第二章 39
「生成、炭火用焜炉。拡大、炭火用焜炉。複製、炭火用焜炉。」
まずは一台の木炭を並べて使用する大きめの焜炉を作成し、それを更に拡大することで、直方体の形をしたそれを出現させ、それを更に複製することで、集落の中央にある広場に四台の炭火焼き用焜炉が準備された。
「生成、すき焼き用鉄鍋。」
まずは七センチ程の深さの厚い鉄製の鍋を生成し、それを焜炉に合うように直方体へと変形、拡大し、それを複製することで四台のすき焼き専用焜炉の設営が終わった。
「ねぇねぇ、先輩は何をしてるのかな?」
広場で働くリュートに気付き、マリナと雫の二人が近づいてきた所に、横からサッと割烹着を着たジェシカが割り込んで、両手を広げた。
「神ちゃまは、宴の準備中でちゅ。」
「うわぁ、この子無茶苦茶可愛い!」
マリナが即座にジェシカをハグし、頬擦りすると、そんな事に慣れていないジェシカは、呆気に取られてタジタジとなった。
その横をすり抜けて、雫がリュートに近づくと今度はシュテンが間に立ち塞がった。
「師匠は、今仕事中です。邪魔をしないで欲しいです。」
「師匠?なら私はあなたの兄弟子。共に師匠を支える。頑張る。」
二人は両手でガッチリと握手した。
「雫、マリナ、良いところに来てくれた。これからすき焼きをセットするんだけど、手伝って貰えるか?さすがに村全員分だと、メンバーが足りん。」
「えっ?すき焼き?すき焼き食べれるの?割下や生卵や糸こんにゃくや白菜、見つけたの?マジ?マジですか?えっお麩まであるの?マリナ頑張っちゃうよ~!」
「もしかして、〆のうどんとかもあるですか?」
「おぅ、今日はきしめんを用意した。うどんの方が良ければ、そっちに変更するぞ。」
「きしめんOKです。椎茸はあるですか?」
「バッチリだ!栽培もしてる。」
雫も準備に参加した。
「ジェシカ!飛行船に戻って、エイルを連れてきてくれるか。アカイ君達には申し訳ないけど、留守番お願いしてくれ。」
「イエス、ユアマジェスティ!」
指示を受けたジェシカは、あっという間に姿が見えなくなると、直に白い機体のエイルを連れてきた。
「おい、クズ野郎。なんで私を呼んだでやす。」
「暫く確認してみて、エイルだけなら問題ないと思ってね。一人で食べるより、みんなで食べる方が美味しいだろ。」
「ふん、みんなでデザート食べまくった後で言っても、有り難みが無いでやす……」
「はい、これ。エイルの分を取っておいたよ。ナガノパープルお気に入りだっただろ。」
「そ、そ、そんなので、騙されるほど、エイルは安くないんだからね!」
「じゃ、シュテン食べる?」
「た、食べないなんて言ってない!」
シュテンに渡そうとしたナガノパープルとシャインマスカットで作り上げたパフェを、エイルはしっかりと奪い取った。
「ねぇ、雫。あの白い子もライバルかもね。さっき先輩をクズ野郎とか罵倒してたけど、あんだけ顔を真っ赤にして、幸せそうにパフェを食べてる姿見ちゃうと、ツンデレちゃんかもね。」
「やはり先輩はモテる!でも、希望は見えた!」
ルリは、治療の影響で明日まで目覚めないと思われるので、今回はいつものメンバーに、マリナと雫を加えて、すき焼きパーティーの準備を進めた。
ルリとリトの二人には、明日の朝に『すき焼きうどん』を出して上げることで我慢してもらうことも決まっていた。
ーーー
その晩の村総出の宴は、非常に盛り上がったが、中でも涙を流すほどに感激していたのはアリアナだった。小さい頃、日本に来ると亡くなった祖母が必ず作ってくれたのがすき焼きらしかった。彼女自身もこちらの世界に来て、何度も再現にチャレンジしたらしいが、どうしても似たような味にできなかったらしい。
他に話題を拐ったのはメロンだった。メロンは、この前見つけた畑で栽培していたので今回は、そこまで盛り上がるとは思えなかったが、雫に言わせると、
「私が作っていたのは、スーパーの目玉コーナーのマスクメロン、これは高級百貨店の贈答用果物コーナーで、王様のように飾られているクラウンメロンそのもの!そのくらいの差がある。」
「神ちゃま、私はメロンジュースが飲みたいでちゅ。」
そんなジェシカに、クラウンメロンと牛乳をジューサーにかけ、上にソフトクリームのとぐろを飾り付け、その天辺に大粒のサクランボを飾ったものを出すと、周辺の人間の目が獲物を狩るハンターのような物に変わった。
結局リクエストの嵐が巻き起こり、クラウンメロン生ジュースソフトクリーム添えとナガノパープルとシャインマスカットのパフェは、デザートとして提供された。
「どうして、この神饌に相応しきこのデザートが、さっきのメニューに含まれていないのだ!」
とエルドリッジに問い詰められ、
「これは、うちの子達の定番メニューだから、入れ忘れてた。」
と答えると、
「て、定番……これが定番……」
と言いながら、崩れ落ちていた。




