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第二章 31

「ジェシカ、破壊してくれ。」


その言葉で、ジェシカの電磁ブレードが炸裂し、その分厚い鋼鉄製の扉もバターを斬るように容易く切断された。


居住用のスペースとは異なり、自動的に灯りが点ることもなかったので、ライト車を先行させると、通路は汚く、至る所に染みがあり、両サイドには鋼鉄製の棒らしきものが床から天井まで通され、それが奥まで延々と続いていた。


「……檻?」


一つの檻の鉄棒をジェシカに切断してもらって中に入ると、そこには魔物がミイラ化したと思われるようなものがあった。


全くなにもない部屋もあったが、殆んどの檻には一体ずつのミイラを確認することができた。


おそらくは複数の魔物を入れていたが、共食いにより、どの部屋も一体が生き残りミイラ化したであろうことを、リュートが皆に伝えると、二人は複雑な表情(かお)をしていた。


それ以上の発見は何もなく、最奥の扉に到達すると、その扉はジェシカの電磁ブレードさえ跳ね返す程の強度を持った素材で構築されていた。


「めずらしい材質だね。調べてみるよ。」


そう言って、リュートは両手を扉に当てた。


「分析、分解、収納」


すると、扉がキラキラ輝いて少しずつ小さな光に変わっていき、光る雲のようになったかと思うと、突然消失した。


「材質はオリハルコンだけど、それに結界魔法のような魔力を作用させて、組み上げたみたい……」


「アガァァァァァァァァァァ!」


突然、響き渡ったジェシカの絶叫に驚き、全員が身体をビクッとさせて、彼女の方を見た。


「あっ……あっ……あっ」


声にもならない声をあげて、ジェシカが部屋の奥に転がされているものを抱き締めていた。


「エ……エ…エ……エ…イル……」


そこには真っ白な素材で組み上げられた腕や脚が無造作に複数散らばっており、転がっていた胴体と思われる一番大きな塊の胸の部分には、子供の頭程の大きな穴が開いていた。


ジェシカは、左半分が割れて内容が露出している頭を抱えて泣きじゃくっていた。


「許さない!絶対に許さない!」


壁に取り付けられた輪っかには肘から先の左腕がぶら下がり、胴体下部に開けられた穴の影響で、両脚は付け根から外れていた。床に落ちた脚は、それから更に暴行が加えられたのか、歪な方向へと折れ曲がり、右脚は膝の部分で千切れて、離れた場所に転がっており、右腕を探すと、手首の無い状態で他のガラクタの中に混じっていた。


「……ひどい、酷すぎる…」


ルリは口に手を当てて絶句し、シュテンはまともに見ることもできずに両手を顔に当てて踞って泣いていた。


「オ、オ、オオオオオオオオ」


部屋の中に突然、高密度のエネルギーが充満し始めた。


「ヤバい!ジェシカが暴走してる。」


リュートは、ジェシカの所に駆け寄り、エイルの頭を抱えた銀色に光り始めた彼女の身体を後ろからハグするように抱き締めたが、そのエネルギーの奔流は治まることなく増大し始めていた。


「アカイは、皆を守りながら退避!急げ!」


「リュートは!」


ルリの焦った大声に、


「僕は、この子の親だから……」


そう言いながら、リュートはジェシカを抱き締め続け、嫌がるルリやシュテンを退避させた。


「ジェシカ……ジェシカ……聞こえるかい?」


リュートの問いかけにも、ジェシカの興奮は治まらず、エネルギーの放出が止まることはなく、肩を震わし、声をあげて泣きじゃくるその背中は小さくて、おもいっきり震えていた。


リュートはジェシカの前へと回り、エイルの頭を抱えたまま泣き続けるジェシカに、呼び掛ける以外は何も言わず、包み込むように抱き締めた。


「ジェシカ……ジェシカ……」


「こ、こ、殺してやる!」


そう言いながら力を込めたジェシカの手の中にあるエイルの頭がギシッと悲鳴をあげた。


「ジェシカ……そんなに強く抱き締めたら、エイルが壊れちゃうよ……」


その言葉にジェシカは顔を上げ、初めて自分を抱き締めるリュートの顔を見た。


「ジェシカ……」


「マチュター……ううん……か、神ちゃま?」


そう言いながら、彼女は周囲を見回し、半分溶け始めている壁に気づき、自分が高熱を発生させていることに気づいた。


「か、神ちゃま!あちゅくない!大丈夫?」


「大丈夫だから安心してね。このくらいの熱さなんて、この前の時と比べ物にならないよ。ポーションだって飲んでるし。」


そう言いながら、リュートは二十本目のポーションを飲みきった。


「急に身体を冷やすのは良くないから、ゆっくりと少しずつエネルギーの発生をコントロールするんだよ。」


彼に抱き締められたまま、ジェシカがエネルギーの発生を抑え始めると、周囲の熱気は徐々に低下し、溶け始めていた壁や床も、少しずつ固まり始めた。


「エイルだったのかい?」


その言葉にジェシカは縦にコクンと頷いた。顔鎧から覗く髪色は、汚れてはいたが灰色に所々濃紺の混じったものであることが判った。


顔は鈍器のようなもので殴られたように原型を止めておらず、鼻もひしゃげ、口も大きく裂けていた。


「エイルも綺麗に戻してあげないとね。」


「えっ?エイル治りゅの?宝珠が粉々に砕かれてりゅよ。」


驚きに包まれた顔で、ジェシカがリュートを見上げた。


「僕は何者だい?」


「えっ?神ちゃま?」


「神は万能でなければいけないんだよ。」


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