第二章 32
リュートは、リングからエイルが封じられている真紅の宝珠を取り出した。
「えっ?どうちて、神ちゃまが宝珠をもう一つ持ってるの?」
「多分だけど、エイルが出掛ける前にジェシカの胸の宝珠の隣にスゴく小さな宝珠を添えるように言ったよね。これは、それが成長した姿なんだよ。それ以前のエイルの記憶は全く残っていないから、ここにある宝珠の欠片と構成すれば、エイルのかなりの部分を復元できるんじゃないかな。」
「神ちゃま!お願いしましゅ!エイルも、エイルも生き返らせてくらさい!」
「勿論だよ。」
リュートは、真紅の宝珠をエイルの大きく開いた胸の中に納めて固定した。
「宝珠再生、復元開始、エイル、復活しろ!」
すると、その真紅の宝珠が輝き始め、それに合わせるかのように、周囲に飛び散っていた無色の宝珠の欠片が輝き始め、まるで吸い込まれるようにそれに吸収され始めた。
暫くして宝珠の再生が完了すると、次には周囲に散らばっていたエイルの白い身体が光り始め、その光りはどんどんと輝きを増していった。
光り始めたエイルの頭を、ジェシカが慌てて首の部分に合わせると、胴体から伸びたコードが次から次へとその頭の中へと侵入し始め、何もなかった筈の眼窩にマゼンダ色の光が出現した。
裂けていた口も、ひしゃげていた鼻も、元の形を取り戻し、割れていた頭をほぼ復元し終えると、千切れてグシャグシャになっていた汚れた藍の混じった白髪も、少しずつ伸び始めていた。
更に両腕、両脚の部分にも身体からコードが伸び始め、元の位置へとそれらを誘導すると、それらを元のあるべき姿へと復元していった。そして、八割程の姿を取り戻した時に音声モードが作動した。
【完全復元の為の素材が不足しています】
【素材の供給を要求します】
そんな素材は持ってはおらず、提供することなく様子を見ていた。
【素材が供給されません】
【完全再生モードを停止します】
【素材の量を優先した復活モードを起動します】
【緊急用復活優先回路を起動します】
この時点で、リュートは今後の展開の予想がついてしまった。これはジェシカと同じで、綺麗なお姉さんモードではなく、良くて少女モード、更に素材が足りないようなら幼女モードとなることが確約されたと。
暫くすると、目の前の機体はジェシカの時と同じように強く眩しく輝き始めた。
リュートは胡座の上にジェシカを座らせ、後ろから彼女をハグした状態で、その不思議な光景を一緒に眺めていた。彼女はエイルが復活する喜びと、リュートに抱っこされている喜びで、もうベタベタホニャホニャの状態で、彼にすっかり身体を預けていた。
やがて光が収まり、二人の目の前には、ジェシカより少し歳上で、白い鎧を纏って、銀色に藍色が混ざった髪を後ろに一本に纏めて三つ編みにした八歳位の少女が立っていた。
そして、突然カッと真紅の眼を開いたかと思うと、
「なにジェシカを抱っこしてやがるです!とっとと放れろクズ野郎!」
という罵声を浴びせかけてきた。
あっ、こいつはやっぱりエイルだと納得したリュートだったが、ジェシカはあまりの勢いに反応できず、固まってポカンとその顔を眺めていた。
その白い少女は、リュートの胡座の上に座っていたジェシカを引き抜いて後ろに庇うと、
「ジェシカ!こんなゲスのロリコン野郎は何を考えてるか判らないでやす。これからは身体を手に入れたエイルが守ってあげるでやす。」
と叫び、怒ったジェシカに張り倒されていた。
[マスター、お久しぶりでございます。エイルです。ほぼ死んだ状態で永らく放置されておりましたので、本体の私の意識はまだまだ弱く、身体は分体であるあの子の影響下にありますが、暫くすれば統合されると思いますので、御容赦頂けると嬉しいです。]
[うん。全然気にしなくて良いからね。僕はあのモードのエイルも嫌いじゃないから。時折ムカッとすることはあっても、テンポの良い反応は魅力的だしね。]
[えっ?……まさかマスターには被虐趣味が……]
「こら、もうそろそろ止めろ。歯止めが効かなくなるぞ。」
「でも、神ちゃま、こんな奴はエイルじゃないでしゅ!エイルはこんなにチビじゃないでしゅ!」
「チビがチビって言うでなでやす。わたしは、あんたをゲス野郎の魔手から守ろうとしてたでやす!」
「神ちゃまを、ゲス野郎なんて呼ぶにゃ!」
そんなことを口にしながら、ポカポカ叩き合う白と黒の幼女は微笑ましいとしか表現できなかった。
リュートは二人を宥め透かして、二人の間に入ると、一人一人の手を取り、この遺跡の出口へと向かった。
「神ちゃま!こいちゅはエイルじゃないでちゅ。なんかの間違いでちゅ!」
「ハイハイ(棒)」
「このロリコン野郎、隙を見て私の手を握るなでやす!手が汗ばんでて気持ち悪いでやす!」
「ハイハイ(棒)」
そう言いながらも、けっして手を離さないエイルに呆れ、手を繋いでさえいれば機嫌の良いジェシカに癒されていた。三人で並んで歩く姿を後ろから見た人がいれば、仲の良い家族の姿にしか見えなかっただろう。




