音と共に、壁面を飾るステンドグラスが地に落ち、立っていられない程の震動が議事堂を襲った。
≪ブーブーブーブー≫
「何があった!」
≪王城を護る防御結界三枚が破壊され、城が直接攻撃を受けています。王城三階部分破壊されました。それより上層への移動が不可能となります≫
「防衛部隊は何をしている?何を好き勝手やらせてるんだ!」
≪現在、一階ロビーで交戦している部隊を除き、全ての部隊は移動を阻止されており、立ち往生しています。≫
≪ブーブーブーブー≫
≪一階ロビーの守備隊全滅しました。正面玄関通路の扉が破壊され、地下牢に収容されていた囚人の逃走が確認されました。指示をお願いします!≫
「く、くそったれが!」
≪ブーブーブーブー≫
≪王城最上部を守護する近衛軍全滅しました!最上部娯楽の間が開放されました。囚人三十名の脱走を確認しました≫
「逃走経路が全て潰れてるんだ。逃げても無駄だろ!」
≪囚人は飛行型ゴーレムにより上空に待機している飛行船に次々と移送されています≫
「飛行船など、撃ち落とせば良いだろうが!」
≪防空システムは、一機の白い機体により全て無力化されました。攻撃手段ありません≫
「魔導師部隊はどうした!魔法で攻撃しろ!」
≪飛行船の滞空位置が、魔法攻撃の射程外であるため攻撃できません≫
≪ピー≫
≪アンダーレイクの上下移動用昇降機が全て停止しました≫
≪アンダーレイク動力炉に黒い機体が侵入。動力炉破壊されました。非常用ジェネレータ起動します≫




