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第二章 23

私達は、途方に暮れるしかなかった。


私達三人が立っていたのは、トンネルの中ではあったけど、岩肌のゴツゴツしたどこにでもある洞窟の様に見えた。


フレイヤの抱いていた猫型の魔物は既に姿を消しており、ウガツ君も洞窟の中には見当たらなかった。


もちろん念話を飛ばしても、どこからもマスターからの返事はなく、私達は命より大切なマスターを消失した。


その衝撃に打ちのめされたまま、私達がトボトボとトンネルを抜けると目の前には原生林が広がっており、懐かしい畑も田圃も牧場も無く、喪失したものの重さに、私達三人の眼から涙が流れて落ちた。


ここが未来であるのか、過去であるのかを探るために、私達は凍湖の対岸にある『始まりの神殿』に向かうことに決め、全速力で対岸へと到達したが、そこはただ岩場が広がるだけで、建物が立っていた痕跡も見つけることができなかった。


「魔族がこの地に来てから一万年弱が立っていたから、この世界はそれ以上の過去ということだね。じゃあ、私達のすることはマスターを待つことだけだね。」


「少し気になることを言って良いかな?」


「なに?」


「私達が飛ばされる前に、マスターの姿が消えたような気がする。」


「……マスターがどこに飛ばされていても、あの時代にはそこにいる。私達は待っていれば良い。」


幸いにも、私達は歳を取らない、マスターが作ってくれた自動回復装置も機能しているし、医療・修理担当のエイルもいる。ここが過去であるならば、待っていればマスターは現れる。その時の私達はそう思っていた。


時間というものは時にひどく残酷なことをする。


トンネル前の広場を開拓し終え、過去に栽培していたものの殆どを再現し、香辛料や果物なども含めて自作できるようになるまで、百年もかからなかった。トンネル内の自宅も、なるべく忠実に再現し、細部にもかなり拘っても、更に百年程が経過しただけだった。


私は余った時間の全てを時を超える魔道具の開発につぎ込み、エイルは私達が所有するマスターの遺伝子情報からのマスターの再生に取りつかれていたので、時間などはどんだけあっても構わなかったが、フレイヤは違った。彼女には変化のない毎日がかなり苦痛になっていたのかもしれない。


ある日の朝、畑の手入れをしていたら見つけたと、フレイヤがまだ乳飲み子の赤ん坊を拾ってきた。


「それ、どうしたの?耳の形から推測するとエルフの系列だよね。早く、親を見つけて返してきなよ。」


「一度捨てたなら、戻してもまた捨てられるし、下手したら殺されちゃうよ。」


「じゃあ、フレイヤはどうしたいのよ?」


「育てちゃダメかな?私が面倒見るから。」


「はぁ?どこで育てるつもりさ。ここはマスターと私達の聖域だよ。子供なんてすぐに大きくなるから、出ていった時に私達の情報漏らしたら、それこそ大変なことになるよ。ペットとして魔物を飼うのとは訳が違うよ。」


この頃のフレイヤが、畑の外で魔物を餌付けして可愛がっているのは、残る二人にとっては周知の事実だった。


「今のジェシカの意見には、私も同意するわ。ここにはこの時代にない先進的な文化や道具、魔法が山のようにある。この時代の人間にとっては毒にしかならないわ。」


私達二人の反論にフレイヤは折れ、子供を抱いて、トンネルの外へと出ていった。


でも、彼女は赤ん坊を捨てることに決めたのではなく、この聖域で赤ん坊を育てることを諦めただけで、畑の外側に自分の生産スキルを使って隠れ家のようなものを作り、そこでそのまま子育てを続けていた。


思えば、この頃が私達が道を違えた瞬間だったのだと思う。

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