第二章 45
リュート達が村を出てからちょうど一週間後の早朝、エルフの集落の入り口に、真っ白な体高十メートル程の機体が立っていた。
顔鎧にはまるで目のようなV字型の切れ込みがあり、前額から頭頂にかけて前から見ると鶏冠のように見える突起があり、そこからまるで髪を両側に二本ずつ纏めたような真っ白なリボンに見える帯が、背部に流れるように展開していた。
胸部から腹部にかけては、幾つものパーツを組み合わせたような頑丈な装甲に覆われ、頚部から上腕にかけても、複数のパーツに分かれた装甲で覆われ、特に関節部分にはその強度を補う為の更なる装甲が加えられており、手甲の外側には小さな盾のようなものが取り付けられて、前腕から手甲までを保護していた。
腰部には日本の鎧の草摺と呼ばれる金属製のスカートのようなものが装着されて下腹部から臀部を保護し、金属製の大腿から足先にかけても、手と同じ様に関節を保護するポリンと呼ばれる膝当てが取り付けられていた。足はやや大きくサバトンと呼ばれる足甲の効果以外に、おそらくスラスターとして効果のある物が取り付けられているように見えた。
背中に背負われている箱形の下部には、スラスターの効果を有するであろうエネルギーの噴出方向を制御すると思われる二つのノズルがあり、箱の上部からは二本のグリップが突出していた。
リュートが搭乗する機体も、それとよく似た形状をしていた。
機体は漆黒で、全身に細かく光る粒子が散らばされており、新月の夜空のように光り輝いていた。鶏冠はやや小振りで、そこから流れるリボンの帯は同じく四本であったが、色は真紅で、機体の黒に映えていた。
ボディの基本構造は『灰塵』と大きな違いはなかったが、箱からは、少し長めの反った柄が一本だけ顔を覗かせており、その代わりに腰部の左右に片手刀の柄程の長さの筒状のものがぶら下がっていた。
[アリアナさん、おはようございます。前面パネルの一番右側の列に電話のマークの着いた赤色のボタンがあります。押して頂けますか?]
暫くして、スピーカーからアリアナさんの声が流れてきた。
[なるほど、こんな所まであの時のゲーム仕様に準じているのだな。リュート、おはよう。すまんな、迷惑をかける。この様子では、既に事情は理解しておるのか?]
[先日、エルドリッジさんの部下のカスケルトさんが伝えてくれました。既に救出作戦が進行中ですので、アリアナさんは全く心配しなくて大丈夫ですよ]
スピーカーの向こうから、彼女が絶句しているのが伝わってきた。
[あのエルドの一族には一つ貸しがあるので、今回は容赦しません。民間の方に危害を加える気はありませんが、高位貴族の連中と王族にはそれなりの報いを与えるつもりです。ただ、気づかれると困りますので、私達はここで前回のバトルの続きをするということでどうでしょうか?]
[……リュートには敵わんな]
[左の端の一番上にトレーニングバトルモードの切り換えスイッチがあります。見かけ上は通常バトルモードと変わりませんが、さすがに機体そのものへの損傷は加えられませんので、ヒットポイントに被弾した場合は、トレーニング終了までその部位が行動不能になります]
[そんな所まで、ゲーム仕様とは……]
[ただ、最初の一撃は通常バトルモードを使用します。背中の大太刀でアリアナさんを攻撃するフリをして、山頂の湖の壁を破壊します。最大出力で撃ちますので、上手く避けてくださいね]
[くっ……リュートよ、我を誰だと思ておる。あらかじめ判っている攻撃を避けれないなど末代までの恥じゃ!]
[アリアナさん、だいぶ乗りましたね?]
[当たり前じゃろ。こんな楽しそうなもの放っておけるわけないじゃろ!]
リュートはニヤリと笑い、麗雅に背中の柄を握らせた。
[行きます!麗雅流奥義『抜刀術真一文字』]
麗雅は、右手で大太刀の柄を掴み抜きながら左手を添え、頭上から振り下ろすような動作で大地まで斬り裂くように振り抜いたが、その動作を目で追える者は、目の前にいるアリアナだけだった。
大太刀から放たれた三日月状の光が、灰塵を掠めるようにすり抜け、背後に向かって飛んで行ったと思うと、そのままアンダーレイクのある山へと向かい、その山肌を大きく斬り割いた。
ビシッという大きな音が彼らの所にまで響き、そのまま外壁が裂け、中の水があふれでてくるのが確認できると同時に、リュートは作戦発動を指示した。
[救出作戦発動!各自予定侵入経路より攻撃開始!」
「「イエス、ユアマジェスティ!」」
[作戦は開始されました。僕達は予定通り、トレーニングを開始しましょう]
[あぁ、楽しませて貰うよ]




