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第二章 28

あの後確認した部屋は、どの部屋も宿舎のような印象を受けたが、どの部屋にも生活感はなく、綺麗に片付いていた。生活の痕跡が残されていたのは、最初にみたあの猫の置物だけだった。


あれからジェシカは、リュートの手を離そうとせず、一言も口を開かなかった。


「ジェシカ、どんな種族であっても、善い者も居れば、悪い者もいる。簡単に言えば、戦争なんて正義と正義のぶつかり合いだ。ただ覚えておいてほしいのは、相手に国として悪いことをすれば、国として罰を受ける。だからこそ、上に立つ者は自国の民が被害を受けないよう行動しなければならない。アルフの民達が、ジェシカの罰を受けなければならない理由は、間違った指導者を選んでしまった罪があるからだよ。それにね、ここで暮らしていた人達は死んでないから、それは間違いないからね。安心して良いよ。」


そこまで言った時に、ジェシカはリュートの腰に手を回して抱きつき、暫くそのままでいると、やがて離れて、ニカッと笑った。


「神ちゃま、ありがと。もう大丈夫。やっぱり大ちゅき!」


ルリとシュテンは、そんな二人のやり取りを目にして、何か思うところがあるのか、複雑な表情(かお)をしていた。


それからエレベータ孔へと戻り、一層ずつ確認を続けたが、十層までの構造はどこも同じで、どの部屋にも生活の痕跡はなく、僅かな遺物しか残されていなかった。


十一層の通路はこれまでの物と異なり、通路にリュート達が現れた途端に、照明が点灯した。


「全員警戒態勢!ジェシカ、ルリ探索を。」


「「反応ありません(ちぇん)!」」


「監視カメラを破壊、自動警戒システムに注意!」


ジェシカが先頭に立ち、他のメンバーが両サイドの壁沿いに待機したが、彼らの前には敵の姿は現れなかった。


一つ目の扉を慎重に開けると、そこは2LDK程の広さの住宅のように見えた。生活感は感じ取れたが、残されているのは食器や雑貨等の生活用品ばかりで、本や日記らしき物もあったが経年劣化しており、内容の確認の出きるような物は残っていなかった。


居住スペースの探索は容易ではあったが、残されている物に必要な情報は見つからず、三部屋程を探索した後にそのフロアの探索は打ち切った。個人のプライバシーを覗き見するような気がして、積極的になれなかったのが一番の原因だった。


そんな居住階が五十階層程続き、地下六十層を過ぎるとエレベーター孔に扉が見当たらなくなった。それから更に数十メートル下降して見つかった扉は、それまでの物と比較にならない程に頑丈で、ジェシカが扉を破壊すると同時に、扉の向こう側からの銃撃があった。


「ここからが本番みたいだね。」


「通路の奥に、三体のアイアンゴーレム。何れも左手にマシンガンが装着されていまちゅ。内、二体には移動用の機能に問題があるようでちゅ。破壊しまちゅか?」


「お願いしても良いかい?」


その言葉と同時に、ジェシカは通路を飛行してあっという間に三体の背後へと移動すると、その首を持っていた刀ではねた。


[制圧完了しました]


「行くよ。攻撃はないと思うけど、周囲は警戒してね。」


「ジェシカ、ありがとね。」


その言葉に、彼女は満面の笑みを浮かべた。何の襲撃もなく、三体の倒れている現場へと到着した彼らは、通常の姿に戻った白と黒は周囲の警戒を行い、残りの三人はさっそくアイアンゴーレムの機体を確認し始めた。


「ジャックやドゥム達みたいに目がないけど、これで見えるの?」


「光学的には見えないけど、目というのは中々に高性能な機能でね。開発が難しかったんじゃないかな。魔力探知や熱源探知の機器だけでは、敵味方の判別ができないから、何か識別装置みたいなのを全員が持っていて、それを持たない動くものや熱を発するものは敵という認識とかにしてあるかもね。その方が作るのに楽だから。」


「表面もツルツルで、どちらかというと錬金術師さんが作るゴーレムに似てますね。」


皇女として学んでいるだけあって、ルリの観察眼は中々に的を射たもので、彼女がゴーレムの胸の蓋を開いて中を確認すると、そこには殆ど輝きを失った大きな魔石が鎮座していた。


「動力源は魔石というか、魔力ですね。」


「そうだね。それに人感センサーやら重火器を取り付けて、自動警備兵として利用していたみたいだね。」


三体をリングへと納め、手前の扉から探索を始めると、そこにはこれまでの居住者用のスペースを五つ程繋げたような部屋があった。


内部には応接室のような部屋を皮切りに、高級ホテルのスイート様の設備やら居室があったが、キチンとした台所用のスペースはなく、食事は何処から運ばれてくるものだと推測できた。


「高級官僚とかのある程度の地位がある人の部屋だね。これと雑居までの部屋を比較すると、かなりの格差社会だったように見えるけど……」


「でも、あるていどの格差は仕方ないのでは……」


「平時はね。ここに避難したということは、既に平時ではないじゃん。こんなに酷い格差をつけたら、一般人からはかなりの不満が出るよ。シュテンは判るだろ?」


その言葉に、シュテンは首をコクンと縦に振って頷いた。


「これからルリが為政者になるなら、平時でなければないほど、そこに気を配らないといけないよ。民があってこその為政者だからね。その辺りは、また細かく説明してあげるね。」


まだ充分に納得した訳ではなかったが、ルリも小さく頷いた。

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