第二章 43閑話
[ジェシカ、これはチャンスなのでやす]
[えっ?何の事言ってんの?]
[はぁ、ホントにあんたはお子ちゃまなんでやす。今回同行してるのは誰でやす?]
[私達以外では、白と黒、シュテンだよ]
[ルリはいるでやすか?]
[いない]
[雫とマリナは、いるでやすか?]
[いない]
[シュテンは?]
[お子ちゃま]
[邪魔する者は?]
[いない!スゴいスゴい!私達頑張り放題じゃん]
[その通りでやす]
[今回、邪魔者は全くいないでやす]
[マスターをメロメロにするチャンスでやす]
[どうでも良いけどさ、エイルはこれからもその喋り方なの?なんか変なんだけど]
[これはね、闇モードのエイルちゃんなんでやす。慈愛の魔天使はここにはいないでやす。謀略の魔天使と呼んで欲しいでやす]
今日もまた、今は亡きジェシカとエイルの声が聞こえる。羨ましくて涙が出てしまいそうになる程、ホントに仲が良さそうだ。
かつては私もその中にいた
二人と掛け合いみたいに
喋り、笑い、一緒に泣いていた
懐かしい……戻りたい……
そんな気持ちがどんどん強くなる
心が悲鳴をあげ始めている
今の私の回りには護るべきものは何もない
人の社会を眺めるのも
退屈しのぎに過ぎない
勇者に肩入れするのも
成り行きでしかない
初めはマスターと同じ世界から来た
ということだけで興味を持った
暫く一緒にいたが
何も面白くなく
何も楽しくもなかった
マスターのような優しさや暖かさは
あいつには一切なかった
ただ、アルフといる時に生まれた
黒い感情だけがあいつを認めた
壊せ
燃やせ
殺せ
消してしまえ
この想いは本当に私のものなのだろうか?
判らない……意味不明……
私は女神
『豊穣の魔天使』と呼ばれたもの
マスターなら教えてくれるのだろうか
今でも頭を撫でてくれた
優しい手を思い出す
泣きたい時にいつも慰めてくれた
優しい声を思い出す
身体が寒くてたまらないのに
頬を熱いものが流れていく
会いたい
会いたい
声を聞きたい
笑顔が見たい
また頭を撫でて貰いたい
[マスターはね、このエイルちゃんが貰うでやす!]
[神ちゃまは、ジェシカのもの!じぇったい渡さない!]
[違う!マスターは私のもの!]
[[……えっ?]]
[誰?]
[今、誰かがなんか言ったでやす]
私は女神
私の精神は
きっと壊れている
ーーー
「最近さ、あの女神、ちょっとヤバくない?いつも、ぶつぶつ独り言を喋ってるよね。マトモに相手してるのって、以前から側使えしてるジェルグっていうゴーレム位だろ?」
「巫女の連中も言ってましたが、ボーッと虚空ばかりを眺めているみたいです。」
「キチンと仕事して貰いたいよね。最近は、僕のお願いなんて全部スルーだよ。」
「でも、狂った女神だからこそ、あんな兵器も出してくれたんじゃないですか?」
「まぁ、そうなんだけどね。この前、壊されちゃったからさ、もっとスゴいの出して貰いたいんだけどね。」
「そう言えば、この前、召喚士の連中が、『あの女神を贄にしたら、スゴいの呼べるんじゃねぇ』とか話してましたよ。」
「えっ?何それ、面白そうじゃん。どうせ役立たずなら、そんな感じで利用してもバチ当たらないんじゃねぇ!」
そんな話をしながら、勇者と法皇が女神の神殿の祈りの間から去っていった。




