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第二章 25

エイルが出ていってから既に一年が過ぎていた。


帰ってこないエイルを心配して、一ヶ月を過ぎた辺りから何度も念話を送ったが、誰からも返事はなく、すぐにでも飛び出していきたい気持ちもあったが、私達にはマスターがセットしてくれた自動回復機能がある。例え、どんなに酷い行動不能状態になったとしても、三年もあれば完全に回復できるという過信もあり、イライラしながらトンネルで待機していた。


そんなある日の朝、一人で朝食を取っていると、突然の破壊音がトンネルに響いた。私が慌ててトンネル出口まで出て来ると、私達とマスターの畑や田圃や牧場の至る所から火の手が上がり、アルフの種族の軍隊が壁を次々とよじ登って来ていた。


不思議なことに城壁の防衛機能は全く稼働しておらず、目の前には万にも届くであろう武装兵士が、フレイヤが授けたであろう武器を手にして破壊を続けていた。


私は、目の前の光景が信じられなかった。私達とマスターとの聖域が、こんな野蛮な奴らに蹂躙されるなんてあり得ない。そんな考えばかりが頭をぐるぐる回っていた。


そんな私の目に、正面の城壁に立つ男が一本の杖を手にして、兵を鼓舞しているのが映った。その男が手にしていたのは、エイルがマスターより送られた宝物、寝る時でさえ手放さなかった『アスクレピオスの杖』だった。


目の前が真っ暗になり、私は即座に全ての武装を解除して、ウガツ君のプロトタイプの携帯用レールガンでそいつの頭を撃ち抜いた。


かなりの数の防御結界を張っていたようだったが、私の前では紙切れ同然で、そいつの頭は一瞬で蒸発し城壁外へと落ちていった。上空から急降下するフレイヤらしきものの姿が目に入ったが、もはやどうでも良く、あいつは敵だと認識した。


その後、ものの三分で侵入していた万を超えていた軍隊や、周辺に待機していた十万近い兵士達を蹂躙し、私はアルフの国を殲滅するために飛び立った。容赦などする必要もなく、ただ破壊するだけで良かった。


その国の主要な都市を殆ど破壊しつくし、トンネルへと戻ってきた私を待っていたのは、全てを持ち去られた空っぽのトンネルで、唖然として固まった私を襲ったのは、複数の原爆が重なって発される一万度近い焔だった。


さすがの私の身体装甲も表面が溶けて動けずにいると、熱の影響で視界を失った私に誰かが近づいてきた。


「私にも原爆くらいは作成できる能力はあるのよ。それにね……」


彼女は私の胸の装甲を開き、自動回復機能に細工をしたように思えた。


「作ることはできないけど、マスターの創った物でも壊したり加工することはできるのよ。」


「……エイルにも同じ事をしたの?」


その質問には答えることなく、フレイヤらしき者は出ていった。それを追うこともできず、私の意識は闇の中に沈んでいき、気づいた時には、元の姿からはほど遠い存在の私の姿があった。それからも戦い続けたが、その頃の私の記憶は殆ど残っておらず、虫食いだらけで、気づいた時には、私の前には神ちゃまがいた。


ーーー

目の前で、ジェシカがポロポロポロポロ涙を溢して泣く姿があまりに愛しくて、リュートはジェシカを抱きしめ、頭を優しく撫でていた。ルリやシュテンは、ジェシカの話にどう答えて良いのか判らず、ただ戸惑っていた。


そんな静かな時間が過ぎていき、ジェシカはリュートに抱っこされたまま寝息を立て始め、他の二人も自分の部屋へと戻って、明日に備えることにして解散となった。


リュートは、ジェシカを自分のベッドに寝かせ、その隣でロッキングチェアーに座り、彼女が語ってくれた話を思い起こしていた。


おそらくフレイヤというのは、今の勇者の傍にいる女神で間違いないと不思議と確信できていた。


この世界がおかしくなったのはその女神のせいだと言うなら、そしてその女神を創ったのが自分だと言うなら、製造者責任という言葉が、この世界にあるかどうかは判らないけれど、多かれ少なかれ自分にも責任があるわけで、無関心というわけにはいかないし、相手も自分とジェシカのことは放ってはおけないだろうなと、そんな事を考えていたら、夜が明け始めていた。


「それに……」


リュートはリングから深紅の宝珠を取り出した。


「医療に携わる神の名前に因んでエイルという名前を付けたけど、まさかね……いや、きっと元の名前だよね。ジェシカの隣に置かれた小さな小さな宝珠……それが君の分身だったんだよね。エイル……そうだろ……」

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