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第二章 36

エルフの集落の入り口から、使者を務めていた門番に案内され、族長の家を訪問すると、その屋敷に入った途端にスパイスの強烈な匂いが鼻を襲った。


「カレーで正解のようですね(小声)。」


「まぁな、この村から出ないというなら、これが限界かもな(小声)。」


そのまま一行は、面会の間と呼ばれている部屋まで案内され、下座に座り族長を待った。


暫く待っていると、アリアナと呼ばれる族長とエルドリッジという昨日の部隊長が現れ、リュート達が、あわてて姿勢を正そうとすると、アリアナはそれを制した。


「よい、気にするな。楽にせよ。」


アリアナとエルドリッジが並んで上座に座り、エルドリッジが手をパンパンと叩くと、食事を載せた脚付きのお盆が運ばれてきた。


「カツカレーという料理です。お口に合うか判りませんが、ご賞味あれ。」


アリアナがニヤッと笑いながら、皆に食を進めた。リュート達はそれに対して、全員がパシンと手を合わせ、


「「「「いただきます!」」」」


と返した。それに唖然として目を丸くしたのはアリアナだった。


「リュート、私に例のもの出して貰っても良い?あれがないとしまらないんだ。」


「白い方、赤い方?」


「赤でお願い。私はカツカレーは赤の方が良い。」


「「わたし(ち)も!」」


リュートはリングから福神漬けを入れた容器を取り出し、三人の前に置いた。


「申し訳ありません。何分にもお子さまなので、辛い物には甘いものを欲しがるものですから。」


「リュート殿、もしやそれは福神漬けか?」


「さすがアリアナ殿です。よく御存知ですね。御賞味頂けるならお出ししますが如何でしょうか?ご希望ならラッキョウもありますが。」


「すまんが、両方ともに出して貰えるか、久しぶりの味じゃ、楽しんでみたい。」


勝ったと心の中でガッツポーズを決めるリュートだった。


ガラスの容器に入れられた福神漬けとラッキョウから自分の中の分を取り終えると、アリアナは、それらを更に別々の小皿に取り、従者を呼んだ。


「これを隣の部屋に控える雫とマリナに渡してくれるか、彼女達にも懐かしい故郷の味じゃ、喜ぶと思う。」


ちょっと待て、今アリアナは何と言った?懐かしい後輩の名前を呼んではいなかったか?あの子達もここにいるのか?


[神ちゃま、少し動転してるのが顔に出てりゅ]


ジェシカに言われて、リュートはハッと正気に戻ったが、前に座る二人の海千山千のエルフには、全てがバレたと考えた方が良いと判断し、誤魔化すよりも正面から当たることを選択した。


「この福神漬けとラッキョウを懐かしいと思えるということは、アリアナ殿は私と同じ日本からの転生者ないしは転移者と考えても良いのでしょうか?」


直接的な質問に、一瞬身を固くしたアリアナであったが、それに動ずることなく返答を返した。


「日本人かと言われると、純粋な日本人ではない。母方の祖母が日本人で、ずいぶん可愛がられてな、休みとなれば日本に入り浸っておった。」


「御主は、雫とマリナの先輩か?」


「ハイ、日本名は深海龍人(ふかみりゅうと)と言います。」


すると、アリアナは従者を呼び、


「雫とマリナに待ちわびた先輩が来たぞと、伝えてくれるか。それと私の隣に席を設けてくれ。」


「アリアナ様!」


その言葉を聞いたエルドリッジが言葉を荒げた。


「良い、ここからは腹を割って話す。」


従者が部屋から出ていくと、廊下をバタバタ走る音が聞こえてきて、ガラッと横開きの扉が開けられた。


「「先輩!」」


そう叫んで入ってきたかと思うと、そのまま二人で龍人の所へと駆け寄り、抱きつくようにハグしてきて、その勢いに押された彼は、情けないことにそのまま後ろに転倒し、後頭部をしこたま打ち付けた。


「……これは罰か?」


二人は直ぐにジェシカに首根っこを掴まれて、強引に排除されて、正座させられた。


「神ちゃまは、体力ないから当たりどころが悪ければ死ぬこともある。気をちゅける。」


まだ六歳位の幼女に正座させられて、説教を受ける十代前半の少女達の姿は微笑ましかった。


「ほぅ、お前の名前はジェシカというんだね。良い名前だね。」


「わたちの自慢の名前。神ちゃまが尊敬するヒトの機体の名前が由来でちゅ。」


「奇遇だね。昔の我の機体の名前もジェシカというんだよ。」


その言葉が、引っ掛かったリュートは、思わず声を掛けた。


「もしかして、バトジャン、バトル・ジャンキー?」


「えっ?我の名前を知っておるのか?奇遇じゃな。」


「僕のバトルネームは、ドラゴンボーイ、通称ドラ暴です。覚えておいでですか?」


アリアナはその言葉に思わず声を上げて立ち上がり、リュートに駆け寄った。


「覚えておる。覚えておるぞ!あの時、スポンサーの関係で、絶対に負けられない事情があって、申し訳なかったが、自爆技を使ってしまった……そのことは、今でも後悔しておる。」


「こちらこそ、あの時点でその技を考慮できなかった事が自分の未熟です。あれから精進する為の起爆剤となりました。ありがとうございました。」


後輩二人を放置して、両腕で握手したままブンブン上下に振って盛り上がるリュートとアリアナを、周りの人達は目を点にして見守っていたが、ただ一人、ジェシカだけが大きなハリセンでリュートの後頭部を殴打し、話を止めた。


「神ちゃま、みんな引いてりゅ!」


「「あっ!」」

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