第二章 35
「ハイ、飛行船より降りてきたのは、少年一名と、子供と呼んで差し支えない程の少女三名、それに神獣と呼べる程に成長した神狼二頭でございます。」
エルドリッジは、アリアナの反応を確認しつつ、更に話を進めた。
「その一行は、自らを魔皇国シスターセレニアの配下と伝え、魔族の探索、救出の指示を受けていると話しました。それに加えて、魔族はこの世界に配慮する事を止め、既に王国軍二個師団とあの巨大兵器を破壊したと伝えて参りました。これは斥候の報告とも一致しております。」
「魔族が本気を出したということか……しかし、解せん。仮に本気になったとしても、今の魔族にそれだけの力があるとは思えん。やはり、前に話した通り転生者が魔族側についたというのか?で、念写は行ったか?」
「ハイ、こちらに。」
エルドリッジは、アリアナに一枚の念写板を手渡した。写真程ではないが、大まかな特徴を捉えるのには十分な解像度といえた。
「なんだこれは?厨二病の集団か?」
そこには、黒いフルフェイスの鎧を身に纏った三名と、明らかに魔導師と判る一名、それに神狼と思われる二匹が写っていた。
「この神狼は、本来の大きさではないということか?」
「ハイ、変身した後は十メートルを超える巨体でした。」
「このチビの男の左手は義手か……まるでどこぞの錬金術師だな。」
そこで興味を無くしたようで、アリアナは念写板をエルドリッジへと戻した。
「明日は、このメンバーで会うぞ。時間は十二時、場所はこの屋敷の面会の間だ。昼食は例のやつを準備しておけ。度肝を抜いてやる。明日の八時に使いをやれ。」
その場は、これで解散となり、エルドリッジは部下に、明日の八時に今回の結果を伝えるように指示すると自宅へと戻り、地下通路を使用してアンダーレイクへと向かった。定時の報告日ではなかったが、今日の報告を無しにすることはできなかった。
ーーー
翌朝八時に、エルフの使者から正午にエルフの族長の屋敷での会合を伝えられた時点で、リュートは燃えた。
あえて正午を選んだのは、食事でこちらを圧倒する為に、或いは優位に立つ為に、その時間を選んだと考えられた。
これは絶対に負けられないと判断したリュートは、エイルも含め四人を集めた。
「奴らは愚かにも僕に料理勝負を挑むつもりらしい、返り討ちにして、その高慢ちきな鼻を叩き潰してやる。これから皆に朝食の代わりとして、さまざまなメニューを食べてもらう。その中で、これこそ最強を選択してほしい。」
「マスター、奴らの住居は木造でやす。それから出てくるメニューは推測できやせんか?」
「木造と言えば和食となるが、インパクトのあるものと言うと少ないんだよ。この場合は、和食というより日本食と考えるべきかもしれない。」
「ハイ、神ちゃま、私は日本食ならカツカレーとカツ丼が怪しいと思います。」
「それって、単にジェシカの好物じゃん。」
「この世界の人達の間では、どちらも普及していない料理だから可能性はある。特にカレーはスパイスを豊富に使用するので、ルーを作成するのは一苦労だろう。」
「私は天丼も好きです。」
「それはエルフには難しいんだよ。元々村をあまりでないから海とあまり縁がない。」
「待てよ……返しとして、カツカレーには福神漬けを、カツ丼にはお返しとして天丼を準備しておくと良いかもな。大胆に寿司というのもありかもな。握りは難しくても、海鮮丼とかちらし寿司なら準備しておける。」
「私はデザートを要求します。どんな食事であっても、それは別腹です。」
「「「賛成!」」」
「デザートはあまり心配してないんだよ。お前達の要求がかなり厳しいからな。かなりの量の様々なレシピを蓄積してあるし、準備している。いざとなったら、組み合わせも可能だ。」
「クズ野郎!甘いものの話をしていたら、食べたくなったでやす。自分は、その会談に参加しないので、今すぐの提供を要求するでやす!」
「まぁ、それは仕方ないな。準備してやるよ。」
「「「エイルばっかり、ズルい!私達も食べたい!」」」
「お前達は、お昼にたべるじゃないか。」
「それはそれ!これはこれ!」
「お昼に出しゃないものを、出して欲しいでちゅ。」
という訳で、一行は散々デザートを食べてから、エルフの村へと向かった。




