表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/100

7

「こいつらの大きさからしたら、牙も生えてきてるし、もう一ヶ月は過ぎてるだろうから、そろそろ離乳の時期だろうな……」


そう考えた龍人は、加工していない余っていた肉を取り出すと、包丁で叩いてミンチにして、温めた母乳を掛け、二匹の前に出してみた。


二匹はしばらく匂いを嗅ぎ、様子見でパクリと口にしたが、すぐにペッと吐き出し、前足を上手に使って、お皿を龍人の前の方に戻してきた。


「ダメかぁ。内蔵とかの方が良いんだろうか?でも、もう棄てちゃったしなぁ。まぁ考えても、どこからか出てくるわけでもないし、取りあえずは自分も簡単に食事を済ませちゃおうかな。挽き肉も余ってるからハンバーグにでもしてみるか……」


そんな独り言を呟きながら、最近はまっている猪の大腿の骨や、背骨や肋骨を使って作った似非豚骨スープを温め、挽き肉を丸めて手の平サイズにし、ガス抜きしたものを鉄板の上で焼き始めた。あれからサツマイモだけでなく、ジャガイモ擬きも見つけたので、今日の主食はジャガイモをふかしてみた。


二匹は、龍人のしていることに興味があるようで、調理中もしつこくカランで叱られていた。


「よし、できた。」


そう言って、龍人が食事を始めると、また食事を貰えるかもと考えたのか、二匹が争って彼の口元に口を寄せてきた。


「これは生じゃないから、お前ら無理だろう。」


と口にした龍人だったが、まぁ試してみるか位の軽い気持ちで、口の中で温くした豚骨スープを上げてみると、二匹共に一瞬キョトンとした表情をしたが、吐くことなく呑み込んでいた。


「ほらぁ、口に合わなかっただろ。これは俺の食事だよ。」


と、龍人が豚骨スープを再び口にすると、二匹がさっき以上の興奮で、龍人の口元に群がった。その後は、龍人が自分の分のスープを味わうこともできず、準備したスープは、全て二匹のお腹の中に消えていった。


「まさか豚骨スープ飲むなんてな。ビックリクリクリだよ。」


空になった皿を置き、少し冷たくなったハンバーグを食べていると、再び興味を持ったのか、白いのが龍人の口元に口を寄せてきた。


まさか、これは食べないだろうと思った龍人が、口の中でモグモグしていた肉を口移しで食べさせてみると、白いのは目を大きく見開き、龍人を押し倒すような勢いでもっともっと欲しいと催促してきた。


それは見ていた黒いのも、それが極上の食べ物だと判断したのか、お腹が膨れて満足していたにも関わらず、負けじと龍人に迫ってきた。


「え~っ、お前らこんなん食べてたら、絶対に野生に戻れなくなるぞ。」


そんなことを言いながら追加のハンバーグを焼き、結局二匹が満足するまで口移しで食べさせてやる甘々の龍人だった。


もう十分だろうと判断し、今日はジャガイモで我慢するかと、横に置いていたお皿をみると、そこに既にイモの姿はなく、おそらく二匹が隙を見て食べてしまったのだろうと推測された。


「こいつら、ゼッテェ野生に戻れないな!」


後になって、彼がこの世界で二匹と一緒に生きていこうと決断したのは、まさにこの瞬間だったと語っていた。


ーーー

それから二ヶ月程が経過し、子狼達も大きくなり、今では体長五十センチを超え、口移しで食べ物を与えることもなくなっていた。


ただ、相も変わらず食べるものは、龍と同じものを欲しがり、生肉などは全くと言って良い程食べようとしなかった。


一般的には、玉ねぎ食べると犬は溶血性貧血を起こすとか、果物は良くないとか、デンプンは消化できないとか言われていたが、龍人の家では、鶏肉は割けて刺さるから骨無しをあげる以外は、殆ど家族と同じものを食べていたので、子狼達が生肉を食べなくても、彼はあまり心配していなかった。


「白、黒!狩りと採集に行くよー!」


二匹の名前は、見た目通りの安直な名前がつけられていたが、二匹共にその名前を気に入っているように見えた。


龍人とじゃれあいながら、一人と二匹がトンネルを出ると、その前の広場は、五十メートル四方の部分で、背の高い雑草は殆ど刈り取られており、耕され、ジャガイモやサツマイモだけでなく、その後の探索、採集で見つかった小麦、大豆、トマト、きゅうり、なす等が、所狭しと栽培されていた。


龍人にとって幸運だったのは、山芋を探しているときに、胡椒を見つけることができたことだったかもしれない。それで彼の料理の幅はかなり広がった。


塩はトンネル奥にあった壺に、そこそこの量が残っていたが、これからは海が近くにないので、岩塩とかを探すことが大きな課題として残っていた。


畑には、猪や角兎が餌を求めて姿を見せることも多かったが、それらは龍人が対応しなくても、白と黒がまるで遊んでいるかのように簡単に仕留めてトンネルまで運んできてくれるので、この共同体の貴重な蛋白源は全く不足することがなかった。


ただ、最初の頃に見たウォンバット人のような亜人には、全く出会うことがなかった。


日本人として、忘れてはならないのは入浴の習慣である。沸かしたお湯で身体を拭くのは当たり前だったが、何とかできないかと、龍人はいろいろと工夫していた。


最初に考えたのは、石鹸の自作だったが水酸化ナトリウムを保存する手段が、トンネルに転がっていた一升瓶しかなく、作業の為の道具がないばかりか、水酸化ナトリウムを手に入れるための原料もないことから、いまだに試行錯誤の状態だった。


食塩水をソーラーパネルを使って電気分解しても、得られた水酸化ナトリウムが塩化水素と反応してしまうため、十分な量が得られず、水銀が見つかれば、水銀を電極にして作ることが可能になるはずなのだが、それも見つけることができなかった。


脂肪酸を分解してグリセリンを手に入れることができれば、グリセリンソープを作ることができると考え、現在はラードに、すりつぶした猪の膵臓らしきものを水に溶かして加え、グリセリンが手に入るかどうかの実験を繰り返していた。


それまでの間は、洋服の洗濯にも使えるので、薪を燃やしてできた灰に水を加え、濾過することで得られた灰汁を使って、身体を洗い、お湯で流すことで対応しようと考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ