第二章 27
リュート達は周辺の操作から開始した。
「これだけ綺麗な表面で、継ぎ目一つないとは思わなかったわ。」
「でも、意外と大きいんですね。上から見た時は、もっと小さく見えたのに。」
「小さいと神様に見つけて貰えないと思ったんだろうね。」
そんな会話をしながら、その四角錘の周りを回っていると、不意にジェシカが立ち止まった。
「ここ、この裏側に奥へと向かう通路がある。」
「ウソ!全く判別できない。」
「ジェシカ、やれるか?」
「大丈夫。任ちぇて。」
そう言うと、ジェシカは背中から二本の刀を取り出し、構えたまま力を注いでいき、刀が黄金色に輝き始めるのと同時に、二刀を順に振り下ろした。
「終わった。」
そう言って、ジェシカが右拳を壁に打ち込み引き抜くと、そこには奥へと向かう通路が現れた。
「相変わらずの規格外ね。」
ジェシカの物理的攻撃力の凄まじさに感心しつつ、四人は通路の中を覗き込んだ。
通路には灯り一つなく、真っ暗な闇が奥へと続いていた。
「普通は、人が来たら、勝手に明るくなったりするんじゃないですか?」
「ダンジョンにはそんなシステムが組み込まれてるけど、ここは違うからね。それに正規の入り方でもないし。」
そう言って、リュートは、リングから車台に多くのライトを取り付けた二台の車を取り出した。
「ジェシカには、暗視装置が装着されてるし、熱源探査機能もあるから、暗闇でも心配ないけど、僕達にはただの真っ暗闇だからね。こんなこともあるかもと準備しといた。ルリの光魔法もあるけど、魔力は温存しといて貰いたいしね。」
まるで真昼のように照らされた通路を探ると、何ヵ所かに監視カメラのような物があるのが判り、リュートとシュテンのライフルがそれらを撃ち抜いて排除した。
「もう無いようだね。ジェシカには先頭をお願いするね。」
「イエス、ユアマジェスティ!」
四人と二匹が、監視カメラを破壊しながら、周囲を警戒して通路を百メートル程進んだ所に、両開きの扉があり、右横には下層を示すボタンのみがあり、明らかに下層へと向かうエレベータだった。
動力源が機能していないので、ジェシカに扉を強引に開けて貰うと、そこには空の小さな部屋があった。
「ジェシカ、天井に作業用の点検孔があるから、そこから上に出て、この部屋に繋がっているケーブルを切断してくれる。」
その指示を彼女が実行すると、目の前でその部屋は下層へと落下していき、数秒でそこに当たったような大きな音が聞こえてきた。
「最低でも百メートルはあるな。」
「えっ?どうして判るの?」
「簡単な計算方法があってね。掛かった時間から距離を計算することが出きるんだよ。また教えてあげるね。でも、ジェシカがいれば、その必要もないんだけどね。」
ポカリと開いた縦穴から、ジェシカが戻ってくると、
「ジェシカ、どのくらいの深さがある?」
「二百三十五メートルでちゅね。」
「じゃあ、降りるよ。ルリは飛行魔法で、僕とシュテンは装甲に装着されているスラスターを利用して、白と黒は小さくなってくれるかな。」
子犬の姿になった白と黒を、リュートとシュテンがそれぞれに抱っこしながら縦穴を百メートル程降りていった。
「神ちゃま、ここに扉がある。」
「破壊しろ。上層から虱潰しに探索したい。」
ジェシカが扉を破壊し、通路へと侵入した後に先程のライト車を展開すると、通路は真っ白で両サイドには多くの扉があった。
「白と黒は、前方を警戒。ジェシカ、開けろ!」
リュートの言葉に、ジェシカが扉を破壊して内部へと侵入しても、中からの反応は何もなく、中にはライフルやマシンガン、剣等の無数の武器や、ヘルメットや鎧といった防具が無造作に並べられていた。
その向かい側にある扉を開けてみても、中には武器や防具などしかなかった。
「どう見ても、武器庫だな。なんでこんな場所にあるんだろ?」
合わせて四部屋の武器庫の確認を終わり、そこにあった武器は、高性能な物ではなかったが、今後誰かに悪用されることも考慮して全て確保した。
「熱源も罠も無いようですね。」
そう言って、ルリが隣の部屋の扉を開けた時に変化が起こった。
[お帰りなさい!]
全員が戦闘態勢を取り、銃を構え、刀を抜いた。
しかし、その後の反応がない為にライトアップした部屋に足を踏み入れると、そこには四つのベッドと四つと机と椅子、チェストがあった。
そのうち一つのテーブルの上でチカチカ輝く猫のような人形があった。
シュテンがそれを手に取ると、
[おはよう。今日も元気に頑張ってね!]
カチッ
[いつまでも待ってるからね!]
カチッ
[カ……イ…ン……ブーーーーーー]
だれも口を開かなかった。古代人は古代人で生活があり、家族があり、愛があった。それが判った瞬間だった。




