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第二章 22

「フレイヤ、マスターの紅茶が冷めちゃったよ。お代わりお願いね。」


「了解、ダージリン風の茶葉でミルクティで問題なし?」


「もちろん、紅茶とミルク半々で、砂糖マシマシね。」


「ジェシカもそれでお願いします。」


「て言うか、お前も自分で作れよ。お前ばっかりマスターの隣に座ったままなの、ズルすぎるだろ!」


「ジェシカに組み込まれているのは、戦闘系以外のスキルは、作業補助の為の秘書系のスキルばかりで、調理系のスキルは空っぽですから。彼女が作ったものをマスターに食べさせるわけにはいきません。」


「それ覚えようとしないだけだろ。エイルはジェシカに甘すぎるよ!」


「でもね、ジェシカが無理して作った料理や飲み物より、生産と家事担当のフレイヤが作った料理の方が、圧倒的に美味しいのです。」


「……ふん」


今日も、私達とマスターの穏やかな日々が続いていた。


トンネルの中は、改良に改良を施されて、照明の魔道具や高潮の魔道具が多用されており、今は高級ホテル(まだ見たことはない)のような快適な空間になっていた。


トンネルの外には、稲や麦、芋や玉蜀黍(とうもろこし)などの穀物を始め、たくさんの野菜が所狭しと栽培され、牧場には牛乳や食肉用の牛、卵や食肉用の鶏、食肉用の豚が大きな牧場内にそれぞれ放牧されていた。


畑や牧場では、無数のゴーレムが作業に従事しており、周囲を取り囲む高い塀には、防衛用の自動迎撃兵器が多数並んでおり、魔物やそれ以外からの襲撃に備えていた。


一度マスターに、他の人間や魔族、鬼やエルフといった種族と交流をもったりしないのかと、興味本意で尋ねたことがあったが、その時のマスターは少し哀しそうな顔をして、もう、それは十分過ぎるくらい体験したから、今は必要ないんだよと返された。


あの時のマスターは、思わず抱きしめてしまいたくなる程に儚げで、今にも消えてしまいそうに見え、その時の私は後悔で胸がいっぱいになってしまった。それからは、三人で相談して、それに関連する話題はタブーとすることに決めた。


「フレイヤ、この前に星を堕とした巨大なレールガンだけど、暫くは使う時ないと思うんだ。三人で片付けてくれないかな?奥の倉庫に入れて置いてくれれば良いから。」


そんなマスターの言葉を聞いて、フレイヤは哀しさと怒りで身体を震わした。


「どうしてマスターは、あんな自分勝手な奴らの為に、この星を守ってあげようとするの?あんな奴らなんてどうなったって良いじゃん。私達なら、どんな環境でも生きていけるよ。あいつらなんて一度滅べば良いんだよ!」


そんなフレイヤの言葉を聞いて、マスターと呼ばれる男は、哀しそうに眉を寄せた。


「確かに、今の人達に生きる価値があるかと言われると、僕にも正しい答えを出すことができないよ。でもね、古い友人達と約束したんだ。君達がいなくなっても僕が替わりにこの世界を護るからと、僕は彼女達との約束を破りたくないんだよ……」


「うちのマスターはお人好し過ぎるよ。まぁ、そこが魅力でも……」


「フレイヤ!抜け駆けはズルい!」


「そうですね!それは私も許せませんわ!」


マスターの穏やかな笑顔と仲間達との楽しい時間、それがその頃の私の全てだった。


ーーー

「超巨大レールガン、なんか殺伐とした名前だねぇ。」


「愛称付けようか。『星も砕くよ君』どうでしょうか?」


「エイルは何でも出来るけど、センスは最低だね。」


「じゃあ、フレイヤはなんか良い案があるのですか?」


「う~ん、 バス・バスーンとかはどう?」


「それって、この前の発射音だよね。ダサ過ぎる。」


「そこまで言い切るなら、ジェシカには当然みんなを納得させる名前が浮かんだんだよね。」


顎に手を当てて、少し悩むポーズを見せながら、ジェシカが答えた。


「エイルの名前に近いけど、『星さえ穿つもの』というのはどうかな?」


「「……」」


「ジェシカにしては、良い名前じゃん。気に入った。」


「私も異論はありませんわ。」


「よし、今日から君の名前は『星さえ穿つもの』で決定ね。よろしくね!」


そんな話をしながら、ウガツ君(結局略す)をリングに収納し、トンネルの奥へと三人で向かった。


その途中で、急に大地の震える音が聞こえ、微妙な震動が足から伝わってきた。


「きゃっ!地震?珍しいねぇ。」


その程度の揺れに動じる私達ではなく、そのまま奥へと足を向けていると、私達の背後からマスターの呼ぶ声が聞こえてきた。


「……れ、…ど…」


「言葉にしないでも、念話が通じること忘れてるよね。」


[マスター、どうしましたか?]


「あっ!猫ちゃんだ!猫ちゃんがいる。こんな所に珍しいねぇ。どっかから迷い混んだのかな?」


そう言いながら、フレイヤが尻尾の二本ある白の中に銀色の毛が混じった大きな耳の猫型の魔物を抱えあげた。その時になって、やっとマスターが私達の視界に入ってきたが、その時のマスターの顔を私は消滅するまで忘れないだろう。


「そ、そいつに触れ……」


目の前でマスターが消えた。私達に右手をおもいっきり伸ばし、普段の穏やかな顔からは信じられないくらい必死な表情(かお)を、私達のメモリーに残したまま、マスターが消えた。


そして、私達の長い旅路が始まった。

次回の投稿は、5月15日の午後になります。

今後とも何とぞよろしくお願いします。


☆☆☆☆☆での評価は、本人のヤル気に繋がりま

すので、可能であればお願いします。

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