表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/100

第二章 41

「恐れながら申し上げます。彼の者が持つ技術はそれだけではございません。かなり前のことではございますが、王国軍の二個師団が魔族掃討戦で返り討ちにあい全滅し、魔皇国の帝城を破壊した巨大兵器が破壊された報告を上げさせて頂いたと思いますが……」


「それをやったのも、そいつだというのか!」


「アルフガスト大臣、座れ!」


王の叱責に慌てて着席する彼を見ながら、エルドリッジが言葉を続けた。


「はい、先日のアリアナとの会談で、そう報告しておりました。」


「料理だけでなく、異界の兵器の知識まであるというのか……」


「更に、彼の守護として、氷属性と火焔属性を持つ霊獣に進化した二頭の神狼が付いております。拉致することも難しいと判断します。ここは、強引な手段を取るべきでなく、穏やかな交渉をもって、協力を仰ぐ案件だとか……」


「もう良い!黙れ!この愚か者を牢へ放り込め!」


「ま、待ってください!先々代の王アルフ様の愚行を繰り返すおつもりですか!その為に何が起こったのかを御存知の筈です!もう一度、もう一度、ご一考く……アガッ」


エルドリッジは、近衛騎士に後頭部を剣の腹で殴打され、意識を失い連行された。


「ふん、もう時代が違うのだよ。この世界には『慈愛の魔天使』も『殲滅の魔天使』もいない……」


王の呟きが議事堂内に拡がり、議事は再開された。


ーーー

翌日の朝、リュートの寝ている部屋にルリとリトが飛び込んできた。


「リュート!リトの記憶も、魔力も何もかもが戻ってきたんだよ!お父様やお母様の記憶も戻ったし、当時使えていた魔法も全て使えるようになったんだよ!ありがとう!本当にありがとう!」


「始めまして、リトと申します。姉がいつもお世話になっております。この度は私共の為にいろいろとご迷惑をおかけしました。お陰様で、無事に姉との、家族との、魔族との絆を……」


丁寧な挨拶だったが、途中で言葉に詰まり、涙を流し始めてしまった。もう散々泣いていたのが判る程、目の腫れがあったが堪えきれなくなってしまったようだった。


年齢的にも八歳ぐらいの少年で、本来ならばまだまだ大人に甘えたい年頃である。いくら皇太子であるといっても、仕方の無いことだった。リュートが俯いて涙を流すリトの頭を抱え込むようにハグすると、彼は声を圧し殺して泣き続けていた。


リュートの部屋に、ルリとリト、シュテンと白と黒、ジェシカとエイルが集まって、ほのぼのとした時間を過ごしていると、廊下から皆を呼ぶ声が聞こえていた。


「マスター、食事の仕度が整いました。」


朝の食事を振る舞う為に生成したジェルグ改、通称ジェルカイは、昨夜のうちにアリアナの許可を貰って、屋敷の厨房へと出向き、皆の朝食を準備していた。


朝食は、バイキング形式で準備されており、ベーコン、ハム、ソーセージ、モーニングステーキ、焼き魚、ハッシュドポテト、スクランブルエッグ、点心料理、温野菜、フレッシュサラダ、味噌汁、お粥、白飯、漬物、ふりかけ、玉子焼き、フルーツ、トースト、クロワッサン、菓子パン、各種ジャム、ヨーグルト、牛乳、紅茶、珈琲、生ジュースなどがテーブルの上に並べられており、ジェルカイは簡易釜戸の所に立ち、注文を取りながらオムレツを焼いていた。


「リュートよ、このジェルカイの原典はゲル◯◯かい。」


「そうです。家では、ザ◯タイプ、ド◯タイプの子達にも働いて貰っています。料理担当がゲル◯◯タイプになります。自分の頭の中にあるレシピの八割はマスターしていますから、昨晩のデザートもかなりの数を作ることができます。材料は集める必要はありますが、収集に手間が掛かるものは、かなりの量をリングに収納しています。」


それを聞いて、アリアナは軽くため息をついた。


「お前は、この世界で何をしたいんだい?」


その彼女の問いに、リュートは首を傾げた。先ずは生きること、次には白と黒の面倒をみること、そしたらルリが絡んできて、自分が作ったらしいジェシカが現れて、それからは、この世界で生きていくのが当たり前だと思って行動してきた。


雫とマリナに出会ってからは、彼女達を何とか帰してあげたいという望みも持つようになったが、何の為に生きているのかなんて、考える余裕も無かったのかもしれない。


「なんだい?鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してるよ……驚いたねぇ、何にも考えて無かったみたいだね。」


その言葉に、リュートは首を縦に振るしかなかった。


「しないといけない事はあるんです。勇者は同じ日本からの転生者だから、この世界への迷惑を少しでも減らさないとダメだと思うし、助けた魔族の人達には幸せになって貰いたいし、自分がこの世界に送り出した三人の娘達には幸せになって貰いたいし、できれば雫もマリナも日本に帰してあげたい。自分がしたい事は判らないけど、自分がしないといけない事は、本当にたくさんあるんです。」


もう一度、アリアナは今度は大きくため息をついた。


「難儀な性格だねぇ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ