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そんな龍人達に入浴革命が起こったのは、大きくなった白と黒を伴って、初めて周辺の探索に向かった時のことだった。


広場を抜けて、崖に沿う形で西(太陽が沈む方角だったので西と呼んでいた)の方向に進んでいくと、左側には、巨木が生い茂る大森林が広がり、右側には数十メートルはあるであろう崖が聳え立っていたが、その境と思われる進行方向は不思議と平地であり、それほど高くもない樹木や背の高い草が生えてはいるが、密集というほどでもなく、象程の大きさの岩がゴロゴロと転がっており、まるで川原のような光景に見えた。


「今はどうか知らんけど、ここって昔は水が流れてたんじゃないかな?なんかの理由で水が止まって、荒れ地に変わった?そんな感じやん。もしかして、俺ら川原で暮らしてんの?洪水とかヤバいんじゃないの?これ、絶対に上流調べておかないとダメなパターンじゃん!」


そんなことを言いながら、龍人と二匹が数キロ程崖沿いを歩いていくと、少し先の崖が大きく崩れているのが確認でき、崩れ落ちた岩の間にはもうかなり大きな木が生えているのが見えた。状況からは、最近ではなく少なくとも数十年前に崩れたものだということが想像できた。


途中で出てきた猪や角兎や大蛇は、白と黒の狩りの練習にちょうど良く、仕留めた獲物は魔石と美味しい部分の肉のみ確保して、地面に埋めながら、崩れた崖を目指して歩を進めていくと、水の流れるような音が聞こえてきて、少し楽しくなった一人と二匹が、急いで少し高くなった丘を越えると、目の前には、幅が百メートル以上もあるであろう大河が横たわっていた。


「すげぇぇ!」


向かって右側には再び数十メートルの崖が続いており、対岸にも崖が確認できることから、数十年以上前に、ちょうど分岐点であるここで大きな崖崩れが起こって、川が塞き止められて、俺らが暮らしている方へは水が流れなくなり、あの土地ができたと龍人は結論付けた。


しばらくボーッとその川を見つめていた龍人の目がある一点で止まった。


少し先の崖の所から白い煙のようなものが見えていた。


「あのウォンバット人か?」


確認する為に、ゆっくりと音を立てずに近づいていくと、卵の腐ったような独特の匂いが鼻についた。


「……硫黄?もしかして、もしかして、温泉!?」


更に足を進めていくと、崖の途中から湯気を立てるお湯が染み出してきているのが確認できた。溢れ出て来る水は、湯気の量からするとかなり高い温度と思われ、周囲には硫黄の匂いが立ち込めていた。


岩の間に溜まった水は透き通ってはいたが、周囲は白く煙り、かなり高い温度であることが想像できた。


「冷たいのはダメだけど、熱いのはここなら加減できるはず!」


持ってきたスコップを使って、川の方から水を引く為の水路を作り、更に大きめの石を移動させて、湯船になるであろう湯溜まりを広げ、適温になるように、川からの水量を調節出きるように工夫した。


しばらく龍人の傍にいた白と黒だったが、龍人が自分達を気にも止めず、必死に川原をほじくり返しているのを、ただ見ているのに飽きてしまったのか、二匹で川原で遊び始めていた。


龍人がどうにか作業を終えたのは、もう日が沈み始め、空が少しオレンジ色に染まり始めた頃だった。


「よっしゃあ!できたぁ!」


そう言って、龍人は着ているもの全てを脱ぎ散らかし、できたばかりの湯船にドボンと飛び込んだ。


「……あぁぁぁぁ!」


龍人の声に呼ばれるように白と黒が戻ってくると、龍人が大きめの湯船に素っ裸で浸かっているのを見て、二匹は一瞬戸惑う素振りを見せたが、最初に白が飛び込み、少し遅れて黒が飛び込んだ。


「「おぉぉぉん!」」


「よしよし、お前らも気に入ってくれたか!良いだろ!お風呂って最高だろ!」


そう言いながら、龍人が二匹の身体をワシワシと手でブラッシングすると、あまりの気持ち良さに二匹共に目を細め、メロメロになったようだった。


「そうか、そうか、ここがエエんか?たまらんやろ!」


等とエロ爺のように二匹と戯れる龍人は、端から見ればかなり気持ちの悪い存在だったと思う。


そんな一人と二匹が、夢中になって温泉で戯れているうちに、日は完全に沈み、空には満天の星達が輝き始めた。


「ヤバい!これは帰るの無理だな。まだ川も調べ終わってないし、今日はここで野宿するしかないけど、白と黒がいるから大丈夫かな?」


ということで野宿することに決まり、近くの石で簡易の竈を作り、川原で薪を集めて、火を起こし、来る途中で白と黒が狩った猪や角兎の肉を焼き、持ってきたサツマイモを温め直して夕食を食べた。お腹が膨れたら、温泉横に小石を集めて作った作った平場で、寄り添いながら横になると、二匹は疲れたのか直ぐに寝入ってしまい、一人夜空を眺めることになった龍人だった。


「スゴい綺麗な夜空だなぁ。でも、見たことのない星ばかりで、前の世界の星座と全く違うんだよね。天の川みたいな星の集まりはあるから、これが所属する銀河なんだろうけど、ここがどんな異世界かは全く分からないなぁ。もしパラレルワールドみたいな世界なら、星座は似たようなものが見れると思うんだけどなぁ……」


そこまで呟いて龍人は、一つため息をついた。


「みんな心配してるだろうなぁ……元気にやってくれてると良いなぁ……一番可能性高いのは、あのままあのトンネルの中に居続けることだろうけど、食べないと死んじゃうからなぁ……難しいだろうな……それにあの時いた猫みたいなのが、この転移の原因のような気がするんだよね……だったら、ただトンネルにいても仕方ないだろうし……あの後輩君達が巻き込まれてないと良いなぁ……」


龍人はトンネル内の自分が転移した場所に、いつ次元が繋がっても良いように、自分の現況を綴った家族宛の手紙を残しておいた。あり得ないと思っても、残しておかずにはいられなかった。いつか、その手紙が消えていることを願わずにはいられなかった。

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