第二章 43
【前回の飛行船係留ポイント到着しました】
【アンカー降ろします】
【警告!】
【飛行船着陸ポイントに生体反応確認】
【ボードに映します】
飛行船の中に警報音が響き、映像に傷だらけの一人のエルフが映し出された。
「私が行ってくる。」
そう言うと、エイルがハッチを開けて外へと飛び出し、スラスターを起動させて男の側へと舞い降り、その男を担ぎ上げると飛行船へと戻ってきた。
男には身体中至る所に傷があり、かなりの血液を失って意識はなく、体温はかなり低下していた。
「ジェシカ、ハイポーションを頼む。」
回復薬を投与された男の傷は、巻き戻しするかのように治癒していき、顔には血の気が戻り始め、暫くすると目を覚まして確認するように周りを見渡した。
そして、リュートの姿を見つけると、即座にベッドから飛び降りて彼の前に土下座した。
「お願いします!私はカスケルトと申します。エルフの民を、アリアナ様を、エルドリッジ様をお助け下さい。」
男の口から飛び出したのはリュートにとっては意外なものであった。リュートは、先ずは彼の話を聞いてみることとし、応接室として使用している部屋へと案内した。
「あなたは、確かエルドリッジさんの部下だよね。」
「はい、先ずは隊長のことから説明させて頂きたいのですが、その前に知っておいて貰いたいことがあります。」
「湖の底にある街のことですか?」
その言葉を聞いて、男はハッとして顔を上げた。
「御存知だったのですか?」
「もっとはっきり言うと、あれはアルフの一族の暮らす街だよね。あのピラミッド型の避難施設の地下で暮らしていた住人の人達が建設した街だと推測してるけど。間違いない?」
あまりの的を射た答に、男は一瞬絶句して息を呑んだ。
「……その通りです。そんなことまで御存知だったのですね……あのアンダーレイクは、アルフ様の三男のエルド様を王とする街でございます。私達は機械文明を棄て、自然に帰るつもりで避難施設より脱出しましたが、あまりの厳しさに心折れ、殲滅の魔天使に見つからぬよう湖の底に街を造ったのです。」
「エルフの村に住んでいる人達も仲間なの?」
「いいえ、彼らはアルフ様の時代より、行きすぎた機械文明を良しとせず、自然と共存することを選んだ種族の人達の生き残りです。ハイエルフのアリアナ様が誕生したことで、様々な苦難を乗り越えてこれたようです。」
「それが、どうして一緒になったのさ?」
男は出されたほうじ茶を一気に飲み干すと、言葉を続けた。
「湖の底での暮らしは、食糧の面で大きな問題を抱えていました。それらを確保する為に利用したのがあの村です。アンダーレイクで暮らしていた民の一部が新天地を求めて飛び出した風に装い、あの村に保護され、築いた住宅からアンダーレイクまでの地下通路を掘りました。」
「その責任者が、エルドリッジか……」
「はい、エルドリッジ様はエルド様の弟君の次男で、子供の頃に行われた魔力測定で、魔力が二桁しかないということで、街の居住権を奪われ、あの村の監視役として放り出されたのです。」
リュートは、エイルが運んできてくれた小皿に載せた和菓子を、口に頬張り、ほうじ茶を口にした。おそらく、これから聞かされるであろう話は、おぞましいものになると推測し、一旦頭を切り換える為の行為だった。
「あの楽しかった宴があった晩に、エルドリッジ様は王に報告に向かい、あなた様を拉致してくるよう命じた王に翻意を促しました。強引な手段は決して取るべきではなく、協力を仰ぐべきだと……愚かな行為は、アルフ様の二の舞になりかねないと、あえて進言したエルドリッジ様は、暴行、抑留の後に王は捕らえて牢に入れました。」
「だから、見送りの時に彼の姿がなかったのですね。」
「はい。あなた方が村を発ったその晩に、エルド王の指示を受けたアンダーレイク軍千人が、村を急襲して住民を捕らえ、その捕虜を人質としてアリアナを捕縛して、アンダーレイクへと移送しました。そして、あなた方が訪れるであろう一週間後に作戦を発動することが決定されました。」
「じゃあ、僕達が予定よりも一日早く着いたことで、こうして作戦を練る機会を与えられたということだね。」
リュートは、頭の中でシミュレーションを繰り返し、傲慢な王が取るであろう手段を幾つかボードに書き記していった。
「取り敢えずは、エイルは上空からアンダーレイクを透視空撮して、概要把握できるようにしてくれるかな?」
「判ったでやす。早速行ってくるでやす。」
そう言って、エイルはハッチから飛び出していった。
「ジェシカは、あの山の周囲を観察して、侵入ポイントを探ってくれ。あと、構造上弱点になるであろう場所も幾つか提案できるように頼む。」
「了解ちました。ジェシカ、行きます!」
ジェシカも嬉しそうに、エイルに続いてハッチから飛び出していった。
「次にアカイ君、僕とシュテン、白と黒は、このままこのポイントにユニット基地を設営して待機するから、君はこの飛行船でトンネルへ戻って、大型飛行船ヤマトにジャック大隊全色七番小隊から十二番小隊、ドゥム大隊全色七番小隊から十二番小隊を搭乗させて、ここまで連れてきてくれるかな。大隊長には、こちらから念話で連絡しておくから。頼むね。作戦開始は明日早朝四時とします。もし、ルリやリト、雫やマリナに理由を聞かれたら、飛行船も放置していると問題が生ずる可能性があるから、そのチェックの為に飛ばすように命令されたと弁明しておいて。よろしくお願いしますね。」
「イエス、ユアマジェスティ!」
その後、リュート達は飛行船を降り、前回設営した空き地に二十個程のユニットボックスを設置し、簡易前線基地を作り上げた。
危機を連絡してきたカスケルトは、怒涛の展開に付いていけず、あっという間に作り上げられた前線基地を前にして、ポカンと口を開けていた。




