第二章 26
「はい、皆様、昨晩は良く眠れましたか?ちなみに私は一睡もできませんでした。」
目の前に隈を作ったリュートが、腫れぼったい目をしたルリやシュテンを前にして、少しハイテンション気味に朝の挨拶を始めた。
「今日は、目の前の軍事基地と言われている古代文明の遺跡をどうするかについて議論したいと思います。」
「もちろん、ぶっちゅぶす!」
「ジェシカさん、それは既に決定事項ですので、いかにしてぶっ潰すかを相談しています。」
ジェシカがえっという驚いた顔をして、周りの皆の顔を見回すと、そのジェシカの視線に、ルリもシュテンも頷いて同意の返事を返した。
「……みんなぁ(ウルッ)…」
「私としては、まずは情報を集めたいです。ジェシカに確認したいのですが、侵入するのは容易だとしても、中には防衛機器、例えば罠とか迎撃システムは存在するのですか?」
「ルリさん、良い質問ですね。システムが機能しているかいないかは別として、それを確認することは大事ですね。それでは、ジェシカ、お願いします。」
「う~ん、わたちは軍事基地見ちゅけたら、中の人達がいるとかいないにょに関わらず、外からレールガンとか、ビームとか、高性能ミチャイルでボカーンとしてたから、中のことは判らないかにゃ……」
絶句である。強さのレベルが桁違いだということを、ここにいるメンバーは忘れていた。
「ねぇ、中にエイルが捕まってるかもとかは考えなかったの?」
「念話が通じない時点で、回復モードの休眠状態ににゃっているはじゅだし、わたちごときの攻撃で、マスター作成の装甲が壊れるとは考えられにゃいから、そこは考える必要はにゃかった。というか、考えもしなかった。」
ダメだ。やっぱりジェシカだ。脳筋だ。と、そこにいるメンバーは実感した。
「それじゃあ、僕の考えた方法を説明するね。」
「「「賛成!」」」
「へっ?違うだろ!ここはみんなでそれについて意見を出し合う場所だろ。」
「私は、頭脳戦でリュートに勝てる気がしない。」
「私には、そもそも作戦を立てる頭がない。」
「わたちは、神ちゃまの言う通りでしゅ!」
「はぁ!」
リュートは大きく溜め息をついて、今回の作戦についての大まかな注意ポイントから説明し始めた。
「まずはジェシカ、君の能力ならあの建物のかなりの部分を透視できるだろ。簡単に説明してくれるかな。」
「イエス、ユアマジェスティ!まずは頂上に近い部分には何もなくて、分厚い壁だけがあります。サイドの壁もかなり厚くて、 あの四角錘そのものが頑丈な鋼でできた山みたいなものです。」
彼女は自信満々に無い胸を反らしながら、堂々と答えた。
「ジェシカは、あんな基地を見つけたらどうしてたの?」
「上から高熱のビームぶちゅけて壊したり、電磁ブレードで斬り裂いたりちてた。」
「その時に、地下まで破壊した?」
「はっ!ちてない……」
その顔には今気づいたという驚きが含まれていた。
「たぶん、建物は上空からの単なる目印で、あの地下には避難所や研究所なんかの居住施設があるんじゃないかな?そんな気がする。」
そのリュートの説明に驚いたのはルリだった。
「えっ?じゃあ、リュートは古代人がまだ生き残ってるって言うの?」
「まさか、人は生きる為には食事をしないといけない。あそこでは、多くの人に必要な食糧を手に入れることは難しいんじゃないかな。」
「手に入れる方法は有るわ。例えば、あそこにダンジョンがあって、中に草原や湖や海のフィールドとかがあれば、農業や酪農や漁業もできて、水にも困らないってことにならない?」
ルリの言葉は、リュートにとっては非常に意外なものだった。
「えっ?でもダンジョン内の動物や魔物は死んでも肉を残さないでしょ。」
「残さないわ。でも、外から持ち込んだ作物や家畜はどうかしら?ダンジョン内の魔物と同じ様に吸収されてしまうと思う?」
「確かに……それが可能なら、今でも生存していてもおかしくはない……」
すると、それまで口を結んでいたシュテンが自ら意見を述べた。
「殲滅の魔天使と怖れられたジェシカさんへの恐怖が強かったら、それは代々言い伝えられる度に強化されますから、神様が、この場合はフレイヤさんですが、迎えに来るまで引きこもるような気がします。」
「それじゃあ、生き残りがいることも含めて慎重に探索を進めることにしよう。明日は朝早くに出発するから、各自支度しておくように。」
その言葉を合図に皆が席を立ったが、
「お弁当もかなりの量を収納リングに入れて持っていくから、デザートとか希望があったら言ってね。」
というリュートの言葉に、三人と二匹は彼に群がった。




